金星軌道の内側で初めて見つかった小惑星、極めて“レア”なマントル由来か

パロマー山天文台のZTF観測施設 Credit: Palomar/Caltech

これまで発見された80万個近い小惑星の中でも、地球の公転軌道よりも内側に軌道を持つ小惑星グループ「Atira(アティラ)群)」は、22個しか発見されていない。2020年1月に発見された小惑星2020 AV2は、アティラ群の中でもたった1個しかない、金星の軌道の内側に存在することがわかった最初の小惑星だ。そして、この小惑星2020 AV2が太陽系初期の惑星のマントルを起源に持つ特に珍しい小惑星である可能性が6月18日付の英王立天文学会月報で報告された。

2020年1月8日に観測された小惑星2020 AV2の画像。Credit : Gianluca Masi, Ceccano(FR) Virtual Telescope Project
2020年1月8日に観測された小惑星2020 AV2の画像。Credit : Gianluca Masi, Ceccano(FR) Virtual Telescope Project

2020年1月4日、米カリフォルニア州パロマー山天文台の観測装置ZTF(Zwicky Transient Facility)によって小惑星2020 AV2は初めて観測された。これまで発見された多くの小惑星が火星と木星の間の小惑星帯にあり、火星よりも地球に近い軌道を持つ小惑星は地球近傍小惑星(NEA)と呼ばれおよそ2万3000個程度だ。その中でも軌道が完全に地球よりも内側を通る小惑星は、2003年に最初に発見された小惑星アティラ(ネイティブ・アメリカンの女神の名から名付けられた)からアティラ群は、2020年頭の時点でもわずか20個しか見つかっていなかった。

2012年、軌道が金星の内側を通るアティラ群のサブグループ「Vatira(ヴァティラ)群」が提唱されるようになった。ヴァティラは、金星(Venus)の「V」とAtiraを繋いだ名称だ。地球よりも太陽に近い小惑星を発見できるタイミングは明け方と日没の短い時間しかなく、これまで小惑星を数多く発見している観測活動でも2020年までの時間を要した。

小惑星2020 AV2の軌道。遠日点が金星の内側を通るVatira群の最初の小惑星となった。Credit : NASA/JPL
小惑星2020 AV2の軌道。遠日点が金星の内側を通るVatira群の最初の小惑星となった。Credit : NASA/JPL

2020年1月4日の発見から、すぐに世界の天文台がさらなる観測を実施。2020 AV2は遠日点が0.654AU(天文単位:1天文単位は太陽と地球の距離)、直径がおよそ1.5キロメートル、151日で太陽の周りを回ることがわかった。

ルーマニア天文台の天文学者マーセル・ポペスク氏らのチームは、スペイン領のラ・パルマ島にあるロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台での追加観測からわかった2020 AV2のプロフィールを6月の王立天文学会月報に報告した。報告によれば、2020 AV2は元はアティラ群の小惑星のひとつで、10万年前後と比較的最近にアテン群(地球の軌道を横切るNEAのグループ)から現在の軌道に移動してきたとみられるという。

ポペスク氏らは可視光と近赤外での観測を実施し、2020 AV2をSa型の小惑星に分類した。そして、オリビン(カンラン石)が豊富な物質でできており、太陽系初期に惑星サイズの母天体の内部が熱で分化し、マントルにあたる部分からできた小惑星である可能性を指摘している。

現在の惑星形成論によれば、太陽系初期の原始惑星は熱で内部が溶融し、金属鉄の多い中心部(コア)とその周囲のマントル、さらに外側の地殻に分化していった。こうした原始惑星が衝突などで壊れてできた小惑星は、元の天体のどの部分から生まれたかを反映している。コアからできた小惑星は金属質のM型小惑星、地殻からできた小惑星は小惑星探査機「はやぶさ」の目的地である小惑星イトカワのような岩石質のS型小惑星になっていく。

しかし、大きなボリュームを占めるはずのマントル由来の小惑星は少なく、米科学誌Scienceの解説によれば、2019年時点で36個しか発見されていない。また、そのほとんどが小惑星帯に存在し、NEAには1パーセント以下しか存在しないという。オリビンとパイロキシン(輝石)はマントルに多く含まれる物質で、オリビンまたはパイロキシンが豊富な隕石が見つかればマントル由来の小惑星から来たと推察されるが、そうした例がないことから「マントル消失問題(Missing Mantle Problem)」として知られている惑星学の難問だった。

オリビン(カンラン石)を含む隕石。Credit : ESA/J. Debosscher, KU Leuven
オリビン(カンラン石)を含む隕石。Credit : ESA/J. Debosscher, KU Leuven

隕石にオリビン豊富な物質が少ない理由は、オリビンの多いマントル由来の物質が砕けやすく、特に小惑星帯を離れて地球に近づきNEAになる際に、観測できないほど小さな岩石になってしまうからではないかと考えられている

地球に近いNEAの中でマントル由来の小惑星が見つかれば、地球と同様に太陽系初期の惑星内部の物質が分化した名残を留める貴重なサンプルとなるかもしれない。とはいえ、小惑星2020 AV2の表面は微小な岩石の衝突や、太陽の激しい熱で“荒れて”おり、マントル由来のオリビン豊富な物質でできているとの推察はまだ確実なものにはなっておらず、疑問を持つ科学者もいるという。

ポペスク氏は、2020 AV2のさらなる観測からもうひとつのマントル由来物質であるパイロキシンの存在が見つかる可能性に期待を持っている。2020 AV2の家族ともいえる、同様の天体が見つかる可能性もあるという。

今年末に地球に帰還する小惑星探査機「はやぶさ2」が赴いた小惑星リュウグウは、母天体が物質的分化をせず、太陽系初期の物質をそのまま留める“始原小惑星”とされている。始原小惑星と、惑星への進化の歴史を記録したマントル由来の小惑星、両面から太陽系の歴史の解明が期待される。