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来日中の大プロデューサーJ・J・エイブラムスは、何がそんなにすごいのか?

渥美志保映画ライター
『スタートレックBEYOND』で脚本も担当する俳優サイモン・ペグと。お茶目な人!(写真:Splash/アフロ)

最新作『スタートレックBEYOND』のプロモーションで一昨日、来日したプロデューサー、J・J・エイブラムス。例えばジョージ・ルーカスやジェリー・ブラッカイマーなど、その時代時代に一世を風靡するプロデューサーっているものですが、JJエイブラムスもそんな人物の一人。でも彼のように、プロデューサーでありながらクリエイターとしての手腕もすごい!という人はなかなかいません。今回は「J.J.エイブラムスって名前は聞いたことあるけど、ほんとのところどんな人?というところに迫ってみたいと思います。

『スターウォーズ フォースの覚醒』――復活した「伝説のシリーズ」を掛け持ちするフランチャイズ請負人

さて今回の来日目的は『スタートレックBEYOND』のプロモーションです。ということで、まずはこちら。

とはいうものの。この人の名前が全世界に知れ渡ったのは、昨年公開された『スターウォーズ フォースの覚醒』の監督としてなんじゃないかなーと思います。でもちょっと詳しい人、例えば「映画を監督で見る」というこだわりの人であれば、トム・クルーズ主演の『M:I:3』かもしれません。実はこの人、現在『スターウォーズ』『スタートレック』『ミッション・インポッシブル』という人気フランチャイズすべてにプロデューサーとして関わっている人なんです。『M:I:3』が2006年で初監督で、それ以降はプロデューサーとして現在は6作目を準備中、『スタートレック』シリーズでも1~2作を自身で監督し、本作はプロデューサーとして参加、『スターウォーズ』シリーズでは『SWフォースの覚醒』を監督し、次回作『スターウォーズEP8』ではエグゼクティブ・プロデューサーとして監督の手綱を引きます。すごい働きっぷりです。

でも何がすごいって、彼が復活させた新シリーズを、ファンが好意的に受け入れていること。『スタートレック』もアメリカでは“トレッキー”と呼ばれるディープなファンを持つ伝説のシリーズですし、『スターウォーズ』はいわずもがな。『SWフォースの覚醒』には多少の賛否はありましたが(さすがのJ.J.が少し無難になっていた感じw)、「おおむねオッケー」という評価だったと思います。なぜでしょうか。それはおそらく、J.J.がそもそも「ファン目線」だからなんですね。

『スーパー8』――ベタなドラマとオタクネタの絶妙なバランス

さてここでJ.J.を語る時に外せない一本、彼が製作・脚本・監督の3役をこなした『スーパー8』に触れなければいけません。ということでこちら。

この作品、1979年を舞台に田舎町で勃発した宇宙人騒動を描いた作品。主人公は幼馴染とともに8ミリカメラで映画を撮る少年なのですが、J.J.も同じ年頃で最愛の祖父に8ミリカメラを買ってもらい、幼馴染(『クローバーフィールド』の監督)と映画を撮り始めています。つまりこの主人公はJ.J.の投影と言えるのですが、彼らが撮っている映画が「ゾンビもの」。この時代にゾンビに熱狂して映画を撮り始めるなんて、映画オタク以外の何物でもありません。それを裏付けるかのように、この作品は彼が見ていたに違いない映画――『未知との遭遇』『E.T.』『エイリアン2』『ゾンビ』などに加え『ジョーズ』や『激突!』の手法まで――の小ネタが随所にちりばめられています(ちなみにこの作品のプロデューサーはスティーブン・スピルバーグ)。

でもそんなもん知らなくても全然楽しめるのは、J.J.は誰もが理解できるベタはドラマを描くのも上手だから。主人公の少年はこの事件の少し前に母親を亡くしていて、全体として少年が母親の死を乗り越えて前を向くまでの物語になっているんですね。少年が生まれた時に父親が母親にプレゼントしたネックレス(ロケット)があるのですが、この小物が随所ですごく上手に使われて、ラストの泣かせにも効いています。

こういう誰にでもわかる脚本を書く人って、エモーションを掻き立てる方法を知っている人、つまりすごくきっちり理論構築ができる人なのですが、J.J.のすごさは時にそれをすっ飛ばすこともできること。そのやり方で全世界で空前の大ヒットを記録したのが『ロスト』です。

『ロスト』――理屈をすっ飛ばして広げる、「謎また謎」の大風呂敷

『ロスト』はご覧になった方も多いかもしれませんが、航空機の墜落で名も知れぬ無人島で暮らさざるを得なくなった乗客たちの物語です。そこで物資の奪い合いや主導権争いが起こったり、考え方の違いから集団がふたつに分かれたり、新たな恋や新たな生命が生まれたり、人間関係においてもいろんなことが起こるのですが、それ以上に視聴者を引き付けたのは「島の謎」です。

島には正体不明の野獣がいることが分かり、何者かが発する無線信号が流れ、とある場所の地下に謎のハッチが埋め込んであり、ある数字を入れなければ世界が滅亡すると信じる男がいて、そうした出来事が各乗客の過去とつながりがあることが分かり、乗客だと思っていた中に乗客名簿にない男がいて、妊婦が誘拐され、乗客たちが実は意図的に集められていたことが分かり、かつて島には奇妙なコミュニティがあったことが分かり、島は実は時を超えていることが分かり、島と普通の世界を行き来している連中がいることが分かり、すべての背景にある大富豪がいることが分かり――と毎回毎回新たな謎が登場し、話がどんどん大きくなってゆきます。

最終回までいっても多くの謎は完全には説明されず、いわば「やりっぱなし」。でもだからこそ謎に引き付けられた多くのファンが、「結局あれは何だったの?」と場外で様々に推理をめぐらすことで、人気に火が付いたというドラマでした。

つまりJ.J.は、「あれは何?」って聞かれたときに全部説明したくなってしまう「ただ頭がいいだけの人」と異なり、「謎」を「謎」のままにすることを全然恐れません。これは誰にでもできそうでなかなかできないことだし、それでいて面白いんだからすごいですよね。J.J.は自身が出演したTEDでも、エンタテイメントにおける「謎」について、こんな風に言っています。

(幼い頃に祖父がマジックショップで買ってくれたまま、ずっと開けずにとってある箱について)この箱が気に入っているのは、私が何をするにせよ、無限の可能性に、潜在性の感覚に惹かれるからなのです。それに、謎はイマジネーションを引き出すことに気づきました。そんなにすごい考えではないかもしれませんが、時として― 謎が知識より価値を持つ場合もある。そう思うようになって、謎に対してすごく興味を持ちました。

出典:http://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20150528-00000205-ted

さて最後に、J.J.が手掛けた最新ドラマ『ウェストワールド』についても触れておきましょう。

J.J.の製作総指揮で、監督・脚本は『ダークナイト』シリーズを手掛けたジョナサン・ノーラン(『ダークナイト』監督クリストファー・ノーランの弟)。このコンビ、『パーソン・オブ・インタレスト』という人気ドラマの顔合わせなんですが、そこで描いた「人工知能」というネタを、『ウェスト・ワールド』ではさらに壮大なスケールで展開させる――という感じでいろいろ大きくなっちゃったんでしょう、実は去年完成するはずが1年遅れ。でもそれだけのものを見せてくれるに違いない!と期待したいと思います。

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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