怪談・皿屋敷の「お菊」さんの亡霊のように艶っぽい「お菊虫」=真冬の昆虫芸術①
日本の三大怪談の1つとして有名な番町皿屋敷(播州皿屋敷など各種バージョンがある)に登場する「お菊」さんの亡霊は、一説では絶世の美女幽霊とされている。そんな美女なら一度はお目にかかりたいと、幽霊が出る井戸に通う好色男を描いた落語もあるらしい。冬の野山は、そんなお菊さんの化身との、絶好の出会いの場だ。
お菊さんの化身と言われる「お菊虫」は、ジャコウアゲハという蝶の蛹で、その姿はお菊さんの幽霊を思わせるほど妖艶だ。
番町バージョンの怪談では、お菊さんは、奉公先の屋敷の家宝だった10枚の皿のうち1枚を割ってしまい、主から厳しい折檻(中指を切り落とすという恐ろしいシーンもあるようだ。ギャー!)を受けた上、縄で縛りあげられ、小部屋に幽閉される。そんな虐待に耐えかねたお菊さんは、夜に部屋を抜け出し、裏庭の古井戸に身を投げる。幽霊が「1まーい、2まーい」と皿を数えるシーンは特に有名だ。
お菊虫は、着物姿で後ろ手に縛られたお菊さんの姿に似ている(あくまでも個人的感想)。蝶の蛹の多くは、上体を糸で木にくくり付けているので、「縛り上げられた」ように見えるのは当然だ。お菊虫の場合はその上に、人肌のような色合いで、上体には乳房を思わせる2つの突起があり、体全体に着物のひだを思わせる起伏がある。
また、皿屋敷の伝承がある姫路では、江戸時代(1795年)に、井戸の周辺でお菊虫が大発生したという記録が残っているという。井戸周辺に大量に現れた奇怪な虫は、井戸に身を投げたお菊さんの化身と思われたのだろう。
お菊虫は、ジャコウアゲハの幼虫の食草「ウマノスズクサ」が生える草地の近くの物陰にたくさんぶら下がっていることがある。木々の葉が落ちて、物陰の蛹が見つけやすくなる冬は、お菊虫探しの絶好の季節。井戸の周囲よりは、橋の欄干や土手の防護柵の裏側などに多い。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)