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昆虫の仰天擬態を暴く②=アゲハモドキの見事なモドキぶりには人間モドキもびっくり

天野和利時事通信社・昆虫記者
どう見ても、クロアゲハの仲間の蝶にしか見えないアゲハモドキ。

 アゲハモドキは蛾(ガ)なのに、蝶(チョウ)のジャコウアゲハに擬態しているとされている。そのモドキぶりは、人間モドキ(かつての特撮物マグマ大使の小悪党)やガンモドキ(鳥のガンの肉に味が似ているらしい)もびっくりの見事さだ。

 アゲハモドキはなぜ蝶に擬態しているのか。日陰者の蛾が、いつかは蝶になりたいと憧れて真似をしたわけではない。擬態の相手であるジャコウアゲハには毒があって、天敵の鳥などに襲われにくい。このため、ジャコウアゲハに似たアゲハモドキも、鳥に襲われにくいのだ。無害な種が有害な種を模倣する「ベイツ型擬態」の典型例なのである。

 あまりに不味くて鳥が「ベッ」と吐いてしまう虫への擬態なので「ベイツ型擬態」と覚えるのがいい(本当は研究者のベイツ氏の名に由来)。

昼間に活動するアゲハモドキを目にした人は、たいてい蝶だと思ってしまう。
昼間に活動するアゲハモドキを目にした人は、たいてい蝶だと思ってしまう。

 下に擬態のモデルになっているジャコウアゲハの写真を掲載するので、どれほど似ているか見比べてほしい。左がジャコウアゲハのオス、右がメスだ。

これが擬態のモデルのジャコウアゲハ。左がオス、右がメス。胴体に赤い部分があるのが、他の黒いアゲハとの大きな違い。
これが擬態のモデルのジャコウアゲハ。左がオス、右がメス。胴体に赤い部分があるのが、他の黒いアゲハとの大きな違い。

 ジャコウアゲハを食べた鳥は悶絶し、嘔吐してしまうというから、その毒は相当強烈なのだろう。このため、蝶の中にもシロオビアゲハのメスの一部のように、ジャコウアゲハの仲間に擬態(翅の模様がそっくり)しているものがいる。

 しかし、アゲハモドキの擬態は、さらに上を行く。アゲハモドキは、翅の柄だけでなく、胴体の柄までジャコウアゲハに似ているのだ。ジャコウアゲハの胴体を見ると、毒々しい赤色の部分が目立つ。そして、アゲハモドキの胴体も同様に毒々しい。精巧なコピー商品として訴えられるレベルだ。

アゲハモドキの胴体。ジャコウアゲハと同じように毒々しい赤色が目立つ。
アゲハモドキの胴体。ジャコウアゲハと同じように毒々しい赤色が目立つ。

 ただ、アゲハモドキのサイズは、ジャコウアゲハと比べるとかなり小さい。しかし、ここまで姿が似ていると、一度ジャコウアゲハを食べた鳥は、ミニ・ジャコウアゲハのようなアゲハモドキを食べようとは思わないだろう。

さあ、これはアゲハモドキかジャコウアゲハか。正解はアゲハモドキ。
さあ、これはアゲハモドキかジャコウアゲハか。正解はアゲハモドキ。

ではこれは、アゲハモドキかジャコウアゲハか。これも正解はアゲハモドキ。触角を見ると確実に分かる。
ではこれは、アゲハモドキかジャコウアゲハか。これも正解はアゲハモドキ。触角を見ると確実に分かる。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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