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イスラエルがパレスチナで女性記者を射殺する一方、シリアでもアメリカ、ロシア、トルコなどが攻撃を続ける

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

パレスチナ自治区で5月11日、イスラエルが女性記者を射殺する一方、シリアでもイスラエル、トルコ、ロシアが攻撃を実施、アメリカとイランも不穏な動きを見せた。

イスラエルがパレスチナで女性記者を射殺

ヨルダン川西岸地区に位置するパレスチナ自治区ジェニン市で5月11日、カタールの衛星テレビ・チャンネル、ジャズィーラ(アルジャジーラ)の名物記者の1人でパレスチナ系アメリカ人のシーリーン・アブー・アークラさん(51歳)がイスラエル軍によって撃たれて死亡、また記者のアリー・サムーディーさんも負傷した。

パレスチナのWAFA通信によると、イスラエル軍は11日早朝、ジェニン市を強襲し、民家1棟を包囲、中にいた若い男性1人を拘束しようとして、実弾や催涙弾を発射、同じく中にいたアブー・アークラさんが頭を撃たれて死亡、サムーディーさんは背中を撃たれて負傷したという。

これに関して、アメリカのCNNは、「ジェニンで職務にあたっていたアブー・アークラ氏が、イスラエルの部隊に銃殺されたと主張している」とジャズィーラが報じているとしつつ、以下の通り伝えた。

イスラエル軍は、治安部隊がパレスチナ人のテロ容疑者らを逮捕するため、ジェニンの難民キャンプに出動していたと説明。治安部隊は容疑者グループから激しい銃撃や爆発物を浴びて撃ち返したと主張し、「ジャーナリストらがパレスチナ側に撃たれたとみられる可能性を調査している」と述べた。

シリアでもミサイル攻撃

イスラエルが11日に行った侵犯行為はこれだけではなかった。

シリア国営のSANAの特派員が伝えたところによると、イスラエル軍が11日午前3時頃、県北部のハドル村西方一帯にミサイル複数発を発射し、物的被害を与えた。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ミサイル攻撃が行われた地域には、ヒズブッラーをはじめとする「イランの民兵」が展開していたというが、真偽は定かでない。

「イランの民兵」とは、イスラーム教シーア派(12イマーム派)宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。

シリア外務省がイスラエルの侵犯行為を非難

アブー・アークラ氏の殺害とハドル村一帯へのミサイル攻撃を受けて、シリアの外務在外居住者省は声明を出し、エルサレムをはじめとする占領下パレスチナ領内でのパレスチナ国民に対するイスラエル軍の攻撃、パレスチナの都市・町への強襲、住居破壊、入植地建設をもっとも強い表現で非難、パレスチナ人に寄り添い、その自由、独立、占領終了、エルサレムを首都とする独立国家の建設への支持を改めて表明した。

ウクライナへのロシアの侵略への批判を続ける欧米諸国や日本は、イスラエルの侵犯行為に対して声明は出していない。

トルコとロシアがシリアを爆撃

ただ、シリアやパレスチナで武力行使を行っているのは、イスラエルだけではない。5月11日には、トルコ、ロシアもシリア領内で爆撃を実施した。

トルコは、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県アイン・アラブ(コバネ)市を2度にわたり爆撃した。

北・東シリア自治局とは、クルドが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導する自治政体。アメリカの全面支援を受けて、シリア北東部一帯を実効支配している。

ANHA、2022年5月11日
ANHA、2022年5月11日

PYDに近いハーワール通信(ANHA)によると、1度目の爆撃は市南部のアレッポ市とを繋ぐ街道沿い、2度目はその約30分後に市中心部を狙って行われ、住宅の窓ガラスや車が被害を受けた。シリア人権監視団によると、1度目の爆撃で1人が死亡した。

一方、ロシア軍は連日、ラッカ県、ヒムス県、ダイル・ザウル県の砂漠地帯に潜伏するイスラーム国のスリーパーセルを狙って爆撃を実施している。だが、11日には、「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のバイニーン村を2度にわたって爆撃した。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。

不穏な動きを見せるアメリカとイラン

11日は武力行使を行わなかったが、イスラエル、トルコ、ロシアと共にシリア内戦の主要な干渉国であるアメリカとイランの不穏な動きを見せている点で違いない。

ダイル・ザウル県ブーカマール市内に設置されているイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点複数カ所が4月21日、所属不明の戦闘機の爆撃を受けた。また5月1日にも、同県アシャーラ市にある「イランの民兵」の拠点複数カ所が、7日には、ダイル・ザウル市の仮設吊り橋(4月20日に開通)近くに設置されている「イランの民兵」などの拠点が爆撃を受けた。

これらの戦闘機の所属は特定できなかったが、攻撃は有志連合を主導するアメリカ軍によるものだとの見方が大勢を占めた。

一連の爆撃に対して、5月7日には、アメリカ軍が違法に駐留を続けるダイル・ザウル県内のCONOCOガス田一帯などが砲撃を受けた。シリア人権監視団などは、砲撃が「イランの民兵」によるものと伝える一方、反体制系サイトのアイン・フラートはシリア軍が砲撃を行ったと伝えた。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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