MLBの 屋根付き球場をもつ3州での試合開催案を考える

ホワイトソックスのキャンプ地、アリゾナ州グレンデールのキャメルバック・ランチ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 先日、世界のプロ野球の現状についてお知らせしたが(「NPB、今シーズンの交流戦中止を発表。新型コロナ禍の中、世界プロ野球の現状はどうなのか」, https://tool.bylines.news.yahoo.co.jp/report/access/article/detail/article_id=00174082&kind_flag=2&year=2020&month=04&device=all)、その後、台湾に続いて韓国でプロ野球開幕に向けての動きがあった。

 一方、アメリカでは、一部報道で、新型コロナ禍で開幕が延期されている北米プロ野球・MLBの今シーズンの公式戦を屋根付き球場のあるアリゾナ、テキサス、フロリダの3州で集中開催する案が出てきていると報じられている。もともとは全体の半数の球団がキャンプ地を置いており、州都フェニックスにダイヤモンドバックスの本拠、チェイスフィールドのあるアリゾナ州での集中開催を想定した当初案を、同じくキャンプ地で州内に2つの屋根付き球場のあるフロリダ州と、アリゾナの隣で同じく州内に2つ屋根付き球場を備えているテキサス州を加えようというもの拡大したようだが、この集中開催案には、早くも選手サイドから反対の声が挙がっている。

北米の屋根付き球場の歴史

1976年開場のマリナーズの旧本拠・キングドーム
1976年開場のマリナーズの旧本拠・キングドーム

 全天候型の野球場が生まれたのは当然のごとく野球の母国アメリカだ。1965年、テキサス州ヒューストンに世界最初のドーム球場、アストロドームが開場。エジプトのピラミッドなどの「世界7不思議」に続く「世界8番目の不思議」と呼ばれた。その後1976年にシアトルにキングドーム、1982年にミネソタ州ミネアポリスにメトロドームがMLB球団の本拠地として開場した。

1982年開場のミネソタ・ツインズの旧本拠・メトロドーム
1982年開場のミネソタ・ツインズの旧本拠・メトロドーム

 1988年にはカナダのモントリオール・エクスポズの本拠地だったオリンピックスタジアムに開閉式の屋根がついた。そしてその翌年には同じくカナダのトロントに本格的な開閉式ドーム球場としてスカイドーム(現ロジャースセンター)が開場している。

1988年に屋根がついたモントリオール・オリンピックスタジアム
1988年に屋根がついたモントリオール・オリンピックスタジアム

 さらには、1990年にはフロリダ州セントピーターズバーグにサンコーストドーム(現トロピカーナフィールド)が完成し、1998年から新設球団タンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)の本拠地となった。

1990年開場のサンコーストドームは現在レイズの本拠・トロピカーナフィールドとなっている
1990年開場のサンコーストドームは現在レイズの本拠・トロピカーナフィールドとなっている

 

 この年、デビルレイズとともに新規参入したダイヤモンドバックスの本拠として新造されたのが現在チェイスフィールドと呼ばれているバンクワンボールパークであった。この新球場はそれまでのドーム型の球場ではなく、スライド式に開閉する屋根を備えたもので、以後、試合の行われていない日中に天然芝養成が可能なこの様式が北米の全天候型球場の主流となる。以後、それ以前から始まっていたMLB球場のリノベーションの波に乗り、それまでドーム球場に代わり1999年、シアトルにセーフコフィールド(現Tモバイルパーク)、

2000年、ヒューストンにエンロンフィールド(現ミニッツメイドパーク)が開場、2001年にはウィスコンシン州ミルウォーキーにミラーパーク、2012年にフロリダ州マイアミにマーリンズパークが、それまでの屋根なしの旧球場に代わって開場した。そして、この春にはテキサス州アーリントンにグローブライフフィールドが同じく屋根なしの旧球場に代わり開場することになっていた。

2012年開場のマーリンズパークではイチローもプレーした
2012年開場のマーリンズパークではイチローもプレーした

 北米の屋根付き球場の立地を見てみると、アメリカ・カナダ国境近くと南部にその分布が偏っていることがわかる。梅雨のある日本と違い、多雨のフロリダを除いては球場の屋根は雨を意識して設置されるものではない。北の場合は春秋の寒さ、南の場合は暑さとナイター照明に集まる虫害を避けるためにある。

集中開催は可能なのか

アリゾナにあるソルトリバーフィールド。ダイヤモンドバックスとロッキーズのキャンプ球場だ。
アリゾナにあるソルトリバーフィールド。ダイヤモンドバックスとロッキーズのキャンプ球場だ。

 そういう意味では、今回の集中開催案の俎上にまずアリゾナが登ったのは、「屋根付き球場」があることよりも、メジャーリーグのキャンプ地であるということが主要因だったと思われる。フロリダも屋根付き球場を2つ備えているキャンプの中心地ではあるが、キャンプ地の分散度はアリゾナ以上で、リゾート地ということで人も多い。その点、アリゾナはフェニックスを一歩出れば延々と砂漠が広がっているようなところで、移動に伴う感染の心配はフロリダより小さいという判断だったのだろう。現在15球団がこの州の9施設でキャンプを実施していることを考えると、この9球場とチェイスフィールドを使用すれば30球団が試合を毎日行うことは可能だ。

 しかし、いずれにせよ、1州での開催は、例え変則ダブルヘッダーで試合を消化するにしても、器の大きいチェイスフィールドでの開催は1日2試合、あとはキャパシティの小さい周辺の各球団のキャンプ地のメイン球場を使用することになる。そのそもの集客を考えても人口密度21.5人/平方キロでフェニックスと州南部のツーソン以外に大きな町のないアリゾナでの集中開催はビジネスとして成り立ちにくいという判断は妥当なものである。

 そこで、航空機を使った長距離の移動に伴う感染リスクと、集客(状況に合わせた制限は必要だろうが)のバランスを取って、同じくキャンプ地のフロリダ(人口密度37.2人/平方キロ)、テキサス(同130.7人/同)の隣州のテキサスを加えての3州案が俎上に上ってきたことも理解できる。フロリダに関して言えば、真夏には連日起こるスコールのリスクを屋根付き球場がある程度回避してくれる。この案で想定される屋根付き球場は5。変則ダブルヘッダー なら1日に10試合、20チームは「メジャー級」の器で試合を消化できる。残りの5試合は夏場にそれなりの雨があるテキサス、フロリダを避け、アリゾナで極力開催すればいい。

実はまだある屋根付き球場

 北米の球場の寿命は短い。現在では建設から20~30年も経ち、建築物としての耐用年数ではなく集客施設としての「旬」が過ぎたと考えられると、新球場が建設され、旧球場はほとんどのケースで取り壊される。しかし、ヒューストンのアストロドームは別で、世界最初のドーム球場として歴史的建築物としていまだに町のはずれに鎮座している。 

歴史的建築物としてアストロドームは取り壊されることなく保存されている
歴史的建築物としてアストロドームは取り壊されることなく保存されている

 この緊急事態に、これを使用できるのではないかと調べてみたが、どうも現在はスタンドなどのスタジアムとしての集客設備は取り払われているいるようで、将来的には現在のフィールドレベルに駐車場を設けてその上にイベント会場をつくる予定だという。さすがにその状況では、「最後のおつとめ」は不可能だと思われる。

 しかし、同じテキサスにはもうひとつ、野球開催経験のある屋根付き競技場がある。ヒューストンの西300キロにあるサンアントニオは3A級のマイナーチームももつ人口140万の大都市だ。この町唯一のメジャースポーツチーム、プロバスケットNBAのスパーズの旧本拠地、アラモドームは現在もイベント会場として健在であるが、フットボールの開催も可能なこの屋根付きスタジアムではMLBのオープン戦が過去に何度も実施されている。

 また、レンジャーズの本拠、アーリントンには新球場のほど近くにNFLダラス・カウボーイズの本拠、AT&Tスタジアムがある。このアメリカンフットボール専用に造られた屋根付き競技場で野球用のフィールドを確保するのは難しいかもしれないが、メジャー、マイナー問わず、フットボール場や陸上競技場を野球に利用することは過去にもよくあった。

北米ではフットボール競技場を野球に使用するのは珍しいことではない(カナダ・ウィニペグスタジアム,1995年)
北米ではフットボール競技場を野球に使用するのは珍しいことではない(カナダ・ウィニペグスタジアム,1995年)

 

 さらにテキサスの隣、ルイジアナまで視野を広げてみると、最大の都市ニューオーリンズには、アメリカンフットボールのファイナルであるスーパーボール開催最多回数を誇るメルセデスベンツ・スーパードームがある。もともと地元NFLチーム・セインツの本拠として建てられたものだが、野球のフィールドも取れるだけの広さがあり、過去にはMLBのオープン戦も行われている。

 そう考えると、南部で最大8の屋根付き球場での試合実施が可能になり、1日に2試合を行えば、すべてのチームがキャパの大きな施設でプレーできることになる。机上の空論に過ぎないのかもしれないが、この近代始まって以来の事態を前にして、やってできないことは検討する余地があるのではないかと思う。

 それもこれもとにかく未曽有の困難であるコロナ禍を我々が乗り越えてからのことにはなるのだが。

(本文中の写真は筆者撮影)