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祝・来日!ハリウッドNo.1の「愛されスター」 トム・クルーズは、なぜこんなにも愛されるのか。

渥美志保映画ライター
(写真:ロイター/アフロ)

最新作『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』のプロモーションで、なんと22回目の来日を果たしたトム・クルーズ。『トップ・ガン』以来、アラフォー世代にとっては言わずと知れた時代のヒーローですが、同じ世代の俳優でも、彼ほど長く第一線で活躍している俳優はほかにはいません。っていうか、個人的には若い頃より、むしろ今のほうが全然好きな俳優さんです。今回は新作のご紹介も含めて、なぜか年々増してゆくその魅力に迫ってみたいと思います~。ということで、まずはこちら!

トム・クルーズといえば『トップガン』

アラフォー世代にとって、トムと言えば『トップガン』のマーヴェリック役です。若い世代にちょっと説明すると“トップガン”というのは、アメリカ空軍トップの戦闘機パイロットだけを集めた集団で、マーヴェリックはその中でもトップ・オブ・トップ、抜群の航空技術を誇るのですが、上官の命令を全然聞かずにむちゃをする向こう見ずな性格や、訓練から戻るときは必ず管制塔をかすめて管制官が肝を冷やすのを見て面白がるというやんちゃぶりに上官たちも手を焼いています。トム・クルーズが乗っているバイクがKawasakiのNijaというめちゃめちゃ早いバイクで、これで滑走路を走る戦闘機と並走する姿なんて、ノーヘルでレイバンでAVIREXで、若い人にはさっぱり分からないでしょうが、素晴らしくカッコいいものでした。

好景気に浮かれた80年代は若者文化が花開き、『アウトサイダー』『ブレック・ファースト・クラブ』『セント・エルモス・ファイア』などの青春映画が大量に作られ、アイドルスターもどんどん出てきた時代です。中心だったマット・ディロン、エミリオ・エステベス、ロブ・ロウ、アンドリュー・マッカーシー(ちなみに女子ではデミ・ムーアも!)などの中で、イケメンだけど背が小さくてレスリング体型のトムは、当初はそれほど目立つ存在ではなかったと思います。でもほかの連中がドラッグに溺れたり人気に甘んじて失速してゆく中(『アイアンマン』のロバート・ダウニーJr.もドラッグで!)、’86年の『トップガン』で大スターになったトムは、「アイドル」から「俳優」になるべく奮闘し始めます。エラい!トム!

ジャックー・リーチャー!
ジャックー・リーチャー!

演技を磨くために難しい作品もやってきたけれども。

ここから90年代いっぱいのトムはチャレンジの連続、次から次へとすごい監督のもと、すごい共演者を相手に演技を磨いてゆきます。

まずは『トップガン』が公開された同じ年の『ハスラー2』。伝説のハスラーを描きビリヤードブームを巻き起こしたこの映画の監督はマーティン・スコセッシで、共演のポール・ニューマン(オスカー受賞)。

自閉症の兄と奔放な弟の関係を描いた『レインマン』は、バリー・レヴィンソン監督(オスカー受賞)で、共演はダスティン・ホフマン。

ベトナム戦争の帰還兵を痛々しく演じた『7月4日に生まれて』は、自身が帰還兵であるオリバー・ストーン監督(オスカー受賞)。

後に『あの頃ペニー・レインと』を撮るキャメロン・クロウの作品『ザ・エージェント』では、自身はアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、助演のキューバ・グッティングJr.は助演男優賞を受賞。引き続き同監督の作品で、大スターにあるまじき顔面崩壊の男を演じた『バニラスカイ』は、スペインの新鋭『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル(『アザーズ』)の作品『オープン・ユア・アイズ』をリメイクした作品。

当時の妻ニコール・キッドマンと共演した『アイズ・ワイド・シャット』は、御大スタンリー・キューブリックの遺作。

オタク男にマッチョな男汁を注入するセミナーの主催者を演じた『マグノリア』は、天才ポール・トーマス・アンダーソン(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』)。

前世代の伝説の監督から、新しい才能の発掘まで、もうほんとにすごい顔ぶれです。そこには俳優という職業に真剣に取り組んでいるからには、やっぱり後世に残る名作のような作品に出たい、世間に演技で認められたいという当然の欲望があったんじゃないかなーと思うのです。前の時代ではアル・パチーノが、最近で言えばレオナルド・ディカプリオがそうだったように。でも執念でこれをモノにした二者とは対照的に、トムは『マグノリア』を最後にすっぱりとそうした作品と縁を切り、そこから先は観客が自分に望むエンタメ作品を自らのプロデュースで作り始めます。

私が「どうしてもオスカーを取りたいレオナルド・ディカプリオ」にモヤモヤしたのは、こうしたトムの軽やかな在り方を見ているから。そこにあるのは「やれることはやったんだから、あとは観客と自分がつながれる作品を」という晴れやかさです。もちろんレオだってクマと戦ったり生肉食ったりすごいとは思いますが、私の個人的な意見としてはレオがそんなことしてる姿、ぜんぜん見たいと思いませんでした。役者でありたいレオに比べ、トムは「観客の望むトム」を追及する完全なアイドルなのかもしれませんが、その全力ぶり――スタントを使わず見せる信じられないアクションの数々!――がレオより劣っているとは決して思いません。すごい!トム!

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映画に人生のすべてを捧げる男

もっと言えばトムは、こういう作家作品に出演しながらも、並行して『カクテル』とか『デイズ・オブ・サンダー』といった娯楽作も作り続け、96年には『ミッション・インポッシブル』を自身の主演作を初プロデュース。『男たちの挽歌』のジョン・ウーや、『スターウォーズ フォースの覚醒』でいまや飛ぶ鳥落とす勢いのJ.J.エイブラムスなど、当時はハリウッドでは知られていなかった作家性の強い映画監督を起用します。

さらに共演者においては、ニコール・キッドマン、ペネロペ・クルス、ケイティ・ホームズなど(全員恋人にして捨てられてるところもご愛敬)の女優はもとより、悪役の若手なんかのキャスティングにも手抜きがありません。

私は『ボーン・アイデンティティ』シリーズが大好きなのですが、最新作の『ジェイソン・ボーン』で悪役がヴァンサン・カッセルだったのを見て、そのあまりのフレッシュ感のないキャスティングに少なからず失望しました。トムの映画ではこういうことがぜんぜんないどころか、「この人すごくいいけど誰?」というキャスティングが必ずいます。今回も、戦うヒロインのコビー・スマルダースや、悪役の殺し屋パトリック・ヒューシンガーがすごくいい。トムの作品が面白く、見なきゃ!と思わせるのは、そういう手抜きのなさからくるものだと思います。

来日会見では、自分の仕事について、こんな風にも語っていました。(映画の話をし始めると、止まらなくなっちゃうのも愛すべきところです(^^;))

「僕は1週間に7日働くし、数年間休みも取っていません。それは働くのが好きだから。もちろんそうじゃない人がいることを否定はしませんが、僕が一緒に映画を作りたいなと思う人は、やっぱり全力ですべてを捧げてくれる人。この仕事は普通の仕事とは違いますよね、だって別に映画なんて作らなくたっていいんですから。でも僕は4歳の時から映画を愛しつづけてきたし、その情熱で生きています。そして一緒に働く人の情熱に学びたい。僕が教えてあげられることもあるかもしれないけれど、ほとんどは僕が生徒、僕が学ぶことの方が多いんです。

そして作った作品では観客の皆さんを楽しませ、別の世界へと連れて行ってあげたい。世の中にはさまざまなジャンルのたくさんの映画があります。そういう映画をどうしたら楽しんでもらえるか。仲間たちと助け合いながらそれを考え、作品によって観客とコミュニケーションをとりたいです。その経験が何よりも好きだから。どうしたらいいかわからない、すごくチャレンジングなことも多いけれど、僕の人生は映画を作るためにある。それを証明するために、自分に厳しく学び、鍛錬しつづけたいと思っているんです」

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『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』

(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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