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男と女、分かり合えないのに、なんで一緒にいるの?

渥美志保映画ライター

今年も知らん間に年末になっちまいました。我が家では毎年友人が家に来て、美味しい食べ物とお酒をお供に、ドラマや映画のシリーズものを一気見するのが定番です。リアルタイム『24』とか、血ヘド出るまで『善徳女王』全 60 話とか、ゆったり平和な正月休みに何 が悲しくてそんな無茶すんのか、我ながら分かりませんが、それもまあお正月だけのぜー たく。

そんなわけで今年の最後は「一気見作品」をご紹介!なんだけども!

ここに男子と女子の間の深い断絶を感じずにはいられません。だって男子はサスペンスとかアクションとかでハラハラドキドキしたいんだろうけど、女子は韓流の恋愛モノでトローンとしたいわけ。カ ップルで過ごすことの多い正月は、誰もがこんな断絶とがっぷり四つ。男も女も両方満足させる「一気見作品」はないもんか?!と探したら、ありましたー。今回はそのシリーズ作品『ビフォア三部作』をご紹介します。

このシリーズが描くのは、ジェシー&セリーヌというカップルの18年。それをリアルタイムの時間経過で描いてきた独特のシリーズです。1作目の公開は18年前、ふたりの出会いの一夜を描いた『恋人たちの距離(ディスタンス) ビフォア・サンライズ』。そのふたりの9年後の再会を描いた2作目『ビフォア・サンセット』は、実際に9年後に公開。そこからまた9年後に作られた3作目『ビフォア・ミッドナイト』は、物語も9年後、事実婚の子持ちカップルとなっているふたりを描きます。

カップルを演じているのはイーサン・ホークとジュリー・デルピーで、もちろん作品と同じ時を経ていますから、カップルの時間経過を描く作品としてこれほどリアルなものはありません。

さらに何がリアルって、その会話。「全部アドリブ か?」って思うくらい自然でリズム抜群の掛け合いは、結婚と恋愛の「あるある」だらけ。

胸がキュンとする恋の瞬間をロンマンティックに描いた1作目、大人になったふたりの駆け引きとともに、大人になることの切なさを描く2作目、それもすばらしいんですが、リアルさで右に並ぶものがいないのは3作目。相手をほとんど知らなかった前2作とは違う、生活をともにしたカップルの「あるある」100連発。これ先週、あいつに浴びせたセリフじゃねーか!」と誰もが思うに違いありません。たとえばこんな感じ。はい、どん!

――あなたは荷造りさえしない

――キミがさせないんだろ

――汚れた下着を一緒にするからよ!

――男は結局は頭の軽い色気のある女が好きなのよ

――それが男の生態だ、女が男を変えようとしても無駄

――結婚した子持ちなのに黙ってた

――そんなの些細なことだろ

――私を責めないで。あなたが対応を失敗したのよ

――どうせキミが正しい。うまくいかないことは、いつだって僕のせいだ

おおおお、なによなによなんなのよ、このデジャブ感!

ジェシーの言い草には、女子的には「こおおるぁあああ!」って思ったりもしますが、実はセリーナのトラップも相当なものなんですねー。はい、どん!

――(18 年前のように)今日、列車で私と出会ったら、今のままの私に声をかける?

――それ は仮説的な質問だ

――誘わないのね、テストは不合格

いかんな、セリーナ、それは聞いちゃいかん。

にしてもジェシー!そこは「誘う」って言っとけよ!不器用も正直も女子的には評価外なんだからさあ!と思いますが、もしジェシーがそう答えても、セリーナが「ウソばっかり!」と絡むこと間違いナシなので、いかんともしがたい!

さらに『サンライズ』でのほほえましいエピソードを持ち出して、「ああしてやらなきゃ、あなたは私とセックスしなかった」と言い放っちゃうんですねー。ウソかよ、セリーナ!胸キュンしちゃったのに、あれウソだったのかよー!って話です。まあでも、ありますよねえ、ほら、恋愛ってウソの上に成り立ってるもんだから。

ふたりの応酬はラスト近く、友人がふたりのために予約してくれたホテルの一室の場面が圧巻です。

「ロマンティックな一夜」にしようと互いに雰囲気盛り上げている最中、電話がかかってきて胸を出したまま日常テンションに戻るセリーヌが笑えます。雰囲気はすっかり壊れちゃうんですが、その後も普通に出しっぱなし。会話もさることながら、そういうところのリアルさも笑えます。女子の最終兵器ともいえるおっぱいが、長年連れ添ったカップルの間で無意味化しちゃってるんですねえ。いやはや。

さてそんなカップルがそれでも一緒にいる理由はどこにあるのか。映画の中盤、バカンスに集まった数組のカップルの言葉が、その答えに多くの示唆を与えてくれます。例えばこんな感じ。

恋愛に夢中になるな。最高の幸せをもたらすのは友情と仕事

“最高の相手”は自分の不完全さを満たし、安心させてくれる人

終わりの時に大事なのは誰かへの愛でなく、人生への愛

妥協はお互いに

私たちの人生は、日の出や日の入りと同じ、ほんの束の間。この世に姿を現し、消えてゆく。誰かにとって「とても大切な存在」だとしても、過ぎ去っていってしまうのよ

さらーっと過ぎていく言葉のひとつひとつが名台詞。そしてその時の心境により、見るたびに違うセリフが心に残ります。ジェシーに「移り変わりに興味がある」というセリフがありますが、シリーズは一組のカップルの感情、関係の移り変わりを描き、言葉に出来ない人生の深みを感じさせます。

一緒にいると面倒くさいのに、ひとりでいると寂しい。カップルもシングルもその幸せと不幸を半分ずつ持っているのかもしれません。作品の魅力は、それを笑い満点で描いているところなんですねー。

ということで、最後に『ビフォア・ミッドナイト』に登場する小話をひとつご紹介しましょう。

映画に登場するある女性が、看護師だった母親から聞いた話です。

こん睡状態だった患者が覚醒する時に、彼女は必ず説明します。「あなたひどい事故に遭ったの。でももう心配ないわ」。

患者が女性の場合、気にかけるのは周囲の人間について。「子供は無事?夫は大丈夫?」

でも男性が最初に心配するのは、例外なく下半身。無事かどうか。

男と女って、ほんとに違う動物なんですねえ。つくづく。

『ビフォア・ミッドナイト』 

2014年1月18日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国公開 

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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