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【平昌オリンピック】安倍首相の訪韓は失敗だったのか

安積明子政治ジャーナリスト
金与正女史に一瞥もしなかったペンス米国副大統領。文在寅大統領の思惑は失敗した(写真:ロイター/アフロ)

反対が多かった安倍首相の訪韓

 2月9日に行われた韓国・平昌オリンピックの開幕式に安倍晋三首相が出席した。文在寅大統領から請われたためだが、自民党内からも反対の声が強かった。理由は2015年12月の慰安婦合意を、韓国政府が昨年12月に一方的に“事実上の破棄”を宣言したからだ。同合意は慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的に解決したもの」としており、日本は約束の10億円を支払い済みだ。

「1ミリたりとも動かさない」

 菅義偉官房長官が会見で何度もそう述べたように、安倍政権は慰安婦合意を変更するつもりは全くない。そうした事情を察し、また国家間合意を破棄することは難しいことを十分認識した上で、文政権は「合意の再交渉の要求はしない」とあやふやな態度を示した。

 しかし韓国に対する日本の不信感は強く残っている。文大統領が平昌オリンピックに積極的に北朝鮮を参加させようとしたことも、日本側の反発を招いた。安倍首相の出席する開幕式に北朝鮮からの要人を参加させ、なごやかなムードを演出すれば、日本が求める拉致問題の解決や核・ミサイル問題が薄まってしまいかねない。もっとも安倍首相も、それは十分危惧していたのだろう。

アメリカの圧力で訪韓か?

 さて国内での多くの反対にもかかわらず、安倍首相に訪韓を決意させたのは、親北に傾きがちな韓国に強く牽制をかけたい米国の存在がある。米国からはペンス副大統領が開幕式に出席したが、その前に日本に立ち寄り、安倍首相と会談した。

「北朝鮮のほほ笑み外交に目を奪われてはならないことを訴えていくことで一致した」

 7日に行われた共同会見で、安倍首相は日米の連携を強調した。おそらくはこの時、開幕式に参加が予定されていた北朝鮮への対応についても話し合われたのだろう。実際に安倍首相とペンス副大統領は、9日夜の開幕式前に行われた大統領主催の晩さん会に揃って遅刻。2人で会談し、記念撮影していた。

晩さん会で見られた日米の対北態度の差の理由

 晩さん会での席次は、日本と米国、中国と北朝鮮が文大統領夫妻と同じテーブルにつくことになっていた。これはプロトコール(外交儀礼)に従ったというよりも、米国と北朝鮮の接触の機会を作ろうとした思惑が強かったと思われる。しかしペンス大統領は5分だけ滞在して退席。北朝鮮側には一瞥もしなかったという。

 その一方で安倍首相は、北朝鮮の代表である金永南氏に声をかけ、非公式という意味を持たせるために立ち話という形で拉致問題の解決を求めた。まだ多数の被害者が北朝鮮で救済を待っているとみられる日本としては、これはやむをえない行動といえる。

 しかし拉致問題解決を主張するなら、それをアピールするために拉致被害家族の同行もありえた話だ。ペンス副大統領は北朝鮮に拘束されて死亡したオットー・ワームビア氏の父親を同行させている。平和の祭典にならず者国家が参加する矛盾を、さらにアピールすべきだったのではないか。

結局は北朝鮮の思惑通り?

 平昌オリンピックでは、競技の結果よりも金正恩委員長の妹である与正女史の訪韓と、南北会談の提唱が注目されている。南北会談は2000年に金大中大統領と金正日委員長によって開催されたが、これによって大きく朝鮮半島の平和が進んだのかといえば、そうとはいえない。現状を見れば、“ならず者国家”を生き残らせただけだったのは明らかだ。

 今回もまた同じことが繰り返されるのか。北朝鮮を国際社会に引き入れようとする韓国の独走が、北朝鮮の核・ミサイルを許さないとする国連決議を無にしてしまう危険もある。いずれにしろ、安倍首相が危惧した“北朝鮮のほほ笑み外交”が成功したことだけは間違いない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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