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カタールの風が吹き荒れる

宮本あさか自転車ロードレースジャーナリスト

自転車選手の長い1年は、暑い国から始まる。2013シーズンは南半球・真夏のオーストラリアで開幕した。南米アルゼンチンやアフリカのガボンで、今季初レースを済ませた選手たちも多い。そして戦いの舞台がレースの本場・ヨーロッパに完全に移ってしまう前に、指折りの有力選手たちが中東に立ち寄る。スプリンター&風巧者たちはツアー・オブ・カタールに、起伏を好む者たちはツアー・オブ・オマーンに。

特に今年は密度が高い。2011年ツール・ド・フランスのマイヨ・ヴェールと2012年ブエルタ・ア・エスパーニャのポイント賞は、スプリント王の座を巡ってカタールにやってきた。オマーンに関しては「とんでもなく見事な顔ぶれが揃っただろう!?ウィギンスにエヴァンス、そしてなによりコンタドール。まあね。鼻が高いよ」と開催主が思わず自慢したくなるのも納得の豪華さ。つまり2011年ツール・ド・フランスのマイヨ・ジョーヌに、2012年ツール・ド・フランスの総合表彰台3人、2012年ジロ・デ・イタリアの総合2位と2012年ブエルタ・ア・エスパーニャの総合覇者&3位、さらには現役世界チャンピオンがスタートラインに並ぶ。「史上最強の自転車選手」エディ・メルクスと「ツール・ド・フランス開催委員会」ASOのコラボレーションが、湾岸ツアーを世界的イベントへと引き上げたのだ。

こんなハイレベルな舞台に、2013年は日本代表チームが参加を許された。「開催委員会がアジア人やアジア系チームの出場を強く希望したから」とレース運営責任者のジャンミシェル・モナン氏は説明する。

「去年も日本籍のブリジストン・アンカー、さらに中国籍のチャンピオンシステムに出場してもらった。ただ残念ながら、各チームが連れてきた選手の半分以上がアジア人『以外』だった。開催側の意図とちょっとずれてしまった。だから今年は『ぜひアジアから国別代表を呼ぼうじゃないか』ということで、日本・中国・マレーシアに声をかけた。でも中国とマレーシアからは色よい返事がもらえなくて……。中国の代わりには再度チャンピオンシステムに来てもらうことにしたんだけれど、『アジア人中心のチームを編成すること』という条件をつけたんだ(8人中5人がアジア人)」

日本はもちろんOuiと返事をしたのだが、決して簡単なことではなかった。本場ヨーロッパで走っている選手は10月中旬にはオフに入るが、日本を拠点に活動する選手たちは11月末のツール・ド・おきなわを終えてようやく短い冬休みを迎える。……しかも、中東行きが決定したのは、まさにツール・ド・おきなわの前後。例年なら2月末から3月上旬に始まるレース転戦が、約1ヶ月ほど早まったわけだから(カタールのレース開幕は2月3日)、どの選手も予定の建て直しや超特急での調整を迫られた。今回日本代表ジャージを身にまとう畑中勇介選手も語る。「すでに休暇中の予定を組んでいたこともあって、焦ってトレーニングをしすぎて、倒れてしまったこともありました」

「特別な成績は求めていない。もちろん、彼らにいい走りをしてもらいたいとは思っているけどね。だけど本来の目的は、日本の選手に本場レースを学んでもらうこと。学んだことを生かして、次回はもっといい走りができるようになること。次世代へとつなげること」

こう語るモナン氏やASOは、長い目で日本やアジアの成長を見守っている。

さて、肝心の日本代表は、初日から激戦の中に否応なしに放り込まれて、手痛い洗礼を受けることになった。そこから、なにを学び取っただろうか。砂漠レースは続く。

自転車ロードレースジャーナリスト

フランス・パリを拠点に、サイクルロードレース(自転車競技)を中心とした取材活動を行っている。「CICLISSIMO」「サイクルスポーツ」誌(八重洲出版)、サイクルスポーツ.jp、J SPORTSサイクルロードレースWeb等々にレースレポートやインタビュー記事を寄稿。

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