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立春の蝶は冬を耐え忍んだサバイバー#蝶の越冬

天野和利時事通信社・昆虫記者
左上から時計回りにウラギンシジミ雌、ルリタテハ、ムラサキシジミ、キタキチョウ。

 昆虫たちの春は3月5日前後の啓蟄からと良く言われるが、1、2月の冬の時期にも、暖かい日には、結構多くの種類の色とりどりの蝶が飛び回っている。

 これらは皆、成虫で越冬した蝶たちだ。2月4日前後の立春の時期は、暦の上では春の始まりだが、肌感覚ではまだ真冬。そんな季節に飛んでいる蝶がいたら、それは前年秋に羽化して、長い冬を乗り越えてきたサバイバーたちだ。

 春の妖精とも呼ばれるギフチョウは、3月下旬ぐらいに羽化する。つまり春のギフチョウは苦労知らずの若造だ。これに対し、キタキチョウ、キタテハ、ルリタテハ、アカタテハ、テングチョウ、ウラギンシジミの雌、ムラサキシジミなどは成虫越冬するので、春先に見かけるこれらの蝶は苦労人ということになる。翅が傷んだものも多いが、それは苦労の証だ。

寒々とした枯野で12月後半に見つけたキタキチョウ。
寒々とした枯野で12月後半に見つけたキタキチョウ。

3月上旬に見かけたキタテハも、前年からの生き残り組。
3月上旬に見かけたキタテハも、前年からの生き残り組。

11月末に見たウラギンシジミのオス。オスは晩秋に死に絶えると言われるが、温暖化で越冬できるようになるかも。
11月末に見たウラギンシジミのオス。オスは晩秋に死に絶えると言われるが、温暖化で越冬できるようになるかも。

4月初めにエノキの新芽に産卵に来た越冬明けのテングチョウ。
4月初めにエノキの新芽に産卵に来た越冬明けのテングチョウ。

11月末にサザンカで吸蜜するムラサキツバメ。
11月末にサザンカで吸蜜するムラサキツバメ。

 越冬した蝶は、春に産卵する。キタテハ、テングチョウなどは、越冬後に交尾するものが多いと言われており、冬の苦難を乗り越えて結婚、繁殖という生涯の一大事業をこなすことになる。

 こうした蝶たちは、人生のどん底の冬の季節を経験した人々に、飛躍の春の希望を与えてくれる存在だと言っても過言ではない(実際はほめ過ぎ、過言です)。

 越冬明けの蝶は、色落ちしていたり、翅が破れていたりするので、「新鮮できれいな蝶を撮りたい」という多くの蝶マニアにとっては、被写体としての価値があまりない。

 しかし、人生のわびさびを心得た昆虫記者は、少し傷んだ立春の蝶たちを愛おしく思い、ついカメラのシャッターを切ってしまうのだ(うそです。きれいな翅の蝶ばかりを狙っているので、ボロボロの春先の蝶の写真はほとんど撮っていません)。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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