遠いイタリアでチームメイトたちが3週間のグランツールに奮闘する一方で、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ所属の中根英登は、日本でツアー・オブ・ジャパンに参戦する。

 日伊合同チームの日本側代表、大門宏はこう理由を説明する。

「チームのイタリア側は、やはりナカネを出すべきだ、と主張してきました。でもシチリア、トルコの連戦で少し調子を落としてしまった中根に、さらにジロで無理をさせるべきではない。そう僕は判断したんです」

 ただし中根の不調の原因は単純に「欧州を襲った季節外れの寒さ」であり、だからこそ「ツアー・オブ・ジャパンでいい走りをすることによって、自信を取り戻させてあげたい」とも考えた。

「もちろんNIPPOにとってツアー・オブ・ジャパンは非常に重要な大会です。中根にはチームの絶対的エースとして、成績を狙ってもらわなければなりません」

 そうすればオリンピック選考に向けたポイントも、自ずとついてくる。なにしろ中根英登本人の、東京オリンピックにかける気持ちは大きい。2020年の夏には、代表ジャージを身にまとい、オリンピックを走りたい、いや、むしろ、「オリンピックで成績を残したい」と、日本のクライマーは熱望する。

 1月のチームキャンプ時のインタビューから、中根の強い想いを紐解く。

──2018年は大きくステップを上がったシーズンになりました。

おととしもそう感じたんですけど、去年はより強く感じました。僕はこれまでもずっと、おととしより去年、去年より今年、という風に一歩ずつやってきました。そして去年もまた、おととしの自分を超えられた。さらに飛躍できた良い1年でした。実は去年の最初は、おととしの自分を超えられるだろうか、っていう不安もすごくありました。自分が残した結果や、チームに貢献した仕事を、再現できるだろうかって。でも、まあ、しっかり超えることができたので、自信になりましたね。

なによりヨーロッパツアーの厳しい山岳レース(ジロ・デル・トスカーナ)でUCIポイントを獲得できたことは、自分の中では大きな一歩です。アジア競技会でも、自分がやってきたことを100%出す走りができましたし、世界選手権は厳しいレースになっちゃいましたけど……やっぱり日本代表の唯一の枠に自分が選ばれたというのは、すごく、大きなことでした。

つまり、そうすると、今年はさらに去年の自分を超えなきゃならない。多少の不安もあります。でも年頭のチームキャンプで行ったテストの結果は、大幅に去年の数値を超えていましたし、3分の上り全開走はチームで1番だったんですよ。去年の自分よりパワーアップしていることが、数字で証明された。とても嬉しいですし、自信にもなります。オリンピック用ポイント収集に向かうためにも、再び世界選手権出場を狙うためにも、いい状態でシーズンスタートを切れたと思っています。

中根英登は、登坂力に関しては、誰にも負けるつもりはない。(photo : jeep.vidon)
中根英登は、登坂力に関しては、誰にも負けるつもりはない。(photo : jeep.vidon)

──日本国内では、別府史之、新城幸也に続く3番手として、確実に中根さんの名前が上がるようになりました。そういう扱われ方はいかがですか?

10年以上もトッププロチームで走るというのは、本当にすごいこと。僕はNIPPOでようやく3年目を迎えたばかりですからね。バックに日本のスポンサーがあるとかないとか、そんなことはどうでもいい。ただそこで走り続けるために、契約を獲得し続け、成績を出し続けている。これはすごく大変なことです。だから、あの2人は飛び抜けていて当然ですし、ずっとトップを走ってきたことに対してリスペクトも大きいです。

それでも、やはり、僕にとっては超えなきゃならない存在でもあります。幸か不幸か、脚質は全然違う。だから上りに関しては、僕は負けているとは思いません。負けるつもりもさらさらありません。

うーん、まあ、3番手っていう言葉は、自分の中ではすごく嫌ですね。選手をやってる以上は、やはりどのカテゴリーでも、1番になりたいものですから。ただ同じ日本人として、今後は世界選やアジア選で一緒に戦う機会もあるでしょう。その時は同じ代表の一員として協力しあい、しっかり日本という国のために成績を残せたらいいなと思います。

──中根さんは「自分を超えたい」「もっと強くなりたい」とは繰り返しますが、たとえば「ジロに出たい」とは絶対に言いませんね。でも去年、世界選直後には、「また世界戦に出たい」とおっしゃった。どんな心境なのでしょうか?

はい、世界選には、今年もチャレンジしたいです。国の代表メンバーとして、世界一を決めるレースに出るというのは……今までワールドツアーのレースも何度か走ってきましたけれど、まるで違う雰囲気でした。以前ナショナルチームのメンバーとして、アジアツアーになら連れて行ってもらったことはあります。でも世界選手権はまったく別のもの。やっぱり世界のトップの集まりですからね。

昔の自分は、世界選で走れるとか、世界選を走りたいとか、そんなこと想像さえしたことありませんでした。ひたすら「アジアで一番上りの強い選手になりたい」ってことばかり考えてました。僕はずっと昔から、非現実的な夢や高望みな目標を抱くタイプではないんです。ただ「自分で越えられるか越えられないか」のぎりぎりレベルの目標を設定して、そこに向けてコツコツやってきました。

でも実際に世界選手権を経験した後、またこの舞台に帰ってきてチャレンジしたい、と強く感じたんです。しかも前回のように1人ではなく、「チーム」として戦いたい、とも思いました。

それにフミさん、幸也さんに続いて、自分もそろそろ……日本を引っ張ってかなきゃいけない年齢に差し掛かりました。また、そうすべきであるチームにも、こうして所属させてもらってます。ここまで来られたからこそ、目標も自然と上がってきたのだと実感しています。

2018年秋、インスブルックにて、中根英登は世界選手権を初めて走った。(photo : jeep.vidon)
2018年秋、インスブルックにて、中根英登は世界選手権を初めて走った。(photo : jeep.vidon)

──オリンピックに関してはいかがですか?今年は出場に向けたポイント収集が重要になります。NIPPOとしては中根さん初山(翔)さんを中心にポイント収集するそうですが。

地元で開催されるオリンピックを「興味ない」……って言う選手はきっといないと思いますよ。もちろん僕も代表選手としてオリンピックを走りたい。いや、それ以上に、むしろ、オリンピックで成績を残したいという気持ちが強い。選ばれて当然と思っているわけじゃないんです。ただ自分の脚質に合うコースですから、しっかり自分が代表入りして、成績を残す走りをしたい。

ポイント収集については、結局のところ、やることは今までとは変わりません。去年も目標はやはり、1点でも多くUCIポイントを取ること、特にヨーロッパツアーでポイントを取ることでした。だから同じように走っていくだけです。ありがたいことにチームからは、僕が出来るだけポイントを収集できるよう最大限の配慮をする、と言ってもらってます。

非常に気合いが入ります。同時に大きな責任も感じます。つまりは僕のために、他の選手が働いてくれるということですから。他の選手たちにだって、自己目標もあれば、家族だっている。だからこそ僕は、頂いたチャンスを逃さぬよう、与えられたレースでしっかり結果を出し、ポイントを獲得しなければならない。あとは去年の自分を超える走りさえ出来れば……確実に自分が選ばれると信じています。

──オリンピックを見据えて、今シーズンは具体的にどう動いていくつもりですか?

オリンピックが大きな目標の一つですから、今年が大切になってきます。この2年連続でヨーロッパのUCIポイントが取れているので、今年はもっとたくさんポイントが取りたいですね。世界戦も、もちろん目標の一つとして視野に入れながら、頑張っていきます。アジアのレースでは、ステージ優勝や総合優勝を目標に持っていきたいなと。

ツアー・オブ・ジャパンをもしも走れるとしたら、総合トップ5位以内には入りたい。去年は9位だったので、さらに上を目指します。総合3位以内に入れたらもっと最高ですね。とにかく最低でも総合5位以内とステージ優勝を狙っていきます。

もちろん簡単なことではありません。今の自分には、ぎりぎり達成できるかできないか、という目標です。でも、やっぱり、そこのラインを超えていきたい。超えていかなきゃ駄目だと思うんですよ。

 (2019年1月、スペイン・カルペにてインタビュー)