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カメムシ大発生はスギ、ヒノキのせいという噂を検証#カメムシ大発生

天野和利時事通信社・昆虫記者
スギの仲間、メタセコイアの葉上で脱皮の最中のアカスジキンカメムシの幼虫。

 大量の杉(スギ)の植林は、花粉症に悩む人が増えた理由の一つと言われている。そして、今年秋の西日本でのカメムシ大発生も、スギと関係しているという説がある。

 スギ、ヒノキの花粉が多い年には、秋に実るスギ、ヒノキの実(果球)も多くなる可能性が高い。そして、多くのカメムシがこの果球の汁を好むと言われている。

 今年秋に西日本で大発生して、人々を悪臭で苦しめたツヤアオカメムシも、この果球がお気に入りだという。

 つまり、春にひどい花粉症で苦しんだ年には、秋のカメムシ被害に悩まされる可能性が高いということだ。まさに踏んだり蹴ったりである。スギ、ヒノキ類が多い地域の人々は、花粉とカメムシのダブルパンチを覚悟せざるを得ない。

スギの仲間、メタセコイアの大きな果球はカメムシのお気に入り。全国各地の公園にメタセコイアの並木が多くなったのもカメムシ大発生の一因かも。
スギの仲間、メタセコイアの大きな果球はカメムシのお気に入り。全国各地の公園にメタセコイアの並木が多くなったのもカメムシ大発生の一因かも。

ヒノキの仲間のコノテガシワに集まっていたアカスジキンカメムシの幼虫。
ヒノキの仲間のコノテガシワに集まっていたアカスジキンカメムシの幼虫。

メタセコイアの実にはツヤアオカメムシの姿もちらほら。
メタセコイアの実にはツヤアオカメムシの姿もちらほら。

 カメムシ大好きの昆虫記者は、カメムシ大発生のニュースにワクワク、ドキドキしながら、スギ、ヒノキ類の果球とカメムシの状況を調べてみた。しかし、残念ながら(一般人にとっては嬉しいことに)、昆虫記者のテリトリーである東京近辺では、ツヤアオカメムシの大発生は確認できなかった。

 代わりに大発生していたのは、アカスジキンカメムシだ。このカメムシは成虫が宝石のように美しいことで有名なので、昆虫記者にとっては朗報だ。

 スギ、ヒノキ類の果球を好むカメムシの代表は、ツヤアオカメムシとチャバネアオカメムシだが、昆虫記者のテリトリーでは毎年、アカスジキンカメムシが一番多い。しかし、アカスジキンカメムシが秋に人家などに大量に飛んできて、悪臭をまき散らすことはない。それはなぜか。

 ツヤアオカメムシとチャバネアオカメムシは羽のある成虫の姿で越冬するが、アカスジキンカメムシは羽のない幼虫の姿で越冬するからだ。

 ツヤアオカメムシは、越冬場所を探したり、灯火に誘われたりして、秋に人家に飛んできて人々に嫌がられる。しかし、その頃まだ幼虫のアカスジキンカメムシは、飛べないのでスギ、ヒノキなどの樹皮の割れ目や落ち葉の下で越冬するしかない。

松の木にいたチャバネアオカメムシ。松の実からも吸汁するのだろうか。
松の木にいたチャバネアオカメムシ。松の実からも吸汁するのだろうか。

 アカスジキンカメムシの成虫は、昆虫記者が日本で一番きれいな虫の有力候補に推す虫。そんなアカスジキンカメムシが悪者扱いされずに済んだのは良かったが、昆虫記者にとっては、ツヤアオカメムシも、チャバネアオカメムシも、可愛いやつらなのである。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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