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日本で一番きれいな虫その②=並みの美しさではないナミハンミョウ

天野和利時事通信社・昆虫記者
生きた宝石、ナミハンミョウ

 日本一きれいな虫の座をヤマトタマムシと争うのがナミハンミョウ。大きさではヤマトタマムシに劣るが、カラフルさはタマムシ以上であり、まさに昆虫界の宝石だ。

 これほど美しい虫でありながら、ヤマトタマムシほどの知名度、人気がないのはなぜなのか、簡単に考察してみたい。

 理由その①=動きが素早いため、目に留まりにくく、じっくり鑑賞できない。

 理由その②=死んで標本になると色柄の鮮やかさが失われる(タマムシの美しさは死んでも衰えない)。

 理由その③=小昆虫を捕まえて食べる肉食の獰猛なハンターである(幼虫もこわもてのハンターだ)。

 理由その④=顔が怖い(肉食者にふさわしい恐ろしげな牙を持っている)。

美しすぎるが故にナミハンミョウを毒虫と思っている人もいる。毒虫のツチハンミョウとの混同もあるという
美しすぎるが故にナミハンミョウを毒虫と思っている人もいる。毒虫のツチハンミョウとの混同もあるという

ナミハンミョウは肉食なので、鋭い牙(大あご)を持つ
ナミハンミョウは肉食なので、鋭い牙(大あご)を持つ

牙をむきだしたナミハンミョウの形相はかなり怖い
牙をむきだしたナミハンミョウの形相はかなり怖い

アリを捕食するナミハンミョウ
アリを捕食するナミハンミョウ

 日本一きれいな虫コンテストで、ヤマトタマムシよりもナミハンミョウ推しの昆虫記者としては、こうしたナミハンミョウのマイナスイメージを論破していきたい。

 ①まず動きが素早い点は、江戸の昔から「道教え」「道しるべ」と呼ばれて、ナミハンミョウが親しまれる理由になってきた。人が近づくと、歩を進めるのに合わせるように数メートル先へと飛んで逃げる動きを繰り返す様子が、まるで道案内をしているように見えるのだ。ヤマトタマムシにはこんな芸当はできない。

 ②死ぬと色落ちするのは、ハンミョウの鮮やかな色彩が命の喜びなのだと解釈することができる。

 ③幼虫も成虫も肉食だということは、害虫を駆除する益虫であることを示している。

 ④怖い顔は、勇猛で精悍な容姿ととらえることもできる。

 いずれもこじつけのようだが、アイドル「推し」の理由はたいていそんなものだ。会いに行けるアイドルをコンセプトとしてAKB48が登場したが、ほぼ日本全国に生息するナミハンミョウも会いに行けるアイドルだ。地面が多少湿っていて木漏れ日が当たるような林道、小川沿いの木道などで会える確率が高い。

地面の穴の中で獲物が通りかかかるのを待つハンミョウの仲間の幼虫
地面の穴の中で獲物が通りかかかるのを待つハンミョウの仲間の幼虫

偽の餌を使ってハンミョウの仲間の幼虫を穴から引っ張り出してみた
偽の餌を使ってハンミョウの仲間の幼虫を穴から引っ張り出してみた

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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