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公園のツバ吐き犯はお前だ!=海外ではツバ吐き虫の名を持つアワフキムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
ツバのような泡(上)を取り去るとアワフキムシの幼虫(下)が姿を見せる。

 道端で唾(ツバ)を吐き散らすのはマナー違反。でも、森の小道や公園で、草木の枝にそんな「犯行の証拠」を見つけても憤慨しないように。それはたいていアワフキムシの幼虫の仕業だ。なのでアワフキムシは、英語ではスピットルバグ(ツバ吐き虫)とも呼ばれている。

 アワフキムシはウンカ、ヨコバイに近い、小さくて地味な虫(熱帯には非常にきれいな種類が多いが)なので、興味を持つ人は非常に少ない。昆虫記者を自称する私でさえ、アワフキムシにはほとんど関心を持っていなかった。

熱帯のアワフキムシ成虫には、こんな派手な装いのものも多い。
熱帯のアワフキムシ成虫には、こんな派手な装いのものも多い。

 しかし先日、都内の公園でアワフキムシ幼虫の泡の巣を見つけて「生みたてのカマキリの卵(卵嚢)だね」などと言っている大人たちがいたので、誤解を正す必要があると思い立った(一般人にとっては余計なお世話だろう)。

 近くには幼虫の泡がたくさんあり、終齢幼虫の脱皮殻の隣に、羽化したばかりの成虫(シロオビアワフキ)もいたので、「アワフキムシの名誉のためにも、絶対に誤解を解消しなければならない」という使命感に燃えて写真を撮った。

 アワフキムシの幼虫は、とかく誤解されやすい虫だ。私の妻などは、草木の枝に付いたアワフキムシ幼虫の泡を見て、「公園で唾を吐き散らすなんて最低」と憤慨していた。欧州では、この泡を「鳥の唾」と考えていたこともあるようなので、唾との誤解はよくあるのだろう。

 シンガポールでは、道端に唾を吐くと、結構な額の罰金を取られるらしいので、アワフキムシ幼虫の泡の近くを通る時は、ツバ吐きの犯人と誤解されないよう注意が必要だ。

 また、日本では昔、泡の中に隠れているアワフキムシの幼虫を、ホタルの幼虫と誤解していたこともあったようだ。

アワフキムシの幼虫が作った泡製の隠れ家。
アワフキムシの幼虫が作った泡製の隠れ家。

泡を取り去られたアワフキムシの幼虫は、しばらくするとまた泡を出し始める。
泡を取り去られたアワフキムシの幼虫は、しばらくするとまた泡を出し始める。

泡の中から取り出したシロオビアワフキの終齢幼虫。若齢の時期はタイトル写真のように腹部が赤い。
泡の中から取り出したシロオビアワフキの終齢幼虫。若齢の時期はタイトル写真のように腹部が赤い。

羽化したばかりのシロオビアワフキ成虫と、幼虫時代の脱皮殻。
羽化したばかりのシロオビアワフキ成虫と、幼虫時代の脱皮殻。

 アワフキムシの幼虫は、分泌物と排泄物を組み合わせて、石鹸水のような物質を作り出す。そして尻の先に付き出た気門から取り入れた空気を、この石鹸水の中に吹き込んで泡を作るらしい。

 この泡は、幼虫の隠れ家になり、天敵に対する防御バリアともなる。幼虫自身がこの泡で窒息することはないが、天敵が泡の中に入り込もうとすると、石鹸液の泡の中で溺死してしまうという。

 これまでアワフキムシなんぞに何の興味もなかったのだが、調べてみると、見事な生存戦略を持ったなかなかに奥深い虫なのだなと感心することしきりだ。

 虫好きの子を持つ親御さんなら、近所の公園でアワフキムシ幼虫の泡を見つけた際に、是非じっくり観察して、中の幼虫を確認してみることをお勧めする。子どもの好奇心に火が付くはずだ。

 その泡がアワフキムシ幼虫のものでなく、不届き者が吐き捨てた唾だったとしても、昆虫記者は責任を取らない。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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