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妙に毛深いモンシロチョウ?それはウスバシロチョウというアゲハの仲間かも

天野和利時事通信社・昆虫記者
春に妙に毛深いシロチョウを見つけたら、それはアゲハの仲間かも。

 高尾山周辺などでは4月末ぐらいから、モンシロチョウにしては妙に毛深い白い蝶をよく見かけるようになる。それはたぶん、ウスバシロチョウ(ウスバアゲハ)だ。

 氷河時代からの生き残りとも言われており、胴体がマンモスのように毛深いのはそのためかもしれない。「シロチョウ」の名が示すように、大きさも色模様もモンシロチョウやスジグロシロチョウに似ているが、何とアゲハチョウ科の蝶だという。

ウスバシロチョウの胴体付近はかなり毛深い。
ウスバシロチョウの胴体付近はかなり毛深い。

 ◆スケスケ衣装が魅力

 春にだけ発生するこのウスバシロチョウは、発生初期にはモンシロチョウ並みに白っぽいのだが、次第に翅の透明度が増してきて、「ウスバ(薄羽)」の名の通り、スケスケ状態になってくる。このステンドグラス風の翅を透かして、草花の色柄が見えたりすると、息をのむ美しさになる。ウスバシロチョウは、翅が透けてきてからが見頃と言えるかもしれない。

ウツギ系の花に群れるウスバシロチョウ。
ウツギ系の花に群れるウスバシロチョウ。

かなりスケスケ感が強くなったウスバシロチョウ。お尻には交尾嚢が付いている。
かなりスケスケ感が強くなったウスバシロチョウ。お尻には交尾嚢が付いている。

 ◆メスの貞操帯にも注目

 もう一つ注目して欲しい点は、交尾済みのメスのお尻付近に付いている交尾嚢だ。これは交尾の際にオスがメスに付けるもので、交尾嚢を付けられたメスは、別のオスとの交尾が困難になる。つまりこの交尾嚢は貞操帯のような役目を果たすのだ。他のオスにお気に入りのメスを渡したくないという独占欲、自分の遺伝子を持つ子孫を残したいという執念が感じられる。

ウスバシロチョウのメスのお尻付近に付けられた交尾嚢。
ウスバシロチョウのメスのお尻付近に付けられた交尾嚢。

 ◆蝶なのに繭を作る

 蛾は繭を作ることが多いが、蝶は繭を作らないというのが、一般常識だが、このウスバシロチョウは、蝶としては珍しく、蛹化の際に繭を作る。これもまた、氷河時代の生き残りの特性かもしれない。

 幼虫は、昼間は食草のムラサキケマンの近くの落ち葉の陰などに隠れているので、見つけ出すのは難しい。アゲハの仲間なので、幼虫は危険を感じると頭部付近から肉角を出すという。

食草のムラサキケマンを食べるウスバシロチョウの幼虫。
食草のムラサキケマンを食べるウスバシロチョウの幼虫。

ウシバシロチョウの繭。この中に蛹が入っている。
ウシバシロチョウの繭。この中に蛹が入っている。

 シロチョウのようで実はアゲハ。スケスケ衣装に貞操帯。蝶なのに繭を作る。ウスバシロチョウのそんな変てこな特徴を知っていると、春の虫探しが一段と楽しくなる。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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