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ロシア、ソユーズ搭乗の宇宙旅行を45億円で再開へ

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Credit: NASA

ロシアからソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーション(ISS)へ向かう宇宙旅行が25.7億ルーブル(約45億円)で2022年夏以降に実施される方向だという。2019年12月23日付のインターファクス通信が伝えた

国営宇宙公社ROSCOSMOS(ロスコスモス)と米Space Adventures(スペース・アドベンチャーズ)は、今年2月に「2021年後半にソユーズ宇宙船によるISSへの旅行を計画している」と発表した。搭乗予定の旅行客は2名で、「短期旅行」になるという。旅行費用や旅行客のプロフィールなどは公表されていなかった。

打ち上げ前のソユーズ MS宇宙船。Credit: NASA/Victor Zelentsov
打ち上げ前のソユーズ MS宇宙船。Credit: NASA/Victor Zelentsov

インターファクス通信の報道によれば、旅行費用の詳細はソユーズ宇宙船を製造するエネルギヤ社の文書で明らかになった。文書には「宇宙飛行参加者のため、ISSのロシアセグメントに向かうソユーズMS有人宇宙船の飛行」の費用として25億7300万ルーブル(約45億2500万円)という数字が記載されていた。米企業がアメリカの民間宇宙船で計画している旅行費用よりも12億円ほど低額だ。

ロスコスモスのドミートリイ・ロゴジン総裁は、2019年11月に旅行客が登場する宇宙船の製造を発注したと述べている。作業は2022年8月までに完了するとされ、2021年と発表されていた宇宙旅行は2022年後半になる可能性も出てきた。

スペース・アドベンチャーによるソユーズ宇宙船搭乗のISS宇宙旅行は2001年に始まり、元NASAエンジニアのデニス・チトー氏やXプライズを開催したアニューシャ・アンサリ氏など、これまでに7名、延べ8回の宇宙旅行が実現した。2009年の飛行を最後に宇宙旅行は実施されていなかった。

2019年4月、NASAは2020年以降にISSへ民間宇宙飛行士(宇宙旅行者)を受け入れると発表、アメリカ側でもISS宇宙旅行が可能になった。米ビゲロー・スペース・オペレーションズは、1人あたり5200万ドル(約57億円)でISS宇宙旅行を実施すると発表]しており、ソユーズ宇宙船による宇宙旅行はこれよりも低価格だ。

NASA受け入れの宇宙旅行は、ソユーズ宇宙船旅行よりも早く実施される計画だったが、実施時期はスペースX、ボーイングの2社開発による宇宙船の実現に依存している。スペースXは2020年初頭に無人の緊急脱出試験を予定しており、初の有人打ち上げ試験はそれ以降になる。ボーイングは今月実施した無人打ち上げ試験で、エンジンを計画に沿って噴射できなかったことからISSへのドッキングを断念した。有人打ち上げ試験の前にもう一度無人試験を実施する必要があると見られるが、実施の可否や時期については公表されていない。

こうしたアメリカ側の有人宇宙船開発の遅れから、ソユーズ宇宙船によるISSへの宇宙旅行が実現性の点でも費用面でも再び有望となってきたといえる。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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