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話題の『夫婦が壊れるとき』の元ネタ、韓国ドラマ『夫婦の世界』の日本版に勝るドロドロっぷり!

渥美志保映画ライター
キム・ヒエ、『私のおじさん』パク・ヘジュン、主演作が途切れない人気のハン・ソヒ

日本テレビの深夜枠で、現在放送中のドロドロ不倫ドラマ『夫婦が壊れるとき』。今回はその作品にハマった人に、ぜひ見てもらいたい韓国版ドラマ『夫婦の世界』のリビューを、拙著『大人もはまる韓国ドラマ 推しの50本』から再編集してお届けします!夫のマフラーに見つけた、見慣れない長い茶髪から発覚した夫の浮気。ところがそのことを知らないのは妻だけで、夫の友人も地域の人たちも、誰もがそれを知っていた…!という第一話の衝撃から、見始めたら絶対途中でやめられない韓国版。アホ夫と浮気相手のあまりのクソっぷりと戦う中で、どんどんキレイにカッコよくなっていく妻(『クイーンメーカー』のキム・ヒエ)を全韓国が応援したドラマ。でもラストにはさらなる「ええええ~~~!」という展開も待っています!

ポッドキャストでは別のエピソードをご紹介していますので、こちらもぜひ。

韓国で絶大な支持を受けた「マクチャン(ドロドロ)ドラマ」

「マクチャン」とは韓国語で「どん詰まり」の意味で、マクチャンドラマと言えばありえないことが次々起こるドロドロドラマのことだ。以前はいわゆる連ドラ(ミニシリーズ:平日のゴールデンタイムに週2回放送するもの)ではそこまで多くはなかったと思うのだが、ここ5~6年はケーブルテレビを中心にセレブ系のマクチャンが、次々と高視聴率を叩き出している。『夫婦の世界』は近年最大のヒット作のひとつである。

舞台はある地方都市で、主人公はその中核病院で副院長を務めるエリート女医ソヌ(キム・ヒエ『密会』)である。高級住宅街にゴージャスな一軒家を構え、映画監督のイケメン夫テオ(パク・ヘジュン『アスダル年代記』)と、中学生のかわいい息子ジュニョンをこよなく愛する彼女は、誰もが羨む存在だ。だがある朝、出張から戻った夫のマフラーに長く茶色い髪を見つける。「もしかして、いやいや、まさか」と思いつつ尾行をつけて尻尾を掴み、車の中に隠し持った別の携帯電話から女の正体を、そして思いもしなかった地域社会の衝撃の事実を知り……と、ドラマは第一話から次々とマクチャンを畳み掛けてくる。

テオはソヌの資金提供で作った制作会社の社長に収まっていたが、ソヌの金を女に湯水のように使い会社は火の車、多額の借金までしていたことが発覚。ソヌの金で介護施設にいる義母は、すでに息子の浮気を知っていて、「あなたのせい」とソヌを責める。それでもソヌは「もし正直に言ってくれたら許そう」とそれとなく水を向けるが、テオはイケメンぼんくら特有の無根拠な自信ですっとぼけ続ける。自分を舐め腐った夫に怒りをじわじわと募らせたソヌは、すべてを奪って離婚しようと決意。いくつかの修羅場を乗り越え、嫌がる息子を説得してようやく離婚。テオは妊娠した(!)女と町を去ってゆくーーーと普通のドラマなら全16話かけそうな展開を怒涛の勢いで6話までにぶっこみ、「なんだか一段落しちゃったけど、これ以降はどうやって…?」と思っていたら、7話からは地域社会まで巻き込んだ大規模ドロドロに発展する。数年後、ちょっと成功したテオは妻子とともにこれみよがしに華々しく舞い戻り、ストーカー的な粘着質の逆襲を仕掛けてくるのである。

「マクチャン(ありえない)」には、2つのタイプーー「よくできたマクチャン」」と「笑っちゃうマクチャン」である。「よくできたマクチャン」は「そういう状況もありえるだろうけど、マジ勘弁してほしい」というものだ。例えばこのドラマの第一話のラストの「浮気のしっぽつかんだと思ったら、私以外みんな知ってた」もそうだし、7話でテオがソヌの住む街に華々しく戻ってくるのも、あの中ではそれである。一方「笑っちゃうマクチャン」は、意図的にリアリティの範囲を飛び越えた「目が点になる唖然とする展開」である。古い日本の昼ドラ『牡丹と薔薇』で、夫に不満爆発の妻が「今日の夕食はコロッケよ」と言いつつ亀の子タワシを出すという場面があったが、それはこの典型だ。そもそもが「マクチャン好き」ではない私は、こうした「笑っちゃう系」のみで突っ走るドラマを面白いとは思えない。どこかで現実につなぎとめる要素がほしくなってしまうのだ。

美しさとド迫力で敵なしの視聴率女王、『クイーンメーカー』のキム・ヒエ

『夫婦の世界』を面白く見たのは、主人公ソヌを演じるキム・ヒエによって、そこがきっちりと抑えられているからだと思う。夫の浮気が発覚してから離婚するまでのソヌは、まさに「夫を愛しているし信じたい。でも頭がいいから色々気づくし、「見て見ぬふり」もできない、そして理系ゆえに、どちらにしろエビデンスを見ないと落ち着かない」みたいな女性のリアリティに満ちている。弁護士に「心が決まっていないと」と言われて逡巡し、「掘れば掘るほどクズ」という夫を、なかなか見限ることができない。

中盤以降はここに「地方都市のセレブ村社会」の息苦しさが加わる。噂話が最大のレジャーであるコミュニティで、成功したテオの帰還は、同時にソヌへの嘲りとなってゆく。そもそも「非地元出身者」で他人を寄せ付けないソヌはそもそも好かれていない。こうした苦悩や逆風をキム・ヒエは、そもそも無表情なソヌの微妙な表情の変化のみで演じきる。そして、我慢して我慢して我慢して……ある瞬間にブチ切れる。素晴らしい啖呵を切って敢然と立ち向かう姿は、リアルとのメリハリがあるからこそ共感できるし、だからこそより痛快なのだ。

『クイーンメーカー』も話題のキム・ヒエは、視聴率女優としても知られる
『クイーンメーカー』も話題のキム・ヒエは、視聴率女優としても知られる

作品はイギリスのドラマ『女医フォスター 夫の情事 妻の決断』を元に作ったリメイクで、例えて言うならイギリス版を見た韓国人が「韓国の夫婦だったらこうなるよね~/こうはならないよね~」という感じの違いがある。先に上げた「セレブ村社会」もそのひとつだが、特に途中で何度かある「なんで?!」という元夫婦の行動は、私には極めて東アジア的に思えた。支配と被支配の関係こそを快楽とする「夫婦の世界」ー―特に最終回の展開は、フリーダムな未婚者には「まさかのマクチャン」そのものなのだが、日本の(特に年配の)既婚者には「理屈抜き、夫婦とはそういうもの」と思う人は多いかもしれない。

『アスダル年代記』でアスダルで最もカッコいい男ムベク将軍を演じていたパク・ヘジュンが、韓国ドラマ史上類を見ないほどのクソすぎる夫を演じ、個人的には「私のムベクを返せ!」と画面に叫んだ。『愛の不時着』の耳野郎ことキム・ヨンミンも、いつもながら憎み切れないおもしろチンケな浮気男として登場する。

(C)JTBC studios & Jcontentree corp All rights reserved Based upon the original series “Doctor Foster” produced by Drama Republic for the BBC, distributed by BBC Worldwide

Kim Ji-yeon/Netflix

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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