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寝すぎだろ!10カ月眠って春一番に目覚めるこの青い虫は何者?

天野和利時事通信社・昆虫記者
春一番に一斉に出現するコガタルリハムシ。結婚相手をめぐり激しい争いを繰り広げる。

 3月に入ると、土の中から小さな青い虫がワサワサ大量に出現してくる。このコガタルリハムシは、早春の野原で一番多く見かける虫かもしれない。

 「なんて早起きの虫なんだろう」と思ったら大間違い。早春に大量発生するコガタルリハムシは、実は前の年の5、6月に羽化し、1週間ほど活動した後、土に潜って長い長い眠りについていたのだ。つまり、1度起きた後、9~10カ月間眠り続けたことになる。

3~4月、10カ月の眠りからさめて土中から這い出してくるコガタルリハムシ。
3~4月、10カ月の眠りからさめて土中から這い出してくるコガタルリハムシ。

 これでは、早起きと言うより、とてつもない寝坊ということになる。ハムシやテントウムシの中には、夏の暑い時期に活動を休止し「夏眠」という状態になるものが多く見られるが、こうした夏眠の期間はたいてい2~3カ月だ。

 それに対し、コガタルリハムシは、夏も冬もずっと眠り続けるという、睡眠欲が異常に強い変な虫なのだ。

 春に目覚めたコガタルリハムシは、急いで交尾・産卵し、一生を終える。その後発生する黒いイモムシ状の幼虫の餌は、雑草のギシギシなどの葉。大量の幼虫に食い荒らされたギシギシの葉が、葉脈だけの無残な姿になっているのを良く見かける。

コガタルリハムシの雌とギシギシに産み付けられた卵。
コガタルリハムシの雌とギシギシに産み付けられた卵。

お腹が膨れたコガタルリハムシの雌はどこでもモテモテ。
お腹が膨れたコガタルリハムシの雌はどこでもモテモテ。

黒いイモムシ状のコガタルリハムシの幼虫。
黒いイモムシ状のコガタルリハムシの幼虫。

コガタルリハムシの幼虫に食い荒らされて葉脈だけになったギシギシの葉。一種芸術的でもある。
コガタルリハムシの幼虫に食い荒らされて葉脈だけになったギシギシの葉。一種芸術的でもある。

 ギシギシは生命力の強い厄介な雑草なので、それを食害するコガタルリハムシは益虫とも言える。しかし、盛んに餌を食べる幼虫の期間は春だけ。新成虫も短期間ギシギシなどを食べるが、6月中に眠りに入って姿を消してしまうので、雑草駆除の効果は限られる。

 「寝てばかりいないで、雑草駆除に精を出せ」と言いたくなるが、コガタルリハムシは、睡眠重視の生活パターンを頑固に守り続ける。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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