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シリアのアサド大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染…反体制派を貶める一部活動家の稚拙な反応

青山弘之東京外国語大学 教授
(提供:SANA/ロイター/アフロ)

シリアの大統領府は3月8日、フェイスブックなどを通じて声明を出し、バッシャール・アサド大統領とアスマー・アフラス夫人が新型コロナウイルスに感染したと発表した。

声明によると、2人はPCR検査で陽性反応が出たが、いずれも健康状態は良好で、容体は安定しており、隔離期間中も執務を続ける予定だという。

大統領夫妻はまた、シリア人と全世界の人々の健康と感染者の回復を願うとともに、シリア国民に対して、引き続き警戒措置に従い、予防に努めるよう呼びかけた。

https://www.facebook.com/SyrianPresidency/
https://www.facebook.com/SyrianPresidency/

シリア有数のビジネスマンの反応

反体制系メディアは、アサド大統領夫妻の感染を粛々と報じた。だが、一部著名な活動家は稚拙としか言いようがない反応をした。

その一人がフィラース・トゥラースだ。

https://twitter.com/firas_tlass/
https://twitter.com/firas_tlass/

フィラース・トゥラース(1960年生まれ)は、ハーフィズ・アサド前政権時代からバッシャール・アサド現政権初期にいたる32年にわたって国防大臣、軍武装部隊副司令官を務め、前大統領の盟友と称されたムスタファー・トゥラース(1932~2017年)の長男。シリア有数のビジネスマンだったが、「アラブの春」がシリアに波及した翌年の2012年、父の病気治療に付き添うかたちでフランスのパリに移り、そこで父の意に背いて離反、反体制活動家になった。

共和国護衛隊の准将でバッシャール・アサド大統領の親友と目されていた弟のマナーフ・トゥラース(1964年生まれ)も同じ時期に離反し、反体制活動家となっている。

フィラース・トゥラースは3月8日、フェイスブックにこう綴った。

バッシャール・アサドとその妻はコロナに感染していない(アスマーは今朝、国家機密に関わる場所を訪れていた)。二人とも今週は何の検査も受けていない。つまり、二つの可能性がある:モスクワが彼に訪問を要請したが、彼はこのような方法で回避することを決定した。あるいは、彼が行おうとしている一大イベントから人々の関心を逸らしたいのだ。

彼が旅行するといった噂を発信している者は、バッシャールの考え方も思考メカニズムも知らない。

フィラース・トゥラースはアサド大統領夫妻仮病説を唱えたのだ。

https://www.facebook.com/firas.tlass.9/
https://www.facebook.com/firas.tlass.9/

名物司会者の反応

カタールの衛星テレビ・チャンネルの名物司会者でシリアのスワイダー県出身のファイサル・カースィムは、これとはまったく逆の主張をした。

https://twitter.com/kasimf/
https://twitter.com/kasimf/

人気討論番組「イッティジャーフ・ムアーキス」(日本語で反対方向の意)で司会を務め、その「扇動的」な進行で知られる彼は、ツイッターでこうつぶやいた。

バフジャト・スライマーンが姿を消した時、彼はフェイスブックに、1週間休むと書いた。そして、2週間、3週間休み、そして…。そして今日、ダマスカスの共和国宮殿はこう言っている。猿とその妻は2、あるいは3週間の隔離に入る。こう言ったのだ。2週間、あるいは3週間…。あるいは、というところに少し注目してみよう。

正しい人々よ…。私は、バッシャールとその妻が、コロナに感染したと発表することで、支持者からの同情を得て、悲惨な生活から彼らの目を逸らそうとしているなどとは考えていない…。

そうです、2人が1週間や2週間、アラウィー派の巷の同情を得ても、その後に彼らの同情が悲惨な生活の危機を解消するとでもいうのか? いや、もう少し待ってみよう。

バフジャト・スライマーンは、シリアの諜報機関の一つ政治治安局局長や在ヨルダン・シリア大使を務めた軍人(少将)で、2月25日に新型コロナウイルスへの感染が原因で死亡している。カースィムはスライマーンを引き合いに出すことで、アサド大統領の死に暗に期待を寄せたのである。

「シリア革命」へ類いまれな侮辱

著名な2人の反体制活動家による根拠のない書き込みは、開始から来週で10年目を迎える「シリア革命」への類いまれな侮辱にしか見えない。

今年半ばに予定されている大統領選挙を前に、反体制派全体を貶めるこうした発言こそ、再選をめざしているとされるアサド大統領への最大の援護射撃だと言えよう。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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