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【内閣支持率】いったん底を打つものの、疑惑は晴れず

安積明子政治ジャーナリスト
衆参予算委員会集中審議で、いささか疲れ気味の安倍首相(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

明るさは見え始めたのか

 ゴールデンウイーク前に吹いていた“安倍おろし”の風は、連休後にはすっかり止んでしまった。そのせいだろうか。各社が行った5月の世論調査では、内閣支持率は下げ止まった感がある。NHKの調査では支持率は38%で前回と変わらず、不支持率が1ポイント減の44%。共同通信の調査では支持率は1.9ポイント増の38.9%で、不支持率は50.3%で2.3ポイント減。いずれも前回と同様に不支持率の方が高いが、安倍政権にとって一息ついた状態だ。この数字を下回らない限り、9月の自民党総裁選での勝利は見えている。6月12日の米朝首脳会談では、盟友のトランプ大統領がなんらかのプレゼントをくれるかもしれない。

 しかしながら、森友・加計問題は終わっていない。5月10日に衆参両院で行われた柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人招致では、様々な矛盾が露呈した。

矛盾に満ちた柳瀬氏の答弁

 まずは加計学園関係者との面談だ。柳瀬氏は愛媛県メモとして記録された2015年4月2日の面会の他、同年2月か3月、そして6月の3回にわたって官邸で会っている。これについて柳瀬氏は「アポがあれば反社会的ではない相手なら誰とでも会う」と述べたが、多忙を極める首相秘書官がセキュリティの厳しい官邸で同じ当事者と何度も会うのは異例中の異例だ。しかも今治市が国家戦略特区に申請したのは同年6月4日なのに、柳瀬氏は面会記録を残した愛媛県職員ばかりか、特区申請当事者である今治市職員についてすら記憶がなかったという不可解さ。無理やり首相を問題から切り離そうとするから、不自然にならざるをえないのだろう。

 これには愛媛県の中村時広知事が翌5月11日の会見で県職員が保存していた柳瀬氏の名刺を提示し、「職員は子供の使いではない」と柳瀬氏を強く批判。「職員に代わって国会で証言していい」と意気込んだが、与党の反対で実現しなかった。

首相の主張がころころ変わる

 そもそも安倍晋三首相が加計学園が国家戦略特区として獣医学部新設を申請したことを、「2017年1月20日まで正式に知らなかった」と主張したことが原因だ。だが安倍首相は昨年6月5日の参議院決算委員会で「国家戦略特区に申請された時に承知した」と述べ、16日の参議院予算委員会では「構造改革特区で申請したことについて承知していた」と明言。ところが7月25日の参議院予算委員会では「提案者は今治市」「事業主体の説明がなかった」として16日の答弁を撤回した。そしてその前日の衆議院予算委員会では、「(加計孝太郎理事長から)獣医学部を作りたい、さらには今治市にといった話は一切ない」と述べ、「(加計学園の獣医学部申請を)知りうる立場にあったが、具体的な説明がなかった」と“関与”を否定している。

 しかし今年5月14日の衆議院予算委員会集中審議で、国民民主党の玉木雄一郎代表の質問に対し、安倍首相は「構造改革特区の時は今治市・加計学園しかなかった。京産大はまさに最近だ」と関与を示唆。首相の言い分はめまぐるしく変わっている。

そもそも政府は2017年4月28日に、社民党の福島みずほ参議院議員の質問主意書に対して加計学園が獣医学部新設の候補であることは2007年11月に今治市から提出された資料に記載されており、それが安倍首相を本部長とする構造改革特別区域推進本部で対応方針を決議したことを明らかにしていた。

ではなぜ安倍首相は「2017年1月20日まで知らなかった」と言ってしまったのか。森友学園問題でも、なぜ「私と妻が関与していたら、総理も議員も辞める」などと啖呵を切ったのか。

党内では批判の声も

「森友学園問題では昭恵夫人が不正を働いたわけではない。加計学園問題でも、加計孝太郎理事長から安倍首相に金銭の授受があったわけではない。最初に事実を認めれば、いずれも1か月程度で終わった問題だ。なぜ余計なことを言ってこんなにややこしくしてしまうのか」

自民党の中には安倍首相の言動に疑問を抱く議員は少なくない。初動を間違えたために公文書改ざん問題が発生し、近畿財務局からそれが原因と思われる自殺者まで出た。そしてこれらの問題は、支持率低迷に喘ぐ野党の格好の攻撃材料になっている。

内閣支持率の低下はひとまず止んだが、反転したわけではない。安倍首相の関与を否定した柳瀬氏の国会答弁には共同通信の調査では75.5%、NHKの調査では79%が「納得できない」と答えている。信頼という基礎を欠けば、国民と政治家の関係は非常にもろくなる。それを忘れれば政権はいつでも、砂上の楼閣になり果てている。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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