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うんこ芸術作家と平安の女流作家・紫式部の微妙な関係

天野和利時事通信社・昆虫記者
イチモンジカメノコハムシの幼虫。背後の黒いトゲ状のものは糞で作った芸術作品。

 昆虫界の「うんこ芸術作家」の筆頭格と言えば、ムラサキシキブ(紫式部)の木にいるイチモンジカメノコハムシだろう。このハムシの幼虫は、ムラサキシキブの葉をもりもり食べて、もりもり糞をし、その糞と自らの脱皮殻で異様な芸術作品を作り上げる。

 幼虫は平時には、この作品を背負うような形で身を隠すのだが、その習性を知っている虫好きは、簡単に擬態を見破ってしまう。幼虫は、危険を感じると、この作品を振り上げて威嚇姿勢をとるが、その際には幼虫本体の姿が丸見えになってしまうので、かえって敵に捕食されやすくなるのではないかと心配になる。

平時には糞の作品を背負うようにして身を隠している。
平時には糞の作品を背負うようにして身を隠している。

糞の作品を振りかざして威嚇態勢をとるイチモンジカメノコハムシ幼虫。
糞の作品を振りかざして威嚇態勢をとるイチモンジカメノコハムシ幼虫。

 振り上げられた作品は、大写しにすると、まるで不動明王の背後で燃え盛る火炎のように見える。どうすれば、自分の糞でこれほど見事な作品を作り上げられるのだろうか。じっくりと時間をかけて観察すれば、その製作過程が分かるのだろうが、残念ながら「貧乏暇なし」の昆虫記者には、そんな時間的余裕はない。暇な人は是非観察してほしいが、それほど暇な人はめったにいない。

 ムラサキシキブは、かつてはムラサキシキミと呼ばれたが、紫色の実が美しいので、「源氏物語」で知られる平安時代の女流作家「紫式部」に例えられ、シキミがシキブに変わったという。

 美しき女流作家(本当に美人だったどうかは定かでない)の名を冠したムラサキシキブと、うんこ芸術作家が密接な関係になったのは、運命のいたずらだろうか。ムラサキシキブの実を愛でる際には是非、紫式部の美貌を想像しながら、イチモンジカメノコハムシの幼虫の芸術作品を探してほしい。

紫色の実が美しいムラサキシキブ。
紫色の実が美しいムラサキシキブ。

イチモンジカメノコハムシの成虫。
イチモンジカメノコハムシの成虫。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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