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日本のサブカルコンテンツのハリウッド映画化は、なぜコケるのか?

渥美志保映画ライター
日本のゲームやマンガのキャラクターを演じる、世界的に人気のコスプレイヤーたち

90年代に世界的なブームを巻き起こして以来、世界中に多くのコアなファンを持ち、ハリウッドの映画作家にも大きな影響を与えてきた、日本のゲーム、アニメ、マンガなどのサブカルチャー系コンテンツ。マンガからアニメへ、アニメからゲームへ、ゲームからマンガへ、多くのコンテンツがボーダーレスに、世界中で展開しています。

ガンダムやゴジラが登場したスティーブン・スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』や、日本のマンガ「銃夢」を原作にジェームズ・キャメロンが製作する『アリータ』(来年2月公開)、さらには『機動戦士ガンダム』『進撃の巨人』の実写映画化など、技術の進歩とともにさらに多くの注目を集めている――と思うのですが。「ハリウッドで実写化!」された途端に、「なんか違う……」となってしまうのを、イヤというほど経験しているのも事実です。

マンガから出発し実写映画を製作、それを中心に世界的なビジネスとして展開しているコンテンツとしては、アメリカンコミックの「マーベル」がよく知られています。日本のサブカルコンテンツには、それに引けを取らないクオリティを持つ作品も多いはずですが、こうしたビジネスに成長させることはできないのでしょうか。そのために必要なこととはなんでしょう。

今回は京都で初開催となったポップカルチャーのイベント「MAGIC KYOTO」(Manga Anime Game International Conference in KYOTO)にて、日本のコンテンツに相次ぐ「実写映画化」という観点から、その最前線にいらっしゃる方々にお話を伺いました。

日本のコンテンツの映画化が、世界市場で“コケる”のはなぜか?

シブヤ・プロダクションズのPresident&CEO セドリック・ビスカイ氏 Lescargotgraphe
シブヤ・プロダクションズのPresident&CEO セドリック・ビスカイ氏 Lescargotgraphe

この素朴な疑問について、まずお話を伺ったのは、モナコに拠点を置く製作会社「シブヤ・プロダクションズ」President&CEOセドリック・ビスカイ氏。毎年モナコにて行われている「MAGIC」の主催者でもある氏は、幼い頃から日本のサブカルコンテンツの大ファン。同プロダクションは、『鉄腕アトム』『コブラ』などのリブート版の製作、ゲームシリーズ「シェンムー3」の共同製作でも知られています。

「かつて『ドラゴンボール』を実写映画化した『DRAGONBALL EVOLUTION』は、本当に評判が悪かったですよね。“版権を売る”という形のみでプロジェクト参加するとどうしてもああいうことが起こってしまいます。作品のクオリティを守るためには、コ・プロダクションとして制作現場にコミットしていくことは欠かせません。

シブヤ・プロダクションズが手掛けた『鉄腕アトム』のリブート版『Astroboy Reboot』 Shibuya Productions, Tezuka Productions, Caribara Animation
シブヤ・プロダクションズが手掛けた『鉄腕アトム』のリブート版『Astroboy Reboot』 Shibuya Productions, Tezuka Productions, Caribara Animation

もう一点大事なのは、あらゆる面で信頼を築けるパートナーシップを選ぶこと。ただアメリカのスタジオが製作やマーケティングにおいて、日本のコンテンツをマーベルのような自国のコンテンツと同等にサポートしてくれるかどうかは疑問が残ります。『パシフィック・リム』が『新世紀エヴァンゲリオン』そっくりなのを見ても分かるように、アメリカのスタジオは日本の作品から得たアイディアを自国の作品として出したいというところがあるように思います。そうしたパートナーシップの問題は、作品の品質や興行に少なからず影響を及ぼすものだと思います」

世界へと展開の成功には、日本がある程度のイニシアチブを持つことは必須と言えそうです。

ハリウッドに頼らなくても実写化はできる?

アニメ監督として知られる荒牧伸志氏。自身のスタジオ「ソラ・デジタルアーツ」で多くの作品を制作
アニメ監督として知られる荒牧伸志氏。自身のスタジオ「ソラ・デジタルアーツ」で多くの作品を制作

そもそもスケール感のあるSF作品やファンタジー作品などを、ハリウッドの資本や技術に頼らず実写映画化することは可能なのでしょうか。

フランスやイタリアで大ヒットした『キャプテン・ハーロック』や、人気シリーズの続編『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』など、多くのフル3DCG作品を、海外からの出資で制作してきた荒牧伸志監督は言います。

荒牧氏の作品『キャプテン・ハーロック』(C)LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners
荒牧氏の作品『キャプテン・ハーロック』(C)LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners

「単純な話で言えば、世界中で作品を公開することが前提のハリウッドには、そういう条件でお金を集め回収するシステムがあるんだけれども、日本にはそれがないということですよね。でも100億200億なんて予算は作れないから日本では無理という考え方は上っ面に過ぎないとも思いますね。というのも、ハリウッド映画で最もお金がかかっているのはスターの出演料ですから。

日本人はすぐに“無理だ”と言うところがあるけれど(笑)、技術としての日本の3DCGのレベルは世界に比べて遜色がないし、本当に作りたいと思えばなんとかなるものです。マーベル作品もおそらく半分くらいは3DCGで作られていますし、オスカーを獲得した『ゼロ・グラビティ』という作品は、極端な言い方をすれば、ほとんどの映像を3DCGで作った上で、俳優さんの実写部分をはめこむといった作り方です。そういう形であれば、日本でも“実写作品”が撮れるかなと思います」

必ずしも「実写映画化」にこだわらなくていい理由

株式会社スクウェア・エニックス 映像プロジェクト ディレクター/プロデューサー/マネージャー『キングスグレイブ FFXV』監督 野末武志氏
株式会社スクウェア・エニックス 映像プロジェクト ディレクター/プロデューサー/マネージャー『キングスグレイブ FFXV』監督 野末武志氏

スクウェア・エニックスのゲームソフト「ファイナルファンタジー(FF)」のシリーズ15作目の映像コンテンツとして、昨年劇場公開された『キングスグレイブ FFXV』を制作した野末武志監督もまた、荒牧氏に同意した上で、実写映画化以外の展開にも大きい可能性があることを示唆します。

「日本でも実写化できる余地は十分あると思います。ただマーベルやDCの映画にどう対抗するかという観点は、あくまでハリウッドの映画ビジネスという土俵の上の話ですよね。僕が日本のコンテンツの行く末を楽観視しているのは、それとは異なるベクトルで示せるものがあると思うからです。今は、技術もメディアも国境も、様々な垣根が崩れていっている時代ですから、これまでとは違う形の挑戦ができるんじゃないか。必ずしもマーベルと同じやり方で対抗する必要はないんじゃないかと」

フル3DCG作品として昨年劇場公開された「キングスグレイブ FFXV」より
フル3DCG作品として昨年劇場公開された「キングスグレイブ FFXV」より

野末氏がいう「様々な展開」とは、昨年30周年を迎えた「FF」がやり続けてきたことの延長線上にあるように思います。「マーベル」が、『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ』『マイティ・ソー』などの個別作品と、クロスオーバー作品を同時につくって「ユニバース」という大きな世界を作っているように、「FF」もまた15本のゲームから続編やスピンオフ、さらにクロスオーバー作品を作り出し、すでに展開させ成功させています。違いは、中心である媒体が「実写映画」でなく「ゲーム」であるという点だけ。そこは映画業界よりも日本がイニシアチブを取りやすい世界といえるのかもしれません。

日本のコンテンツの強みが、映画以上にハマる「AR」

カンファレンスでは「拡張現実(AR)」という世界の可能性も示されました。「拡張現実」とは、現実世界を映した映像に、グラフィックや音を重ね、現実世界が「拡張」されたかのように感じさせる技術のこと。この技術を使ったものとして広く知られているのが、位置情報」と組み合わせた「ポケモンGO」です。

「日本のマンガやゲームの魅力は、描かれるキャラクターの背景が作りこまれていること」とは、イベントに参加した世界的にも知られるコスプレイヤーたちの言葉です。映画のような「大きな物語」を持たず、手の中に入る小さなスマートフォンを使い、何かと何かの合間の時間のなかで楽しむ「ポケモンGO」が大ヒットしたのは、まさにその数分で楽しめるキャラクターの作りこみがあったから。そうした点に重視して作られている日本のサブカルコンテンツにおいて、ARは「マーベルとは異なる土俵の、これまでと違う形の挑戦」といえるのかもしれません。

「ハリウッドで実写映画化」という言葉には、日本のサブカルコンテンツがある種の到達点に達したようなニュアンスを覚えます。でもそれはただの思い込みに過ぎないのかもしれません。その魅力や強みを生かせる場は、さまざまな選択肢があるのかもしれません。

取材後記

「マーベルのすごさは新しい“成功のメソッド”を作り出したところです。でも製作に様々な人が関わる中で、作品の芯の部分のコントロールが上手くいっているのは奇跡的なこと。メソッドだけを真似しても、結局上手くいかないものは上手くいかない」という荒牧氏の言葉は印象的です。

確かにマーベルの『アベンジャーズ』(全世界興収 約15億ドル)に比べ、後発DCの『ジャスティス・リーグ』(全世界興収 約6億ドル)はそこまでの成功に至ってはいません。コンテンツとして同等の人気があっても、同じ規模の成功には結び付くわけではないということがわかります。

今回は、日本のコンテンツが世界で展開するための様々なご意見を伺ったのですが、実はこうした課題をおおむねクリアしているのが「ポケットモンスター」です。ゲームからスタートした同作品は、アニメやマンガへ、関連商品へと展開。日本で制作した劇場版アニメ映画を世界で公開し、ARの「ポケモン Go」も世界的なヒットを記録。そして来年、満を持して公開される実写版映画『Pokemon : Detective Pikachu』では、コ・プロダクションとして、ライセンスを管理する日本の株式会社ポケモンと任天堂が名を連ねます。この作品がどのような結果を残すのか。新たな試金石として注目したいと思います。

※「Pokemon」の「e」にアキュートアクセントが付きますが、閲覧ソフトでは表示できないため「Pokemon」とさせていただきました。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は、個人の発信者をサポート・応援する目的で行なっています。】

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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