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こんなにスケスケ、シースルーの植物がなぜこの世に存在するのか=トホシテントウ幼虫の仕業#スケスケ

天野和利時事通信社・昆虫記者
スケスケ、シースルーになったカラスウリの葉。所々の黒い物体はトホシテントウ幼虫。

 金網の柵に絡み付く謎の植物。その葉は、ほとんどすべてスケスケ、シースルー状態だ。こんな植物が日本に存在しただろうか。珍奇な外来の新参植物だろうか。

 実はこれはカラスウリ。本来なら緑色の葉が生い茂っているはずなのだが、トホシテントウという草食のテントウ虫の仕業で、こんな不思議な姿になってしまったのだ。晩秋になると、時々こうしたすさまじい光景を見かける。カラスウリの立場から見れば無残な姿だが、人の目には美しい造形にも見える。

 トホシテントウの好物は、カラスウリやアマチャヅルの葉。幼虫も成虫もこれらの葉を食べるが、幼虫の方が食欲旺盛なようだ。

 その食べ方は極めて奇妙で、たいていは葉裏から葉肉を食べ進むのだが、その際に葉の外枠や葉脈、表面の薄皮などを残す。このため、トホシテントウが大量発生すると、前出のようなスケスケの涼しげな葉が出来上がるというわけだ。

トホシテントウの幼虫はこんな円を描いて、その内側を食べていく。
トホシテントウの幼虫はこんな円を描いて、その内側を食べていく。

トホシテントウ成虫の食痕はフィッシュネット風になる。
トホシテントウ成虫の食痕はフィッシュネット風になる。

トホシテントウ幼虫の食痕は段々畑風。
トホシテントウ幼虫の食痕は段々畑風。

トホシテントウの幼虫(左)と成虫(右)の正面顔。
トホシテントウの幼虫(左)と成虫(右)の正面顔。

 スケスケの葉をよく観察すると、円形や扇形の模様がたくさん集まっている。これはトホシテントウが葉に、円形や円弧形の切れ込みを入れてから、その内側の葉肉を食べるためだ。こうすることで、葉から出る摂食阻害物質という不味い液を遮断し、切れ込みの内側をおいしく食べるのだと言われている。

 こうした食べ方は、トレンチ行動(trenching behavior=溝掘り行動の意味)などと呼ばれていて、木の葉に丸い穴がたくさん開いていたら、たいていはこうした食べ方をする虫の仕業だ。

 そんなどうでもいいトリビア的知識は脇に置いて、まずはトホシテントウが作り上げた芸術作品を鑑賞することをお勧めする。「芸術だなんて、ばかばかしい。ただの虫食い跡でしょ」と言われれば、まさにその通りで、返す言葉がないのだが。

木の幹で集団越冬するトホシテントウ幼虫。針山地獄のようだ。
木の幹で集団越冬するトホシテントウ幼虫。針山地獄のようだ。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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