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夫婦の理解は、誤解の始まり?

渥美志保映画ライター

ゴールデングローブ賞の候補者が発表され、ハリウッドで最も華やかな季節が幕を開けましたー。今年はどの作品が、誰が、どの賞を取るのか、ぶっちゃけまだまだぜんぜん追い切れてませんが、きっとこの映画は話題のひとつになるはず!という作品、『ゴーン・ガール』を今日はご紹介します。テーマは田舎町で起きた美しい奥様の「謎の失踪事件」から、浮き彫りになる男と女の真実。地下鉄駅構内なんかではベン・アフレックの憂鬱な後姿のデカい看板を妙に見かけますが、ネット上の記事ではベンアフの絶妙なアホ面が話題になっていて、なんなのこれサスペンスなのコメディなのどっちなのー!って感じで、まあボチボチいきましょか。

さて物語。主人公の夫婦はミズーリ州の田舎町に住む、ニック&エイミーの美男美女のカップル。以前はNYでライターをしていましたが、景気もイマイチだしオレの故郷で商売でもやるか、な感じでニックの故郷に暮らしています。その日は5回目の結婚記念日。ニックが妹と共同経営するバーで真昼間から飲んでいるのは、毎年結婚記念日にエイミーが企画する「宝探しゲーム」のため。エイミーが家の中に謎かけの手紙や宝物を仕込み終える時間つぶし。それなりに幸せそうな“面倒臭えなあ”な笑顔です。ところが。家に帰ってみるとエイミーの姿はなく、部屋は荒らされ血痕が残されていました。エイミーの親がちょっとした有名人だったこともあり、事件は格好のマスコミネタになってゆきます。当然ながら「クサい」と疑われていたニックは、思わぬ事実の発覚で全米中から犯人扱いされるに至り、自らの疑いを晴らすために孤軍奮闘し始めます。

映画の前半は、事件の捜査が進む中に、ふたりのこれまでを回想で差し挟みながら進んでゆきます。エイミーは人気絵本作家の娘で、ベストセラーの絵本「アメイジング・エイミー」の主人公のモデルであり、そのイメージ――完璧な優等生――で世の中に知られた有名人。インテリで都会的でリッチ、どっちかっていうと神経質なブロンド美女です。これがニックと出会って恋に落ちるわけですが。恋は盲目って言うし、都会にいる時はそれなりに見えてたからかもしれないけれど、ニックは根本的には“ものを深く考えないポカーンとした素朴な兄ちゃん”なんですね。だからこそ「これまでの人と違う」って思っちゃったのかもしれないけど、例えば「どんな女もこのセリフで落ちるんだよな」程度にしか女を理解できない、単純な田舎男なわけです。

個人的にベンアフには「スーツのズボンからシャツの一部がグシャっと出てる男」のイメージがあり(いや、ほんとに出てたことはないんですけど)、そのなんかユルい感じ、なんかだらしない感じが、なんともこの役にはまり過ぎ、てか素じゃなきゃビビるわ!ってくらいの名演技です。まあそんな能天気なズボラ男と、神経質な理論派女子が相性ピッタリで幸せラブラブ~なんてなるはずがありませんねー。結婚してふたりの溝がじりじりと開いていく過程は、女子的には「あるあるある」のオンパレード。その上、金銭的にも信託資金を持っているエイミーとは格差婚の面もあります。エイミーが仕事から戻ると、不況のあおりで仕事が減ったニックが家でだらっとゲームしてる、とか、信託資金の半分を親に貸したというエイミーに、「俺に何の相談もなく」って怒るとか、そのありえないダメ男ぶりに、100万人の女子が「きーーーー!」となるに違いありません。そしてこのダメっぷりゆえに、あれよあれよという間に失踪騒動の最重要容疑者になっていくわけです。女子なら「きーーーー!」となった分のカタルシスがたっぷり、「身から出た錆じゃ!」とささくれた笑いが止まりません。

テーマのひとつは、「結婚」です。夫婦って実は相手のことをわかっているようで、全くわかっていないんですね。映画の冒頭、ニックの視線のカメラは少し邪悪なエイミーの瞳を捕え、「頭を割って何を考えているか知りたい。それは結婚の基本的な問い」というニックのセリフがかぶさります。事件なんて関係ない夫婦やカップルでも、たぶん日常的に相手に「何考えてるの?」って言っていますよね。でもこのセリフからして、すでに男と女では意味が違います。女が男に「何考えてるの?」という時、その意味はたいてい「なんでもっとちゃんと考えてくれないの!(夫の思考回路=ちゃんと考えてくれていないことが手に取るようにわかって、頭にくる!)」。でも男が女に「何考えてるの?」という時は、「女の理屈や思考回路が理解できない(例えば「こんなに言うとおりにしているのに、何が不満なのかわからない」など)」という意味だったりします。そんな人たちが一緒に暮らして幸せを目指すんだから、そりゃあ相当な努力と忍耐が求められるんでしょう。

この映画はよく「夫婦で見ないほうがいい」と言うのは、このあたりを赤裸々に描き出しているからかもしれません。見た後に映画について話し出したら、「あの時あなたはああだった」「お前だってひどい」的に、“思い出し喧嘩”とか始まっちゃいそうな感じ、ものすごーくあります(笑)。でも大人の女子同士、大人の男子同志で見に行くなら、絶対におすすめ。男ってさー!とワインをがぶ飲みするもよし。女ってああなんだよなー、ほんと困っちゃうよなーと晩酌傾けるもよし。さてニックは理解不能の妻に耐えきれず、その頭をかち割ったんでしょうか。

ゴーン・ガール

2014年12月12日(金)全国ロードショー

(C)2014 Twentieth Century Fox

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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