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鬼女と悪役レスラーは冬の高尾山名物=キジョランとアサギマダラ越冬幼虫#イモムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
鬼女蘭(キジョラン)の葉裏で越冬するアサギマダラの幼虫

 冬の高尾山周辺では、白髪を振り乱した鬼女をよく見かけることがある。と言っても、もちろん、小屋の中で包丁を研ぐ山姥とか、かつて渋谷あたりに多かったヤマンバ・ギャルのことではない。キジョラン(鬼女蘭)の大きな実がはじけて、鬼女の髪のような白い綿毛が飛び出てくるのだ。

 そのキジョランの葉裏では、アサギマダラという超美麗な蝶の幼虫が越冬している。アサギマダラは成虫のみならず、組み紐のような模様の幼虫も非常に美しい(ただし、顔のように見えるその頭部は、悪役レスラーの覆面のようでちょっと怖い。ヤマンバ・ギャルにも少し似ている)。

1月の高尾で見つけたキジョランの実。はじけた裂け目から白髪のような綿毛が飛び出る。
1月の高尾で見つけたキジョランの実。はじけた裂け目から白髪のような綿毛が飛び出る。

髪を振り乱した鬼女のように見える裂けたキジョランの実。
髪を振り乱した鬼女のように見える裂けたキジョランの実。

 真冬に見つかる越冬幼虫は、非常に小さいものが多いので、美貌が花開くのはまだ少し先になる。それでも、若干大きめの幼虫には、端麗な容姿の兆しが感じられる。

 アサギマダラの越冬幼虫を見つけるにはコツがあり、それを会得すれば、誰でも比較的簡単に幼虫に出会える(と言っても真冬にそんな地味な作業をする人は、よほどの虫好きだけだ)。

 そのコツとは、まず地面近くに生えている高さ数十センチから1、2メートルの小さなキジョラン探すこと。そのキジョランの葉に丸い穴(幼虫の食痕)がたくさん開いていたら、近くにアサギマダラの幼虫がいる可能性大だ。

丸い穴がたくさん開いた小さなキジョランを見つけたら、その葉裏にアサギマダラ幼虫がいる可能性大。
丸い穴がたくさん開いた小さなキジョランを見つけたら、その葉裏にアサギマダラ幼虫がいる可能性大。

キジョランの葉裏に円を描いてから食事にとりかかるアサギマダラの若齢幼虫。
キジョランの葉裏に円を描いてから食事にとりかかるアサギマダラの若齢幼虫。

1,2月には少し大きな幼虫も見られる。その顔は悪役レスラーの覆面のよう。
1,2月には少し大きな幼虫も見られる。その顔は悪役レスラーの覆面のよう。

 葉を裏返してみて、穴の周囲に白い粉(植物が食害されないように出す物質)が付いていたら、その葉か、すぐ近くの葉に幼虫がいる。白い粉がなければ、古い食痕の可能性が高いので、近くで幼虫が見つかる可能性は低くなる。

 これだけの知識があれば、アサギマダラの越冬幼虫探しの成功率はほぼ100%。「さあ、鬼女と悪役レスラーを探しにいざ真冬の高尾へ」。などと言っても、どこからも賛同の声が聞かれないのはなぜだろう。

キジョランの丸い食痕から指を出して遊んでみた。
キジョランの丸い食痕から指を出して遊んでみた。

キジョランの種。冬の高尾の山道にたくさん見られる。
キジョランの種。冬の高尾の山道にたくさん見られる。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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