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昆虫の超絶擬態を暴く⑥=このトリックアート擬態をあなたは見破れるか

天野和利時事通信社・昆虫記者
くるりと巻いた枯れ葉に見えるトリックアート擬態のムラサキシャチホコ

 ムラサキシャチホコという蛾の擬態は、まさにトリックアートだ。平面の翅の上に描き出された模様は、枯れ葉の端がクルリとめくれ上がったように見える。平面(2次元)に描かれた絵を立体(3次元)に見せる「だまし絵」の世界だ。このため、ムラサキシャチホコの擬態は、トリックアート擬態とか、3D擬態とか呼ばれる。その擬態ぶりは、短編小説の名手オー・ヘンリー氏の感動の名作「最後の一葉」で、老画家が壁面に描いたツタの葉よりも精巧かもしれない。しかもこれは、人間の創作物ではなく、自然の産物だ。

 目頭を熱くしながら「最後の一葉」を読む際には、是非ムラサキシャチホコの見事な擬態を思い出してほしい。

指の上でじっくり観察しても、ムラサキシャチホコの翅の模様は3Dに見える。
指の上でじっくり観察しても、ムラサキシャチホコの翅の模様は3Dに見える。

翅を広げると少し蛾らしくなるが、それでもなお翅の模様は立体的に見える。
翅を広げると少し蛾らしくなるが、それでもなお翅の模様は立体的に見える。

野外で緑の葉の上で見つけたムラサキシャチホコ。これが地面にいたらまず見つからない。
野外で緑の葉の上で見つけたムラサキシャチホコ。これが地面にいたらまず見つからない。

 擬態に騙されずにムラサキシャチホコの成虫を見つけるのは難しいので、どうしてもこのトリックアートを見たいと言う人には、まず幼虫を探し出して、蛹化、羽化させることをお勧めする。クルミの木の葉裏を丹念に探せば、黄緑色の地に茶色の模様が入った可愛い幼虫が見つかるだろう(東京近郊でも、多摩川とか荒川とかの河川敷の公園のクルミの木で結構見かける)。

ムラサキシャチホコの幼虫は、クルミの葉裏で見つかる。
ムラサキシャチホコの幼虫は、クルミの葉裏で見つかる。

 しかしこの幼虫も、枯れかけたクルミの葉の一部のように見えるので、騙されないよう注意が必要だ。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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