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【平昌オリンピック】米朝女性対決 勝ったのはイヴァンカ氏か与正氏か

安積明子政治ジャーナリスト
国賓をもてなす「常春斎」での会食の前に、35分間会談した文大統領とイヴァンカ氏。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

訪日時と大きく異なったイヴァンカ・ファッション

 韓国・平昌オリンピック閉会式に参加するイヴァンカ・トランプ大統領補佐官が2月23日に仁川空港に降り立った時、「金与正朝鮮労働党中央委員会宣伝扇動部第1副部長を意識している」という印象を受けた。金正恩朝鮮労働党委員長の妹である与正氏は開会式に参加するために2月9日に韓国を訪問。その生の姿を初めて国際社会に披露している。

 なぜイヴァンカ氏が与正氏を意識していると思ったのか。それはイヴァンカ氏のいでたちだ。白のニットに千鳥格子のロングコートをはおったシンプルなファッションは、いつものイヴァンカ氏、とりわけ昨年11月に来日した時のイヴァンカ氏とイメージが全く異なっていたからだ。

 イヴァンカ氏が来日した時、着用していたペールブルーのコートが話題になった。11月3日に「国際女性会議WAW!」で演説した時に着ていたミレニアムピンクのスーツと同じMIUMIUのものだ。MIUMIUはPRADAのセカンドラインで、スタイリッシュさと可愛らしさで女性に人気がある。もっともセカンドラインとはいえ、スーツの価格は41万円もする。

 安倍晋三首相との会食の際に着用したワンピースは同じブランドではなかったが、華やかなものだった。安倍首相は店の前でイヴァンカ氏をじきじきに出迎え、10月30日に誕生日を迎えたイヴァンカ氏に雅楽による「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」の演奏で祝っている。

 一方で文大統領もイヴァンカ氏を国賓級にもてなした。会食の前に非公式会談を行い、予定時間の20分を15分も延長して話し合った。金正淑大統領夫人は特別に絹で作らせたスリッパをプレゼントしている。この時にイヴァンカ氏が着用したのは黒のワンピース。毛皮付きの黒いコートに身を包んだ与正氏のファッションと重なって見える。

権力に最も近い2人のプリンセス

 モデルの経験もあり、自分のブランドを持つイヴァンカ氏と、「閉ざされた国の王女」である与正氏はイメージが大きく異なるが共通点もある。父親が権力者で、異母兄弟がいること。そして最高権力者に最も近い女性である点だ。

 トランプ大統領に対するイヴァンカ氏の影響力は大きい。就任式前のトランプ大統領に安倍首相に会うことを勧めた他、化学兵器を使ったシリアに爆撃を進言したのもイヴァンカ氏だと言われている(本人は否定)。またクシュナー氏との結婚でユダヤ教に改宗したことでトランプ大統領をイスラエル側に引き寄せ、エルサレム首都宣言の原動力のひとつにもなった。

 これに対して与正氏が正恩氏に与える影響は具体的に明らかではないが、同腹の兄妹として互いに頼りにしていることは事実だ。正恩氏は昨年2月、マレーシアで異母兄の正男氏を暗殺したと言われている。正恩氏にとって正男氏は一面識もない兄だった。また正男氏は故・金正日総書記の嫡男として故・金日成主席から認められていたが、正恩氏はそうではない。

 その理由のひとつは彼らの母親である故・高英姫氏が大阪生れの在日朝鮮人であったことだ。日本と関連があることは、大きなハンディだった。

 それは与正氏も同じだった。しかも男女差別の激しい北朝鮮では、女性が世継ぎになる可能性はありえなかった。

しかし父に「男の子だったら、跡を継がせるのに」と言わしめたほど頭脳明晰だった与正氏は、次兄がトップに就任してからは順調に権力の階段を上っていった。平昌に派遣されたのも、アメリカと対峙する重要場面に与正氏が直接立ちあうためだったはずだ。北朝鮮の代表団の名目上の代表は金永南最高人民会議常任委員会委員長だが、“位”では与正氏がナンバーワン。文大統領も格別に配慮して4回も会食し、北朝鮮からの三池淵管弦楽団の公演を一緒に堪能している。

それぞれの使命を果たして

その間、与正氏は文大統領に南北首脳会談を囁き続けたに違いない。南北会談が行われたのは金大中大統領時の2000年と盧武鉉大統領時の2007年の2回のみだが、文大統領にとって盧大統領はかつての上司であり、北朝鮮は両親の出身地。南北首脳会談の実現は文大統領にとって悲願であるはずだ。こうして与正氏は文大統領を大きく北朝鮮側に傾かせるのに成功した。

その韓国をどうやれば西側に引き寄せるか。アメリカがそのために使った“Lethal Weapon”がイヴァンカ氏だ。

 ではその効果はどうか。イヴァンカ氏が北朝鮮側に示した態度は開会式に出席したマイク・ペンス副大統領と大差ないが、イメージはかなり柔らかくなった。開会式の時には米朝会談が予定されていたが、北朝鮮側に土壇場で拒否された。これはペンス副大統領の態度があまりにも厳しいための報服だ。それを決定したのはおそらくは与正氏だろう。与正氏が開会式の最中、目でペンス氏の動きを追っていた場面を現場のカメラがとらえている。

 よって閉会式では、アメリカは微妙に調整しなおした。最大限の圧力をかけるという原則は固持しつつ、イヴァンカ氏には朝鮮半島の専門家であるアリソン・フッカー補佐官らそうそうたるメンバーが同行し、核の専門家もこれに含まれていたとの報道もある。

 開会式では与正氏がポイントを上げた。閉会式に派遣されたイヴァンカ氏の任務はこれを無にすべく“上書き”することだ。そのために入国時と会食時でのいでたちにモノトーンを活用したのだろう。米韓の2人のプリンセス対決はこれに終わらない。次はどこでその火花を散らすのか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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