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キノカワガ(木の皮蛾)って、どれだけ木の皮(樹皮)に似ているの?#擬態

天野和利時事通信社・昆虫記者
キノカワガ。白壁では目立つが、木の幹では見事な擬態に。

 キノカワガの翅は、色合いも形状も樹皮に良く似ている。「簡単には見破られない」という自信があるから、太い木の幹の真ん中の目立ちそうな位置に、じっととまったままで成虫越冬する。

 キノカワガの翅には、凸凹した波型の模様が並んでいて、その模様が樹皮と一体化する。キノカワガの成虫の翅の色柄は、苔のような緑色がちりばめられたものから、枯れ木のような焦げ茶色一色のもの、黒い筋が目立つものまでさまざまであり、その色柄に合った樹皮にとまっていることが多い。

 しかしキノカワガは、カメレオンのように体色を変化させられるわけではなく、自分の体色を認識しているとも思えない。それでも擬態に最適の木を選んでいるように思えるのは、なぜなのか。

ケヤキの樹皮上のキノカワガ。背景と見事にマッチしている。
ケヤキの樹皮上のキノカワガ。背景と見事にマッチしている。

シデの樹皮上のキノカワガ。翅の緑色の柄は苔の雰囲気を醸し出している。
シデの樹皮上のキノカワガ。翅の緑色の柄は苔の雰囲気を醸し出している。

クヌギの樹皮上のキノカワガ。ゴツゴツした樹皮と一体化
クヌギの樹皮上のキノカワガ。ゴツゴツした樹皮と一体化

スギの樹皮上のキノカワガ。地衣類の模様にまぎれている。
スギの樹皮上のキノカワガ。地衣類の模様にまぎれている。

桜の樹皮上のキノカワガ。ほとんど樹皮と見分けがつかない。
桜の樹皮上のキノカワガ。ほとんど樹皮と見分けがつかない。

 恐らくキノカワガは、あまり選り好みせずに、ある程度ゴツゴツ、ザラザラした樹皮に張り付いて越冬するのだろう。その中で、あまりうまい擬態になっていないものは、天敵に襲われて命を落とし、見事な擬態になっているものが多く生き残るのだと考えられる。

 われわれ虫好きが厳冬期に、目を皿のようにして見つけ出すキノカワガの多くが、カモフラージュの天才のように見えるのは、そのためだ。

キノカワガの翅のこの凸凹が擬態効果を高める。
キノカワガの翅のこの凸凹が擬態効果を高める。

意外とかわいいキノカワガの正面顔。
意外とかわいいキノカワガの正面顔。

 灯火に集まって白壁にとまっているキノカワガを見つけても、筋金入りの虫好きは全然喜ばない。と言うか、そんな場所にいるキノカワガは、あまり見どころのない、普通の蛾に成り下がってしまう。

 真冬の厳しい寒さの中で、「絶対見つからない」と自信満々のキノカワガの擬態を見破ることこそが、虫探しの醍醐味、虫好きの自己満足の極致なのである。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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