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冬の虫探し・残酷編=拉致・串刺し・野ざらし#はやにえ

天野和利時事通信社・昆虫記者
こんな残酷ないたずらをするのは誰だ!実はモズの仕業。獲物には虫が多い。

 これまで冬の虫探しを幾編も紹介してきたが、忘れてならないのは、モズの早贄(はやにえ)だ。

 オオムラサキの幼虫、テントウ虫やカメムシの集団越冬、フユシャク(冬に成虫が現れる蛾)などを狙った、平和な冬の虫探しは、心温まるハッピーエンドの物語のようなものだ。

 しかし世の中には、スリルとサスペンスに満ちた小説や、思わず悲鳴を上げてしまうホラー映画が好きな人もいる。モズの早贄探しは、そんなホラー好きの人々にぴったりの冬の虫探しだ。

 モズは肉食の鳥なので、虫をバクバク食べる。トカゲや蛙も食べるが(タイトルの写真は、有刺鉄線に刺されたカナヘビ)、数の上で圧倒的に多い昆虫が重要な餌であることは間違いない。

早贄にされたカメムシ。臭過ぎて、さすがのモズも食べる気にならなかったのかも。
早贄にされたカメムシ。臭過ぎて、さすがのモズも食べる気にならなかったのかも。

枝に刺されたカメムシの無念の表情。
枝に刺されたカメムシの無念の表情。

 肉食、雑食の鳥のほとんどは、虫を見つけるとその場で食べるだけ。しかし賢いモズは、食べきれない分を、自分のテリトリー内の尖った枝や有刺鉄線のトゲなどに刺して、保存食にするという。それが早贄だ。

 保存食なので、いずれは消費するはずなのだが、時には刺した場所を忘れてしまったり、テリトリーを変える際に食べ残してしまったりするのだろう。人間が見つけるのは、大抵そうした忘れ物の早贄。このため人々は、虫を拉致し、串刺しにし、野ざらしにするモズの行動を残虐行為だと思ってしまう。

 しかし、遊びや見せしめのために、虫を串刺しにしているわけではないので、早贄は見た目ほど「残酷」な行為ではない(したがってこの記事の見出しは過剰だと言える)。

早贄にされたトゲナナフシ。天に召された姿に見える。
早贄にされたトゲナナフシ。天に召された姿に見える。

枝に刺されたトゲナナフシの無念の表情。
枝に刺されたトゲナナフシの無念の表情。

 串刺しの保存食づくりが残酷なら、カタクチイワシの目刺(めざし)も残酷だということになりかねない。

 早贄にされる虫は、バッタ、カマキリなどが多い(大きいので見つかりやすいせいもある)が、今冬に昆虫記者が見つけた早贄は、カメムシ、ナナフシなど変わったものが多かった。カメムシをモズが早贄にしたのは、臭過ぎて、その場で食べる気にならなかったからかもしれない。

堆肥の近くにあったコガネムシ系の幼虫の早贄。モズが堆肥の中から引っ張り出したのだろう。
堆肥の近くにあったコガネムシ系の幼虫の早贄。モズが堆肥の中から引っ張り出したのだろう。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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