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岡田准一vs綾野剛の『最後まで行く』は、最後まで行ってない?オリジナルの韓国版はどんな映画?

渥美志保映画ライター
(C)2023映画「最後まで行く」製作委員会

世界中でリメイクされた『最後まで行く』日本版

2023年5月19日公開、岡田准一&綾野剛主演の『最後まで行く』は、まったくもってワルな人の刑事がひょんなことから出会い、「とことんいったる!」という関係にもつれ込むというアクション作品です。この作品は2014年の韓国映画『最後まで行く』のリメイク作品。私はその年の釜山国際映画祭でこの作品を見たのですが、今でも強烈に覚えているくらい面白い作品です。今回は日本版と両方見た私が、何がどう違って、どっちがどうなのか、というのを、ざっくばらんに書いてみたいと思います。

さて物語ですが「流れ」としては、それほど大きく変わりません。

主人公は二人。一人は、関係者からのワイロで小遣い稼ぎするチンケな悪徳警官。仮に「岡田くん」と呼びます。実はもう一人も悪徳警官、仮に「綾野くん」とします。こちらはもう少しスケールがデカい、組織的な悪事によって大金を手に入れている、もっと悪い男です。仮名はお気づきと思いますが、演じている役者の名前です。

物語は「岡田くん」が見知らぬ男を車で引いてしまったことから始まります。悪徳警官とはいえ、なんぼなんでも人を殺すなんてまずい!まずい!まずいー--!ととっちらかった小人物の「岡田くん」は、思わず死体をトランクの中に隠し、事件の隠ぺいを図ります。この一部始終を見ていたのが「綾野くん」です。実はこの死体はある理由から「綾野くん」が手に入れるべき獲物だったわけです。折よく亡くなった母親の葬儀に紛れて「死体処理」に奔走する「岡田くん」は、そこに近づいてきて「岡田くん」を脅迫しボッコボコにし「死体を持ってこい」と迫る、目的も正体も不明の「綾野くん」。この二人の数日間のやり取りを描いた作品です。

ちなみに韓国では「岡田くん」を、映画『パラサイト 半地下の家族』ドラマ『マイ・ディア・ミスター 私のおじさん』のイ・ソンギュンが、「綾野くん」をドラマ『シグナル』映画『お嬢さん』のチョ・ジヌンが演じています。

まったく異なるイメージの2本。違いは「温度と湿度」

さてザックリあらすじをこうして文字にしてみると「まったくもって同じやなあ」と思うのですが、映画の印象はまるっきりちがうのが面白い。映画ってのはまさにそういう部分を楽しむもんだし、そういうところが観客の好き嫌いを分けます。

両者の印象の違いを作っているのは「温度と湿度」です。韓国版はキャラクターの演技も音楽も映像もすごくクールで乾いており、それゆえに笑えるシーンと怖いシーンがめちゃめちゃ際立ちます。

(C)2014 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND AD406 ALL RIGHTS RESERVED.
(C)2014 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND AD406 ALL RIGHTS RESERVED.

笑えるシーンの代表は、イ・ソンギュンが、折よく埋葬される母親の棺の中に、四苦八苦しながらひき逃げ死体を入れる場面。警備員がいる葬儀場で、駐車場のトランクから棺がある霊安室にどうやって死体を運ぶのか、すでに鋲が打たれている棺の蓋をどうやって開けるのか、霊安室にもある監視カメラをどうやって誤魔化すのか。本人が必死でひねり出したアイディアには「よく考えつくな!」と感心するものの、いちいちが状況の深刻さと全くそぐわないマヌケさで、さらにとっ散らかっているので想定外の失敗も起こり、あわあわあわどうしよう、異変に気づいた警備員の足音が……!というくだりが笑っちゃうやらハラハラするやらで最高です。

一方で恐怖を担当するのがチョ・ジヌンは、めちゃめちゃ威圧感のある巨体で、冷笑しながらそこに立ってるだけで怖い。組織力も体力も腕力も胆力も勝負にならないほど上、つまりスゴむ必要がぜんぜんありません。殴られても屁でもない、「いいパンチですね…」と痛がる振りしながら裏で舌を出すみたいな描写は、完全にイ・ソンギュンが弄ばれているという構図を作ります。

正体も目的もわからないその男に意味不明にいたぶられ、徹底的に追いつめられるソンギュンは、とにかく「なんで俺がこんな目に!一体どうなってんだよ~!」と命からがら必死に逃げるのみ。古い話で恐縮ですがスピルバーグの名作『激突!』みたいな感じの、ブラックな笑いとアクションと恐怖の波状攻撃です。『マイ・ディア・ミスター わたしのおじさん』であんなに泣かせた重低音のイケボをもちながら、こういう役をやるときはスコーンとまぬけなハイトーンボイスで演じてるイ・ソンギュンもさすがです。

(C)2014 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND AD406 ALL RIGHTS RESERVED.
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韓国版はキリスト教の土葬で、日本版は火葬なのでそのあたりで設定を変更する必要があったのかと思います。葬儀場の場面は「岡田くん」もなかなか頑張っているのですが、日本版は「笑いをとること」にそれほど重きを置いていません。描きたいのは「岡田くん」と「綾野くん」が、自己保身と男のプライドをかけて戦うこと。あくまでもギラギラと熱く、同時に互角に戦う男同士特有の相手へのウェットな執着も垣間見えます。

さらに韓国版にない設定は、割の合わない刑事という仕事をしている「岡田くん」には、金への執着があると同時に「金への執着が人間を不幸にする」というやや教訓めいた要素があり、加えて離婚した妻との復縁をめぐる心の動き、があることです。詳しくは書きませんが、この展開がめっちゃ日本的です。

さらに物語の構成としての最大の違いは、韓国版が二人のがっぷり組んだ戦いを1つのストーリーラインで描いているのに対し、日本版はやや群像劇のような展開で、あっちへとび、こっちへ飛びすること。二人の間にある「大金」の設定もやや煩雑なのですが、ラストには「これがやりたかったのか」という場面があり、日本版が「金をめぐる欲望の物語」であることが明確に示されます。

(C)2023映画「最後まで行く」製作委員会
(C)2023映画「最後まで行く」製作委員会

「最後まで行った」後、大オチが痛快な韓国版

そしてまったくもって異なるのはラストです。日本版は「最後まで行き」ません。とはいえ韓国の原題「クッカジカンダ」は「とことんいったる」というようなニュアンスであり、そう思えば日本版のラストは「岡田くん」が「クッカジカンダ!」と宣言して終わるという感じでしょうか(そのあとに「え?」というオマケのオチがありますが)。

一方の韓国版では「最後まで行」った後に、チンケなワル、イ・ソンギュンの改めてのチンケぶりに笑わされながらも拍手したくなる、痛快な大オチがまっています。正直言えば10年前に見た韓国版のラストを、私は覚えていなかったのですが、はっきりいってそれを忘れていてもめちゃめちゃ面白い。日本版を見た後には、ぜひオリジナルにも触れて頂きたいところです。

この作品で名を上げた監督キム・ソンフンは、Netflixの韓国ドラマで『愛の不時着』より以前に、韓国ドラマの存在を世界に知らしめた大ヒットしたソンビ時代劇『キングダム』の監督として知られています。

もしゾンビものが好きならこれもまた、「いや、ちょっと韓国ドラマはなあ…」とか言ってる場合じゃない、この作品を見ないなんてマジもったいないすぎ!という傑作です。個人的には「Netflixに入っているのに観ていないなんて損な作品Best5」(今作った)入っていると思います。ぜひご覧ください。

『最後まで行く』5月19日(金)公開

(C)2023映画「最後まで行く」製作委員会

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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