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悪女ヨンジンのキレ芸NO.1は?最高の悪役たちが盛り上げた『ザ・グローリー』の名場面をプレイバック!

渥美志保映画ライター

後半の配信以来、ネットフリックスで視聴回数NO.1を突っ走っている『ザ・グローリー 輝ける復讐』。高校時代のいじめっ子たちを冷徹に、計画通りに追いつめてゆくドンウンは、まさにダークヒーローという感じで、ぞくぞくする痛快さですよね。ただ復讐ドラマの面白さは、百万人がにくったらしい!と思える最強の悪役がいてこそで、『ザ・グローリー』はまさにその典型といえるドラマだと思います。今回はいじめの首謀者であるヨンジンを中心に、悪役たちに注目しながら、ドラマの後半を解説したいと思います。ポッドキャストをご利用の場合は、こちらのリンクからどうぞ!

まずはざっくりと、後半のあらすじを。物語は前半で行方不明になった悪役5人組の一人、首に入れ墨を入れたミョンオが消えたその前々日から始まります。ヨンジンがドンウンの前のいじめのターゲット、ユン・ソヒを殺害した事実を聞いたミョンオは、大金を脅し取って海外に逃亡しようと考えますが、逆にヨンジンに返り討ちにあってしまいます。ドンウンに弱みを握られたヘジュンが出した失踪届をきっかけに、警察の捜査が始まったのは、彼が薬物売買にかかわっていたから。いじめっ子グループのNO.2、薬物依存症のサラは、ミョンオの顧客でした。一方、ヨンジンの娘イェソルが自分の子供だと知ったジェジュンは、彼女に執着し始めます。それぞれおしりに火が付いたいじめっ子グループでは、やがて互いのつぶし合いが始まります。

後半の展開で「すごい!」と思ったのは、ミョンオの死体の行方です。ジェジュンの店の試着室でミョンオを殺してしまったヨンジンは、母親が汚れ仕事のために雇っているシン刑事に死体の処理を頼むのですが、自分の保身と利益の最大化を優先するシン刑事は、密かにこの遺体を保存しているんですね。これがのちにドンウンの計画の大きなカギとなってゆきます。

「ドンウンvsワルたち」の3本勝負

後半では、さらにいきり立つワルたちに対するドンウンが、彼らを奈落の底に突き落とす場面が見どころです。独自に3つの場面を「ドンウン三本勝負」と名付け選んでみました。

1本目は、もちろん最大の敵ヨンジンとの直接対決。後半の冒頭第9話では、ヨンジンに最後のチャンスを与えますが、ヨンジンは彼女の最大のトラウマである「ヘアアイロン」に触れながら突っぱねます。

ヨンジンはこの後、夫に捨てられ、母に捨てられ追い込まれてゆくわけですが、実はドンウンは、最後の最後で彼女を救うことができる秘密を握っているんですね。最終話のドンウンは、そのことをほのめかすだけほのめかし、めちゃめちゃ冷酷に去ってゆきます。高校時代、ドンウンの殺生与奪をヨンジンが握っていた、あれと同じことをここでやったわけです。

2本目は、ドンウンにとって最大の加害者である母親との対決。

彼女をネグレクトした上に、彼女の苦痛と人生を金で売り飛ばした母親は、後半に当然出てくることが予想された人物です。前半の「いじめっ子5人組」のインパクトがあまりに強かったので、あれ以上のキャラクターにできるかどうか……と思っていたのですが、そのビジュアルといい行動といい、予想のはるか上を行く人物として登場しています。

常にぐでんぐでんに酔っぱらって暴言を叫びまくり、ドンウンの家に押しかけて大家さんにつっかかり、ドンウンの生徒たちの親たちに金をせびり、ドンウンを愛するヨジョンに粘着なメールを送り付け……と「こんなん家族にいたらそらもう地獄だよね」と100万人が思ったに違いありません。13話では、よりによってドンウンが死ぬほど恐れているサムギョプサルで火事まで起こし、ドラマで唯一のドンウン号泣!という場面を作り出すわけですが、そこはドンウン、そういうボロボロ場面をカメラで撮影しているんですね。そして14話ではそうしたもろもろを使って母親を精神病院にぶち込みます。入院同意書にドンウンが唯一の家族=「保護者」としてサインするのは、かつて彼女に無断で示談と退学の同意書に母親がサインをしたことの再現です。

先に挙げた2本は、ドンウンがこれまでされたことを裏返して再現したものなんですが、3本目はちょっと異なります。相手は学校の不気味な先輩教師、あのヘルメットみたいな髪型の、どこかヌメっとしたチュ先生です。なんかしらんけどドンウンを陰湿に攻撃してくるこの男、実は子供を狙うペドフィリアなんですね。いろいろ目まぐるしい復讐の最中に「嫌がらみ」してくるこの人を排除するため、ドンウンが利用したのはジェジュンです。ドンウンから送られてきたイェソルの良くない写真を見たジェジュンは、いつも通りの直情的な反応で学校に乗り込み、チュ先生をボッコボコにしてしまいます。「示談してもらうのは君のほうだから」という状況で「示談はしねえ」と言い続けるジェジュンにもなんやら笑えるいい場面になっています。

やたらたくさんのバスローブを持ってるジェジュン。
やたらたくさんのバスローブを持ってるジェジュン。

韓国ドラマには、なぜか変な髪形で爪痕残す俳優がいるのですが、チュ先生を演じたホ・ドンウォンもそんな人。ディズニー+で配信中の『カジノ』でもくりくりパーマのロン毛という個性的なヘアスタイルで登場しています。めちゃめちゃ面白い作品ですので、興味のある方はぜひそちらもご覧ください。

このチュ先生とジェジュンのエピソードもそうですが、ドンウンの計画のすごさは、潰したい人間をぶつけて、うまい具合につぶし合いをさせることです。いじめっ子たちの仲間割れを誘発したのもそうですが、何がすごいって調査員ヒョンナムのDV夫を、ヨンジンの母親に殺させたこと。ドンウンがうまいというか脚本がうまいんですが、いくつものピースを組み合わせて一気に片づける、後半の展開は本当に見事としか言いようがありません。

ヨンジン役、遅咲き女優イム・ジヨンの「三大キレ芸」

さてこのドラマの悪役といえばヨンジン演じるイム・ジヨンに触れずに終わるわけにはいきません。韓国ドラマでは昔から「悪役」を演じてブレイクする俳優さんが多いんですが、彼女の場合は大ブレイクといっていいんじゃないでしょうか。特にイム・ジヨンの「キレ芸」ですよね。前半こそ「うわあ」と思いましたが、後半には「待ってました」という感じになった人も多いんじゃないかと思います。個人的に「ドラマ後半の3大キレ芸」といいたいのは、ヨジョンのクリニックで麻酔から覚めて「あんた私に何したのよ!」と叫び暴れる場面、さらにミョンオの遺体が消えた火葬場で気がふれたかのようにバッグを打ち付ける場面、そして最も強烈なのは彼女の最後の登場場面、刑務所の監房で突如始まる「天気予報」です。笑っちゃうけど背筋が凍るという、すごい場面になっています。

イム・ジヨンは遅咲きの女優さんといっていいと思うんですが、これまではいわゆる普通の役、ちょっと間の抜けた、愛嬌のあるいい子、のような役が多く、どこかパッとしない印象でしたが、最高の悪女を自信満々に演じるこのドラマでは、段違いにキレイに見えます。ドラマの人気を支えたのは、表情を変えない冷徹なソン・ヘギョと、正反対に振り切ったイム・ジヨンのキレ芸、そのコントラストだったんじゃないかなと思います。

ドンウンの物語のようでいて、実は回復を描いた物語。

昔から「人を呪わば穴二つ」っていいますが、復讐っておそらく、最終的には復讐した側も必ずしも幸せにはなれないものですよね。韓国ドラマでも復讐ものはそれほど明るくは終われないものなんですが、このドラマは奇跡的に、比較的明るく、ある種の恋愛ものとして終わっています。それはドラマ全体が、ある意味ではドンウンの回復の物語だからだと思います。

その証左に思えるのは、後半に行くにつれ、ドンウンが「ものを食べる場面」が増えていること。ヨジョンとの関係においては、自分から下手な料理すら作ってすらいます。韓国ではあいさつ代わりに「パンモゴッソ?(ご飯食べた?)」と声をかけるのですが、ドンウンは例えばミョンオと会うときは、まったくものを口にしません。一度だけ「仲間であること」をあえて示すかのように、スンデをひとつ口に頬り込む場面があるだけ。一緒にモノを食べることは、彼女にとってその人との「つながり」を示すものなんですね。

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そうしたつながりを持った人たちーー被害者たちの中で、ヨジョンの無念だけが最終回まで晴らされていません。復讐を終えたら死のうと思っていたドンウンは、いまだたった一人の地獄にいるヨジョンのために、生きることを選ぶわけです。ヨジョンが抱える暗い鬱屈が、このドラマのラストの希望の様になるなんて、正直、まったく想像しませんでした。ほんと、よくできたドラマだったなあとおもいます。みなさんはどうだったでしょうか?

『ザ・グローリー 輝ける復讐』 Netflixにて配信中

Graphyoda/Netflix

2023 Netflix, Inc.

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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