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ハ・ジョンウ、『メビウス』、イ・ソンギュン。”最遅”釜山映画祭レポート(その2)

渥美志保映画ライター

ハロウィーンが終われば世の中はさっさとクリスマス一色。この時期の、はい次!はい次!とばかりに年末へとせきたてられていく感じ、本当にイヤですよねえ。まだ10月くらいの気分でいたい!いさせてほしい!という人がいるのかどうかわかりませんが、まあいるってことで!まあぶっちゃけいようがいまいが!10月からいまだ引っ張り続けている釜山映画祭レポ(その2)をお送りしたいと思います。今回は今後日本で公開されるんじゃないかなー、な注目の韓国映画『ザ・テラーライブ』『メビウス』『うちのソンヒ』の3本をご紹介。(その2)の前に別の記事書いてんじゃねえよ!って思った人、いますね。言われますね。メゲませんけど!

●ザ・テラーライブ

カッコイイからじゃんじゃん苦悩したらいいと思う
カッコイイからじゃんじゃん苦悩したらいいと思う

この秋、ポン・ジュノの超大作『スノーピアサー』とのケンカ上等!的な同日公開で500万人以上を動員、結構いい勝負しちゃった『ザ・テラーライブ』は、いまや韓国映画界No.1の興行力を持つスター、ハ・ジョンウの最新作。テロリストから電話をもらったラジオのキャスターが、その通話を、ソウルで次々と起こるテロとともにライブ中継するという作品です。

ハ・ジョンウ演じる主人公ユン・ヨンファは、不祥事で飛ばされ小さなラジオ番組を担当するキャスター。正体不明の犯人からの電話を受け、この一世一代の特ダネを利用してメインニュースのアンカーに返り咲こうと目論見ます。ところが犯人はヨンファが耳に入れたイヤホンに爆弾を仕掛けていて、はずすにはずせないヨンファは犯人の要求を飲むしかなくなっていきます。利用するつもりが利用され、ずぶずぶと罠にハマっていくハ・ジョンウがいいです~。ただの二枚目じゃなく、悪さ、暗さ、情けなさを魅力的に見せるすべを知ってるんですねえ。特ダネを巡る局内の駆け引きや保身に走る人間の醜さ、権力構造のドロドロが浮き彫りにされてゆく中、やがて見えてくる犯人の本当の狙いとは?もちろんただのテロリストじゃありません。ラストが衝撃的です~。

さてこの手の作品でハ・ジョンウと聞けば、アクション映画か?って思いますが、実はこの作品、ほぼ完全な密室劇。ハ・ジョンウはスタジオからほとんど出ず、麻哺大橋ドッカーン!議事堂バーン!みたいなテロは、外に見える風景やテレビ画像などで、すべてCGで作られています。

ずっとスタジオの中ですけど、ビジュアルはメガネとか服とかいろいろ変わります。
ずっとスタジオの中ですけど、ビジュアルはメガネとか服とかいろいろ変わります。

にも関わらず緊張感バリバリで、それをキープできる1時間半という長さも程よく、最初から最後までビュンビュン突っ走る感じ。これだけのクオリティを保てるのは俳優の名演技の賜物。名脇役に目がない私は、野心まみれのクソ報道局長を演じるイ・ギョンヨンさんにシビれました。『ベルリン・ファイル』でもハ・ジョンウの北朝鮮の上官を演じていましたが『サニー 永遠の仲間たち』では憧れの彼氏の30年後なんか演じたりして、芸域が広い俳優さんです~。興味ありませんねー、かまいません、私があるんでw。

さて再びハ・ジョンウ。釜山映画祭では自らの監督作『ローラーコースター』のプロモーションで大活躍してましたが、ビックリしましたー。だって丸ハゲやないけーーーー!。実はこれ次回作のコミカルな時代劇『群盗 民乱の時代』のための役作り。『悪いやつら』の監督の次回作で、前作のヤクザたちが本作では盗人に扮し、対する捕盗庁の凄腕剣士にカン・ドンウォンという顔ぶれ。丸ハゲのハ・ジョンウが、いい男対決でどうやって戦うのか、見てみたいところです~。

●メビウス

どろーんと性欲な感じの一家。このうちふたりが去勢予定。な、なぜにっ?
どろーんと性欲な感じの一家。このうちふたりが去勢予定。な、なぜにっ?

『嘆きのピエタ』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を獲得したキム・ギドク監督の最新作は、夫の浮気に狂った母親が、息子のお○ん○んを切って出奔するという壮絶なお話。ええええオンマ、なんで俺のなんだよ~っ!と全韓国の息子が叫ぶに違いない悪夢的お門違いな逆恨みに度肝抜かれたと思いきや、それを受けて罪悪感に苛まれた父親は、お○ん○んがなくても性的快楽が得られる方法を息子のために必死で探す!ええええアボジ、そこですか!それよりもっと別のこと心配せんでええの?いやそりゃありがたいけども!という煩悩まみれのトンチンカンぶり。いえ、これは笑いがとりたいわけじゃなく(笑っちゃったりもするけれども)、つまりこの家族、性欲から逃れられず七転八倒しているわけです。

キム・ギドクは他人に提供する脚本のタイトルはほんっとにテキトーですが、自分の監督作品のタイトルはものすごく含みがあります。『メビウス』のミソは、妻と愛人を同じ女優が演じていること。それは表と裏が地続きになるメビウスの輪の暗喩であり、性欲が逃げ場なく無限ループしていくことの象徴。映画はその行き着く果てを描いてゆきます。哲学めいてますね。キム・ギドク、哲学的変態です

独自の快楽路線を、必死に模索する父子。ご覧の通り笑い事じゃない雰囲気
独自の快楽路線を、必死に模索する父子。ご覧の通り笑い事じゃない雰囲気

さらに、ここに漂うのがキリスト教の匂い。罪悪感と自己処罰、厳格な道徳規範とその裏返しとしての背徳です。キム・ギドクの作品に何が出てこようがビックリしませんが(イヤ去勢はビックリしたけども)、保守的な韓国ではある場面がすごく問題になり、公開に当たって編集と年齢制限でモメにモメたようです。日本ではきっと「完全版」とか銘打って、ノーカット版を公開するはず!勝手に決定!

主演はキム・ギドクの出世作『悪い男』でおなじみのチョ・ジェヒョン。ギドクが描くドマジでトンチンカンな変態男には、やっぱりこの人が一番ハマる気がするなー。背も小さくてイケメンでもない、ほんとに普通の人なんだけど、どこか歪んでいて、どこか怖い感じのする俳優さん。名優です~。

●うちのソンヒ

一番右側がイ・ソンギュン。ステキだけど、時々「歯グキ」って呼んでしまう悪い私。
一番右側がイ・ソンギュン。ステキだけど、時々「歯グキ」って呼んでしまう悪い私。

ドラマ「コーヒープリンス1号店」「パスタ」でおなじみのイ・ソンギュンの最新作は、美人でちょっとしたたかなソンヒと、彼女のことを好きな3人のアホな男の物語。監督はヨーロッパで高い人気のホン・サンスで、作品はいつも男女の恋を巡る会話劇。ぶっちゃけ物語はほとんどないし、特別な設定もあるわけじゃないのに、描かれる男女があまりに“あるある”“いるいる”で、毎回笑っちゃうんですよねえ。

中でも特に可笑しいのが、どの映画にも2~3回は必ずある“飲み屋”の場面。なんと俳優にガチで飲ませて撮ってるんですね。たぶんOK出るまで延々と飲ませていて、俳優たちは酔っ払いを演じているはずが、そのうちホントの酔っ払いになってくるわけです。そしてここ数年のホン・サンス映画の顔になりつつあるイ・ソンギュンは、その酔っ払いっぷりの面白さで他の追随を許しません。もう、ぶっっっっちぎりの面白さ!あんた映画に出てる場合じゃないってば!といいたくなるほどベロンベロンで、この作品の中では1度なんて途中でセリフが飛んじゃうんですね。あまりに酔ってて、しゃべってる途中で何言うつもりだったか忘れちゃう酔っ払いっていますね。そういう場面を「演じてる」んじゃなく、マジで酔っぱらっちゃって言うこと(セリフ)忘れちゃってるという完全無欠のリアリティ。ああこういうヤツいるいる!っていうおかしさに、イ・ソンギュン、あんた飲み過ぎだ!っていうのが重なって爆笑せずにはいられません。二枚目俳優のこんな姿、一緒に呑んだって見られないと思います。

ベロンベロンになって女に絡みます。テレビじゃ見られないステキなダメっぷり
ベロンベロンになって女に絡みます。テレビじゃ見られないステキなダメっぷり

釜山にはもう1本、『誰の娘でもないヘウォン』というホン・サンス作品が出ていましたが、この主演女優が、実は先日、加瀬亮と写真を撮られたチョン・ウンチェ。加瀬亮は彼女と共演でホン監督の次回作を撮ってるので、次のベロンベロン男はきっとこの人です。初めての加瀬亮が見られそうで、楽しみですねー。

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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