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新型コロナウイルス感染症にみられる特徴的な皮膚症状

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス感染症では、一部の患者さんに嗅覚・味覚異常がおきることが報じられています。

「カレーの味がわからない」

「コーラを飲んでも炭酸水のように感じた」

など、患者さんの体験談がマスコミを通して拡散され、新型コロナウイルス感染症を疑う症状として一般の方にも広く知られています。

一方で、こういった嗅覚・味覚異常は新型コロナウイルス感染症だけに起きる症状ではなく、日本耳鼻咽喉科学会からは注意喚起のアナウンスがされています。

嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染症について―耳鼻咽喉科からのお知らせとお願い―

1. 37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や、咳、息苦しさ、だるさがあれば、お住まいの区市町村の帰国者・接触者相談センターにご相談ください。厚生労働省のホームページからも確認することができます。

各都道府県における帰国者・接触者相談センター紹介(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html

2. 急に「におい」や「あじ」の異常を感じるようになった場合には、万が一、新型コロナウイルス感染症であったときに周囲の人に感染を拡大する可能性がありますので、2週間は出来るだけ不要不急の外出を控えてください。その間、医療機関への受診は控え、体温を毎日測定し、手洗いをこまめにしてください。人と接する際にはマスクをつけて対話をしてください。

3. 嗅覚・味覚障害の治療は急ぐ必要はありません。自然に治ることも多いのでしばらく様子を見てください。特効薬はありませんが、2週間経っても他の症状なく嗅覚や味覚が改善しない場合は耳鼻咽喉科外来を受診してください。

さて、最近になって新型コロナウイルス感染症に伴う皮膚症状の報告が相次いでいます。

イタリアの新型コロナ感染症病棟からのデータをまとめた報告(文献1)では、88名の患者のうち18名(20.4%)に何らかの皮膚症状が出現したとのこと。18名のうち8名の患者さんは発症とともに、残りの10名は入院後に皮膚症状が確認されたようです。

皮膚症状のタイプですが、18名中の14名がよく見られる赤いぶつぶつ(紅斑性皮疹)、3名がじんま疹のような症状、1名が”みずぼうそう”(水疱瘡)のような発疹でした。これらは体幹を中心に出現し、かゆみはあまりないようです。

18例と少ない症例数からの解析結果ではありますが、皮膚症状と新型コロナ感染症の重症度は関連がなかったと報告されています。

新型コロナウイルス感染症に見られる”みずぼうそう”の様な皮膚症状

”みすぼうそう”の皮膚症状。出典:Wikipedia
”みすぼうそう”の皮膚症状。出典:Wikipedia

”みずぼうそう”とよく似た皮膚症状が新型コロナウイルス感染症でおきることは、他の論文でも指摘されています。

新型コロナウイルスに感染したイタリア人の8歳女児に”みずぼうそう”様の症状が出現したという報告があります(文献2)。

全身に出現した小さな水ぶくれ以外に、この女児は肺炎などの全身症状が出現しなかったようです。

同じくイタリアから、新型コロナウイルス感染症で皮膚症状が出現した22名の解析が報告されています(文献3)。

この論文では、小さな水ぶくれ(水ぼうそうのような症状)が12例(54.5%)に認められました。先の論文と同様に、かゆみはあっても少ないとのことでした。

以上のことから、感染が拡大している今は”みずぼうそう”の様な発疹が出現したら新型コロナウイルス感染症も疑った方が良いでしょう。

"しもやけ"の様な皮膚症状も新型コロナウイルス感染症に特徴的

つい先日、新型コロナウイルス感染症に伴う新たな発疹が報告されました(文献4)。

ベルギーからの論文では、新型コロナウイルスに感染した23歳の男性患者さんに”しもやけ”のような皮膚症状が出現したと報告されています。

さらに、クエートからも同様の報告があります(文献5)。

新型コロナウイルス感染症と診断された27歳と35歳の女性が、指先に"しもやけ"様の発疹が出現したようです。そして、この2名の患者さんは皮膚の症状以外に熱や咳、味覚障害などの全身症状が出ていなかったということでした。

”しもやけ”は皮膚が赤く腫れ硬くなる病気で、寒さによる血流障害が原因です。この血流障害は”しもやけ”だけに見られる症状ではありません。血管に炎症が起きる"血管炎"でも出現します。

最近、新型コロナウイルスに感染すると小さな血管に炎症が起こることが報告されました(文献6)。このことから、新型コロナウイルス感染症に伴う”しもやけ”の症状は血管炎がおきた結果なのかもしれません。

では、血管炎が激しくなるとどうなるでしょうか。

皮膚にある血管の炎症がすすむと、小さな内出血が見られます。いわゆる点状出血という皮膚所見です。

タイからの報告(文献7)では、新型コロナ感染症の患者さんにデング熱と同じような皮膚症状が出現したようです。デング熱は紅斑と点状の出血を伴う典型的な皮膚症状が出現します。タイではデング熱が多いため、患者さんの初診の段階では新型コロナ感染症とはわからず誤診したとのことでした。

つまり、新型コロナウイルス感染に伴う血管炎が、指先に起これば"しもやけ"の様な症状となり、体に出現すればデング熱のような点状出血がみられる可能性があります。

以上のことから、暖かくなってきたこの季節に”しもやけ”のような症状が出現した場合、新型コロナウイルス感染症の可能性も考えられます。感染を広めないためにも、咳や息苦しさの症状出現に注意しつつ、外部との接触を控えましょう。

まとめ

新型コロナウイルス感染症にともなう皮膚症状についてまとめました。

現在のところ、"みずぼうそう"と"しもやけ"のような症状は新型コロナウイルス感染症で出現しうる皮膚所見です。注意していただきたいのは、こういった皮膚症状が出たからといって新型コロナウイルスに感染した証拠となるわけではなく、他の病気(本当のみずぼうそうや膠原病など)の可能性もあるということです。

また、若い方は新型コロナウイルス感染症にかかると、肺炎などの症状が出ることなく"みずぼうそう"や"しもやけ"のような皮膚症状が出現することがあります。感染を拡大させないように一人ひとりの注意が必要です。

参考文献

文献1: J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020 Mar 26. doi: 10.1111/jdv.16387.

文献2: Pediatr Dermatol. 2020 Apr 21. doi: 10.1111/pde.14201.

文献3: Journal of the American Academy of Dermatology (2020), doi: https://doi.org/10.1016/j.jaad.2020.04.044.

文献4: JAAD Case Reports (2020), doi: https://doi.org/10.1016/j.jdcr.2020.04.011.

文献5: Clin Exp Dermatol. 2020 Apr 17. doi: 10.1111/ced.14243.

文献6: Transl Res. 2020 Apr 15. pii: S1931-5244(20)30070-0. doi: 10.1016/j.trsl.2020.04.007.

文献7: J Am Acad Dermatol. 2020 Mar 22. pii: S0190-9622(20)30454-0. doi: 10.1016/j.jaad.2020.03.036.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとしてAERA dot./BuzzFeed Japan/京都新聞「現代のことば」などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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