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数千人の大バコから、至近距離で見つめ合う30人まで!?韓流の推し文化「ファンミーティング」とは?

渥美志保映画ライター
(写真:ロイター/アフロ)

いまや「推し活」の間では当たり前となったイベント「ファンミーティング(ファンミ)」。特にコロナ中に盛り上がった韓国ドラマ&k-popブームで、この数年は韓国人スターたちはファンミーティングのために、続々と来日しています。この20年韓国に通っていますが、かつて「100円=1400₩」くらいだった時代もあったのに、今では「100円=880₩」くらいになってる、つまり経費は単純に3分の2程度になっているわけで、そりゃ日本でイベントやりますよね。というわけで、昨年辺りからは特にドラマの配信時期などに合わせて、あの人も?え、あの人も?と言う感じに、日本のどこかでほぼ日替わりのように開催されています。ちなみにファンミのチケットの相場も、スターによりハコにより内容により千差万別ですが、1万円以上がスタンダード。最近では座席によって価格差をつけるなど、なんとなくジリジリと値上がりしている感じはありますが、これも円安の影響……と寂しくも納得するしかありません。

ともあれ、ファンミって実際にどんな感じなの?というのを、ご縁あってご招待いただいた俳優ソ・ジュニョンさんのファンミで、のぞかせていただきました。「毎日ドラマ(日本で言う朝ドラのようなもの)の帝王」とも呼ばれるソ・ジュニョンさん、昨年は主演ドラマ『蝶よ花よ』が韓国で大ヒットし、KBS演技大賞では連続ドラマ部門優秀演技賞を受賞した俳優さん。

7年ぶりのファンミ「ジュニョンの部屋」は、「ジュニョンさんの部屋をファンが訪ねる」というコンセプトでのイベントです。都内で行われた昨年末のイベントは午前と午後で各回限定30名ずつ、3月に行われる大阪のでのイベントは50名限定というプレミアムすぎるイベントです。

ソ・ジュニョン「ファンミーティングで歌を歌う俳優さんも多く、やったらいいじゃないかとも言われたんですが、安くないチケット代を払っていただくのに、得意でない歌を披露するというのもどうかなと。もちろんやっている方が悪いということではないし、そういうのを楽しんんでいる方がいるのもわかってはいるのですが、とはいえ私に関心を持ってくださる方に恩返しするには、より近い距離で交流できる機会をつくるほうがいいのではと思い、今回はこういう形にしてみました」

という思いで始まったイベントは、まさにタイトル通り、彼の部屋にファンが訪ねてきたという雰囲気。進行は、くじ引きで当たった番号を持つファンから質問やリクエストを受付け、会場を回るジュニョンさんがその主の目の前で応えるというスタイルです。時間の許す限りやってくれるので、結果的には参加者のほとんどがジュニョンさんと「擬似的二人きり」の時間を経験することができます。大好きな俳優が一定時間、自分だけを見つめてくれるとか、ファンなら卒倒ものです。

ファンミの魅力とは、何しろスターとの距離が近いこと。最近は韓国ブームによるファンの増加にともない、3000~5000人の規模の開催が増えていますが、それでもスター自らのお出迎えやお見送りや、抽選でファンが舞台に上がるなんてこともあり、数万人規模のライブや、NETFLIXの画面越しなどとは比べようもありません。
悩ましいのは、それゆえにチケットの争奪戦がとんでもないことになっちゃうこと。特に国際的に知られるトップスターの場合、「早いものがち」なら発売と同時に即完売。抽選の場合は重複応募などによってとんでもない倍率になってしまうことも。3月に行われるパク・ヒョンシクのファンミでは「誰が当たってるの?!」という悲鳴のようなポストがX(旧twitter)に溢れました。その一方で、今回のソ・ジュニョンさんのようなイベントや、ファンとの温泉旅行ツアーを行っているソンフンさん(『結婚作詞 離婚作曲』)のようなスターも。ちなみにソ・ジュニョンさんのファンミでは、ファンひとりひとりの個別質問タイムの他、ジュニョンさん持参のプレゼント抽選会、2ショット写真撮影会、当日の写真を収めた記念アルバムも後日郵送されるというサービスぶりです。

すごいなと思ったのは「手話通訳者」が入っていたこと。

ソ・ジュニョン「参加される際に”聴覚障害者なんですが”という連絡をいただいたんです。運営の事情などもあったのですが、僕としてはそういう方がいらっしゃるなら、その分の経費を自分がだしてもいいから手話通訳の方を頼もうと。特別な考えがあったわけではなく、ただ「参加したい」という方には、みなさんに楽しんでいただきたいなと思っただけで。韓国でのイベントでも、自分からそういう提案をすることもあります。他の方のイベントの時はどうなっているかは、正確なところは分かりませんが、自分が主催する場合はそういう準備は無条件でしたいと思っています」

これは決してジュニョンさんが言ったことではないので、誤解なきようにと思うのですが、これだけ小規模なイベントでファンからの対面のリクエストは、部外者の私から観ると「強すぎる愛ゆえの無茶振り」も……。そうした状況にも決して表情を曇らすことなく、対応する韓国人スターのプロ意識には、毎度のことながら驚かされます。

ソ・ジュニョン「急に婚姻届を出されたりしたら困りますけど(笑)。ファンミで求められるもの、リクエストしてくれた方もふくめてみなさんが楽しんでもらえるようなことですし。俳優の仕事って、演技するだけではいいと僕は思っているんです。バラエティ番組への出演や、作品のプロモーション、こうしたイベントも含めたいろんなプロジェクトなど、そういう全てが俳優の仕事。さっきも参加者の方から、気分が落ち込んでいたけれど参加してすごく元気になったと聞き、僕もエネルギーをもらいました。自分を応援してくれる人がまた一人増えたと思うと、韓国に帰ってからもまた頑張れます。こうしたイベントが大変じゃないといえば嘘になりますが、別のエネルギーをいただいて、終わった後に美味しいビールでも一杯飲めば、気持ちがすごく満たされますね」

配信の隆盛によって多くの俳優たちが国際的スターになってしまい、規模はどんどん大きく、触れ合える密度は薄くなりつつあるファンミ。かつては「全員をハグしてお見送り」なんていうのもあったんですが、最近ではコンサートと変わらないような感じもあるし、値段の割に淡白なサービスでファンから「ビジネス臭」と不評を買うものも。20年前から韓流ブームを見ている私にとっては、なんだかちょっと寂しいような気もするのですが、実はこうした小規模のファンミも意外と行われています。生の韓国人スターにあえる絶好の機会、興味のある方はぜひ一度、参加してみてください!

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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