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「日本シリーズの家」にレオは帰って来ず:止められない、でも納得いかない。CSという劇薬に泣いた西武

阿佐智ベースボールジャーナリスト
満員の観衆で埋まったCS第3戦のメットライフドーム

 クライマックスシリーズ(CS)が昨日終わった。今年のペナントレースは、両リーグとも優勝チームが独走と言っていい状態でレギュラーシーズンを終えたが、セ・リーグは、昨年この制度に泣かされた広島が3位チームの巨人に付け入る隙を見せず、3連勝で日本シリーズ進出を決めたのに対し、パ・リーグは、これまでポストシーズンに散々泣かされてきたソフトバンクがパ・リーグの覇者西武に1勝しか許さず、昨年に続きシリーズ進出を果たした。

 西武はよもや負けるとは思わなかったのか、このCS終了後に、地元ファンに向かってのシーズン最終戦の挨拶をナインにさせたのだが、かつての常勝軍団の主力だった辻監督はこの場で男泣きを見せた。指揮官の無念さは察するに余りある。長いシーズンを戦い抜いてゴールテープを切った現場には時として残酷なポストシーズン制だが、毎試合スタンドがファンで埋まるこの「ドル箱」をいまさら手放すことはできないだろう。それにしても、昭和の終わりから平成前半のプロ野球を知るファンにとって、ライオンズの本拠、メットライフドームで日本シリーズが行われないことは、ある種の時代の流れを感じざるをえないのではないだろうか。

「日本シリーズの家」ライオンズ球場からメットライフドームへ

 かつてポストシーズンと言えば日本シリーズだけだった時代、毎年のようにシリーズが行われていたのが、現在メットライフドームと呼ばれている西武ライオンズ球場だった。緑豊かな狭山丘陵を削ってつくられたこの球場は、1999年に屋根が設置され、壁のない側面からは自然の風が出入りする世界でもまれな開放型ドーム球場として西武ファンの聖地となっている。

 1980年代から90年代にかけて無敵を誇ったレオ軍団。この頃はパ・リーグの中でも人気は圧倒的で、日本シリーズともなると、セ・リーグの応援団にひけをとることのないレオ党の声援がライオンズ球場にこだましていた。

 しかし、時が流れて2000年代になると、パ・リーグの勢力図は一変した。ソフトバンクと日本ハムという「南北の雄」が人気と実力を兼ね備え、観客動員でも「人気のセ」にひけを取らない数字をはじき出すようになった一方、西武はかつての輝きを失ってしまった。2004年、西武ライオンズは、この年から採用されたプレーオフ制度を利用してレギュラーシーズン2位からのリーグ優勝を飾ったが、この年の中日との日本シリーズは当日券が出るほどの不人気ぶりだった。私もこのシリーズに足を運んだが、試合前のセレモニーで、あの松崎しげるによる球団歌の生歌熱唱が行われる中、スタンドは、某大御所歌手ならそのまま帰ってしまうかもしれないほどの「スカスカ」状態だった。さらにライオンズは、2008年にも巨人を倒して日本一となるが、その結果出場したアジアシリーズの入りは無残なもので、関係者からは、会場となった東京ドームを本拠とする巨人が日本チャンピオンとして出場できなかったことについて嘆き節が聞かれた。これに懲りたのか、日本でこのシリーズが実施されることは、この2008年大会以後なくなってしまった。

球界の努力のたまもの、大盛況のCS

今年のCS、メットライフドームは満員となった
今年のCS、メットライフドームは満員となった

 そういう中、ライオンズは今年10年ぶりの優勝を飾った。チーム強化とともに、球団の営業努力も相まって、ライオンズはかつての輝きを取り戻したかのように、本拠メットライフドームにファンを吸い込んだ。野球ファンの間で、クライマックスシリーズが浸透したこともあるのだろう。今回久々に足を運んだポストシーズンの風景はすっかり華やいだものになっていた。

 実は、今年は「西武ライオンズ」40周年。1978年オフ、九州のクラウンライターライオンズを西武グループの国土計画(現コクド)が買収し、グループの総帥・堤義明の掛け声のもと、常勝西武が産声を上げたのだが、2004年の証券取引法違反事件で創業者一族の支配が排除された後、西武グループは再編を余儀なくされ、現在はその名の通り、西武鉄道の子会社としてライオンズは機能している。ある意味、時代と逆行する鉄道会社と球団の親子関係が21世紀になって実現したのだが、西武球団はこれを地域密着型球団としての再出発ととらえ、電鉄会社とのコラボの下、人気と実力の回復を目指したのだ。

 ご存知の人も多いかと思うが、メットライフドームは、都心から埼玉県西部に延びる西武線の支線の終点にある。早い話が、都内からはかなり遠い。この欠点を補うため、現在西武鉄道は、看板特急「レッドアロー」を利用した臨時直通便を試合開催時に走らせている。CSに際してももちろんこの列車は運行されたが、有料の座席指定列車にもかかわらず、こちらも野球のチケット同様、ソールドアウトになっていた。

試合開始に合わせて運行される臨時特急「ドーム号」。親会社と一体になった企業努力がライオンズの人気、実力の復活を呼んだ
試合開始に合わせて運行される臨時特急「ドーム号」。親会社と一体になった企業努力がライオンズの人気、実力の復活を呼んだ

 そして、西武球場前駅からドームまでの短い空間は、ライオンズパークとでも呼ぶべきファン垂涎のスペースになっていた。改札前には屋台が並び、ドームまでの道のりにはグッズショップやチケット売り場が続いている。そしてこの球場は外野のバックスクリーンからライト、レフトふた手に分かれて場内に入場する構造になっているのだが、そのバックスクリーン裏にはイベント用の舞台が設置され、現在では試合前に様々なイベントが催されている。

 そして、内野ネット裏を頂点とする坂道を上がっていくワクワク感。通路からスタンドを見下ろすと、ライトスタンド(メットライフドームは3塁側がホームチーム、ライオンズのベンチ)を除く一面がライオンズファンで埋め尽くされていた。

 10年前が嘘のようなこのCSの盛り上がりぶりは、この制度を導入するというNPBの「英断」もあろうが、西武球団の努力あってこそのものだろう。

 しかし、勝負とは残酷なものだ。「打線は水物」の言葉どおり、レギュラーシーズンであれだけ猛威を振るっていたライオンズ打線は沈黙し、ホークス打線がそのお株を奪う攻撃力を見せ、4勝1敗(アドバンテージを入れると2敗)で日本シリーズ進出を決めた。

 ライオンズが、レギュラーシーズンでホークスを引き離したゲーム差は6.5。CSを加味しても、その差は埋まることはない。辻監督の悔し涙ももっともなことのように思えるが、それもあらかじめわかっていたルールと言えば、それまでである。私的には、5ゲーム差ごとにもう1勝のアドバンテージを与えねば、レギュラーシーズンの意味が問われかねないのではと思うのだが、この盛り上がりを考えれば、CSそのものをなくすことなどNPB、球団、ファンとも考えないだろう。

 制度というものには、矛盾や欠点はつきものである。今後、ゲーム差を巡る論議については、検討もされることだろう。ファンとしては、その中で、精いっぱいゲームを楽しむことが最善の策だろう。今シーズンあれだけの強さを見せたライオンズを破ったホークスには、パ・リーグ代表としてセの覇者、カープと今年のプロ野球の総決算にふさわしい最高のゲームをして欲しいと心から願う。そして、ライオンズが日本シリーズの主役として「日本シリーズの家」に戻ってくる日も。

レオ党の聖地に日本シリーズが戻ってくるのはいつのことだろうか
レオ党の聖地に日本シリーズが戻ってくるのはいつのことだろうか

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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