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新型レジェンド世界初の「自動運転レベル3」認証からみる自動運転の現在とこれから

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)

 ホンダから、世界で初めて「自動運転レベル3」の認証を受けた新型レジェンドが発売になりました。今までのクルマでも、自動的に速度や進路を制御してくれる装置を搭載したものはありましたが、これらは「自動運転レベル2」に止まっていました。新型レジェンドに搭載されたHonda Sensing Eliteという装置は、それらとはどこが違い、どんなことができるようになったのでしょうか。

 Honda Sensing Eliteが自動運転レベル3の認証を受けたのは「高速道路や自動車専用道の本線上で渋滞に遭遇した際、速度が30km/hを下回ったときに、クルマに運転(速度や進路の制御)を任せることができる(※)」という部分です。しかし、先行する車両と安全な車間距離を保ちながら、自車線内を走りやすいようにハンドルを制御してくれる機能は、従来型のレジェンドにも搭載されています(18年2月のマイナーチェンジで採用)。日産やホンダ、マツダなどの運転支援システムにも、同様の機能は以前から採用されています。

※:いったん作動が開始されると、約50km/hまでは機能は継続します。

「レベル3」認証で、何ができるようになったのか?

 Honda Sensing Eliteと、それら従来までのシステム(自動運転レベル2)と

は何が違うのかというと、「レベル2までは運転の責任はドライバーにあり、レベル3からはクルマ側が負う」ということです。

 それが実際の運転にどう影響するのかを考えてみましょう。レベル2までは運転はドライバーの責任ですから、ドライバーが常に周囲の安全を確認している必要があります。日産のプロパイロット2.0や、スバルのアイサイトXのように、ハンドルから手を放しても自動制御が行われるシステムもありますが、これらもドライバーは周囲の安全やシステムの作動状態を常に確認している必要があり、スマホを操作したりカーナビを注視したりすると、道路交通法第71条五の五に抵触してしまいます(普通車の場合、違反点数3点、反則金18,000円の罰則です)。

 これがレベル3になると、運転の責任はクルマ側に移動しますから、システムが稼働している間は道路交通法第71条五の五から解放され、スマホを手に持って通話していても、DVDを観たりWebで映画を鑑賞していても良いことになるのです(実はここが重要なポイントで、レベル2と3の違いは「ながら運転」が違反になるか否かぐらいの違いしかありません)。

「レベル3」は手を放せるだけでなく、スマホの使用やビデオの視聴も可能になります。
「レベル3」は手を放せるだけでなく、スマホの使用やビデオの視聴も可能になります。

使用できる環境は、まだ極めて限定的!

「それなら長距離ドライブでも、クルマ任せで楽ちん!」と思われたかた、使用できる環境が「高速道路や自動車専用道で渋滞に遭遇した際、速度が30km/hを下回ったとき」に限定されていたことを思い出して下さい。道路が渋滞せずスムーズに流れている環境では、前記の行為が道路交通法第71条五の五に抵触することに変わりはないのです。

 そしてこの「使用環境を制限している」ことが、レベル3の認証取得を可能にしているのです。

 レベル3以上の自動運転の認証を受けるには、「自動運転システムが引き起こす事故であって合理的に予見される防止可能な事故が起こらない」という条件を満たすことが必要です。それにはカメラやレーダーなど、周囲の状況を把握する装置が多数、必要になり、新型レジェンドにも、2台のカメラと5台のミリ波レーダー、5台のレーザーレーダー(ライダーセンサー)が搭載されています。

 ところが走行速度が速くなるほど、遠くの状況を早いタイミングで検出する必要が出てきますから、これだけたくさん監視装置を付けていても、流れの速い状況では、認証条件を確実に担保することができません。

 一方で渋滞中ならば、前後には必ずクルマが走っていますから、その動きを参考にすることができますし、速度が遅いですから、システムの反応速度にも余裕ができます。ですから「高速道路や自動車専用道で渋滞に遭遇した際、速度が30km/hを下回ったとき」という制限をかけることで、「自動運転」の認証取得を可能にしているわけです。

2台のカメラと2種類のセンサーが相互にバックアップすることで、周辺認識の精度と信頼性を高めています。また、ハンドルやエンジンの制御系や電源も、すべて二重になっています。
2台のカメラと2種類のセンサーが相互にバックアップすることで、周辺認識の精度と信頼性を高めています。また、ハンドルやエンジンの制御系や電源も、すべて二重になっています。

車両価格1100万円! Honda Sensing Eliteに、その価値はあるか!?

 では、Honda Sensing Eliteで実際にドライバーが受けられる恩恵は、どの程度あるのでしょうか。うんざりするほど長い渋滞でも、運転はクルマに任せて映画を見ていられるとなると、すごく楽になりそうな気もしますが、実際にそんな渋滞に遭う頻度は、どれくらいあるでしょう。高速道路を使って通勤している人でもない限り、月に1〜2度出かけるドライブで、1時間程度の渋滞に遭遇するのがせいぜいではないでしょうか。

 一方で映画は、90分から2時間ぐらいのものがほとんどです。ということは、帰省ラッシュの大渋滞でもない限り、渋滞し始めたところで映画を見始めると、クライマックスシーンになるころには渋滞が解消してしまい、映画の視聴を止めなければならない、ということになったりするかも知れません。

 しかも、新型レジェンドのHonda Sensing Elite搭載車は、非搭載車より375万1000円高額(1100万円)です。ならば、安全監視はドライバーが行う“レベル2”でも十分ではないかと、僕は思います。

 ただし、Honda Sensing Eliteは、レベル3に認定されていない部分では大きな進歩を遂げています。センサーを多重化して周辺監視精度が高まったことや、高精度3D地図データが利用できるようになったことから、高速道路や自動車専用道路なら、ハンドルから手を放した状態でのオートクルーズや、遅いクルマに追いついた際に自動的にウィンカーを出して追い越し〜車線復帰をする機能が追加となっているのです。

 この部分については、「合理的に予見される防止可能な事故が起こらない」ということの裏付けが不十分であるため、自動運転レベル3の認証から外されていますが、ドライバーが安全監視をしている限り、行われていることは「自動運転」といって差し支えありません。

 ユーザーから見れば、どのレベルの自動運転車として認証されているかより、どういうメリットが受けられるかのほうが重要ですから、その点では新型レジェンドは「高速道路では世界一運転が楽な(負担が小さい)クルマ」と言えるのではないかと思います。

自動運転レベル4〜5は、レベル3の延長線上ではない

 さて、レベル3の上には、まだ4と5があるわけですが、これらはレベル3とどう違うのかを解説しましょう。

 国土交通省のガイドラインでは、レベル4の認証条件は、レベル3と同様に使用環境に制限は設けるものの、「システムはギブアップしない」ということを求めています。レベル3の場合、クルマに搭載されたカメラやレーダーが制御のカギを握っていますが、カメラは逆光や濃霧には弱いし、レーダーは大雨や大雪には弱いなど、悪条件が重なると、周囲の状況が検出できなくなってしまいます。そうした場合には、システムはドライバーに運転の交代を要請できることになっていますが、レベル4になると、これが禁じられます。

 そうなると、自車に搭載したカメラやセンサーで完結する自律方式では困難ですから、道路側に設置されたインフラとやりとりすることで走行を制御する“インフラ協調方式”を採用することになるでしょう。となると使用できる領域も、インフラ整備をして採算が合う道路だけということになります。

 クルマの形態としても、個人が所有するマイカーよりも、特定の地域内で使用するシェアカーや、決まったルートだけを走行する商用トラック、コミュニティバスなど公共交通機関が主になると考えられます。すなわちレベル4は3の延長線上にあるのではなく、使う技術もアプローチ方法も異なる「別のクルマ」と言って良いのではないかと思います。

 さらに上位にあるレベル5は、「使用する領域や環境に制限のない完全自動運転」ということになっていますが、滅多に人の通らない林道や農道にインフラを設けても採算は取れませんから、これについては、現状ではまだ「とりあえず定義してみた」程度の意味合いしかないのではないかと、僕は思っています。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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