サバ缶は魚不人気の救世主? 今年の一皿「鯖(さば)」の流行を分析する

サバといえば人気が高い料理は、「サバの味噌煮」である。(ぐるなび提供)

 「その年の日本の世相を反映し象徴する食」として発表され、年々存在感を増しているぐるなびの「今年の一皿」。選ばれた食品、食材は注目度が高まる傾向にある。たとえば、発表後にメニューに取り入れる飲食店数は、初回の2014年に選ばれたジビエ料理は4年間で1.4倍、2016年に選ばれたパクチー料理は2年間で1.4倍に増える結果をもたらしている。

 2018年の「今年の一皿」は、12月6日、渋谷のセルリアンタワー東急ホテルにて発表された。それは「鯖(さば)」。特に今年注目が集まったサバ缶人気が影響している。その他、準大賞として四川料理などの「しびれ料理」、ノミネートワードとして「高級食パン」「国産レモン」が選ばれている。

 今年もさまざまな料理や食品が流行ったが、その中でなぜサバの人気が特に高かったのだろうか。

今や、サバ缶人気はツナ缶をしのぐ。

 「今年の一皿」は、飲食店情報サイト「ぐるなび」の総掲載店舗約50万店などが発信する一次情報と、1643万人のぐるなび会員などの閲覧履歴や行動履歴を掛け合わせたビッグデータがベース。検索数が多いワード、検索上昇率が高い30ワードの中から、メディア関係者が審査を行い、四つまでに絞り込んだのち、三つの条件を満たすワードを選び出す。

 その条件とは、「その年に流行または話題になったこと」「その年の社会の動きと関係が深く世相を反映していること」「食文化の記録として後世に受け継ぐ価値があること」。流行だけでなく、それが今後日本の食文化の一角を占める可能性も考慮しているのだ。

 サバ缶は、ここ数年人気が高まっている魚缶の一つ。最初に注目を集めたきっかけは、東日本大震災の際に被災した石巻で、泥をかぶった缶詰を、東京・経堂に運んで洗ったのちに販売した美談。『蘇るサバ缶』(須田泰成、廣済堂出版)によると、そのサバ缶は2011年末までに、22万缶も売れた。

 その後、岩手県の漁業復興プロジェクトとして、黄色地に青の文字を使い、フランス語で「元気?」を意味する「Ca va?(サバ)」と書かれたおしゃれな缶詰が、岩手県産株式会社から2013年に発売、2年半で100万缶以上を販売する大ヒットとなった。

 巷のサバ缶人気に火がついたのは、その後しばらくしてから。バラエティ番組の「秘密のケンミンSHOW」(日テレ系)の2017年9月14日の放送回で、長野県民が、ご当地食材の根曲がり竹と一緒に入れる味噌汁を熱愛すると伝えたこと。その後、商品のヒットに結びつきやすい「マツコの知らない世界」(TBS系)でも、12月5日放送回でサバ缶を取り上げる。NHKの「あさイチ」もくり返しサバ缶レシピを紹介している。

 今年に入ってから、新聞その他のメディアでも、サバ缶人気を取り上げる記事が増えた。私も東洋経済オンラインの7月6日配信記事で書いている(https://toyokeizai.net/articles/-/227989)。その際、マルハニチロでは2017年10月からの半年間で、前年同時期と比べ4割もサバ缶の売上が上昇していることが分かった。また、日本缶詰びん詰レトルト食品協会の調査によると、2016年以降、生産量が低下しているツナ缶よりサバ缶のほうが生産量が多いという結果になっている。しかも、缶詰全体の生産は減少傾向にある。今やサバ缶は、魚缶の生産量ナンバーワンであるだけでなく、魚缶人気復活のホープでもあるのだ。

サバ缶はなぜ急に人気になったのか?

 サバ缶人気の原因は、五つある。一つはおしゃれな装いのパッケージだ。岩手県産株式会社の「Ca va?(サバ)」は、缶のデザインがおしゃれなだけでなく、味も従来の水煮や味噌煮ではなく、オリーブオイル漬け、レモンバジル味などの洋風だ。ほかにも、原材料にこだわったサバ缶や、産地を特定したサバ缶など、高級志向の缶詰も増え、ラインナップが充実してきた。

 二つ目は、レシピを展開するメディアが増えたこと。テレビ番組では、スープやトマト煮込みなどのアレンジレシピを紹介。クックパッドでも、さまざまなサバ缶レシピを紹介している。また、人気を受けて今年は魚缶レシピ本が相次いで出版されている。そのまま食べるイメージが強かったサバ缶が、実はツナ缶と同じように和洋中さまざまな料理にアレンジできることが知られ、買う人が増えたのではないかと考えられる。

 三つ目は、サバ缶料理が、時短料理がもてはやされる時代にも合っていることだ。すでに加熱処理されているので、生魚で必要な下処理をしなくて済む。サバに含まれるうま味も、料理の手間を省く。例えばサバ缶の味噌汁は、出汁がいらない。トマト缶を使った洋風アレンジでは、トマトが持つグルタミン酸とサバが持つイノシン酸の相乗効果で、昆布と鰹節の出汁を作ったのと同じようにうま味が何倍にもなる。

セルリアンタワー東急ホテル提供。トマト味の「鯖のプッタネスカ」(ぐるなび提供)
セルリアンタワー東急ホテル提供。トマト味の「鯖のプッタネスカ」(ぐるなび提供)

 サバは店頭で、切り身と丸ごとの両方が売られているが、丸ごとを買った場合は、さばいてワタを捨てなければならない。魚料理が敬遠される理由の一つは、丸ごと売られていることが多い青魚をさばく煩わしさだ。ワタを触りたくない人もいるし、くさいワタの処分が面倒だ。

 ところが、あらかじめ加熱調理されたサバ缶の場合、下処理が必要ないうえ、日持ちする。生の魚が肉よりも鮮度の高さが求められることも、消費者を魚売り場から遠ざけている。働く女性が増え、毎日買い物できるとは限らない人が多い中、魚は冷凍保存しやすい肉より使い勝手が悪い。しかし、缶詰なら何カ月も保存できる。

 四つ目の理由は、安いこと。魚は概して肉より割高だが、サバ缶は安いものなら1缶100円程度と買いやすい。高級缶詰も数百円程度だ。ついでに言えば、生のサバも大衆魚でリーズナブル。

 そして、五つ目の理由が、健康に良いとされるドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)が豊富に含まれており、健康食品としても注目されていることだ。

サバは魚料理の救世主になるか?

 理由を列挙してみると、サバ缶人気は、主に調理する人にとっての生の魚の不人気を反映していることがわかる。つまり、保存が難しいので買いづらい、下処理が面倒といったことだ。厚生労働省の国民栄養調査によれば、魚介類の摂取量は肉類を下回る傾向が続いている。

 しかし、食べる側にとっては、魚は変わらず人気の食材である。サバの味噌煮は人気の定食メニューだし、煮つけや焼き魚も好きな人は多い。そして、刺身は全国各地の観光の目玉になるほど人気で、握りずしは外国人にまで人気が広がっている。今も日本人は、気持ちの上では魚食民族なのである。

 魚が肉より割高なのは、生産量が減っている影響が大きい。サンマや鮭、ホッケなども大衆魚でなくなりつつある。クロマグロ、ウナギなどの生産量の少なさについてくり返し報道されているほか、世界では魚介類の生産量低下に伴い、資源保護に力を入れる潮流がある。日本でも、資源保護に力を入れる産地は増えており、稚魚を育てて放流するなどの取り組みをしている地域、魚介類は多い。

 そんな中、ぐるなびの「今年の一皿」の記者発表会では、国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所の由上龍嗣さんが、太平洋のマサバの資源量は増えていると報告した。しかし、人気急騰でサバ缶の原料は不足気味という報告もある。大衆魚とはいえ、他の魚介類と同様、いつも安いわけではなさそうだ。

 一方、サバをブランド化する産地も多い。大分県の関サバのほか、三陸沖の金華サバ、東京湾の松輪サバなど、全国で約20種類ものブランドサバがある。サバ缶もそうだが、ブランドサバも地域活性化に貢献していると言える。

 サバ缶だけでなく、生のサバも、味噌煮以外の料理法がある。魚料理の不人気には、消費者のレパートリーの少なさも影響しているように思われる。カットされた状態で売られていて、炒め物や煮物などさまざまなアレンジが可能で使いやすい肉に対し、形が崩れることが気になる魚は、あまりいろいろな料理に使われてこなかったのではないだろうか。

 魚肉の形を自在に変えられるサバ缶人気は、生の魚と異なりアレンジ向きだと知られるようになったことが大きいのかもしれない。食の好みは多様化し、定番だけだとすぐに飽きられてしまう時代になった。これからの魚料理の人気は、いかにアレンジレパートリーが増えるかにかかっているのかもしれない。そのカギを握るのが、今年急速に人気が高まった大衆魚のサバなのである。

記者会見場で出された創作フランス料理の「マサバのこぶ締め炙り」。若手シェフ、糸井彰太さんが考案したライム風味のサバは、キヌアを使ったサバ寿司をイメージした料理。(筆者撮影)
記者会見場で出された創作フランス料理の「マサバのこぶ締め炙り」。若手シェフ、糸井彰太さんが考案したライム風味のサバは、キヌアを使ったサバ寿司をイメージした料理。(筆者撮影)