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BNPパリバオープン:大坂なおみ、世界1位に完勝し、同期のライバルが待つ決勝へ!

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

■準決勝 大坂なおみ 6-3,6-0 S・ハレップ[1]■

 歓声に軽く手をかざし足を踏み入れたセンターコートは、すでに見慣れた景色であり、肌に馴染んだ空気でした。

 時計の針は22時を回り、強風に煽られる乾いた空気は、温度計が指す数字よりも肌に冷たく感じます。多くの選手にとって、プレーするのが困難な環境。それでも、2日前の準々決勝も似た状況下で戦っていた大坂には、気にするほどのことでは無かったようです。

「この試合(準決勝)が、4試合目のナイトセッション。もう慣れたし、今日は他の日に比べて寒くもなかったから、私は、全く気にならなかったわ」。

 試合後に大坂は、事も無げに言いました。

 対する世界1位のハレップは、「今日は最初からボールを捕らえる感覚が悪かった」とこぼします。

「集中できていなかった。今大会、私はこんなに遅い時間の試合はやっていなかったから……」。

 そこまで言うとハレップは、一度言葉を切ってから続けました。

「でも条件はどちらも同じ。私は、心の準備ができていなかった」。

 経験豊富な世界1位が「集中が難しい」と嘆く環境の中、大坂は試合が進むにつれ、集中力を研ぎ澄ましていくようでした。サービスコースを読むことに定評のあるハレップが、この日は大坂のサービスを読みかねている様子。特にアドサイドからのリターン時には、動いた方向と逆にサービスが刺さることが多々あります。「なぜか分からないが集中できず、頭が働いていなかった」とハレップは言いますが、大坂のサービスバリエーションが、読みを外した側面も大きかったでしょう。

「(第1セットの)4-3までは良かったけれど、そこで気持ちが抜けてしまった」というハレップを置き去りにし、大坂は8ゲーム連取の電車道。最終ゲームこそもつれますが、マッチポイントで時速76マイル(約122km)のスピードを抑えたファーストサービスを「わざと打った」あたりに、大坂の冷静さが見て取れます。結果的にこのポイントは落としますが、3本目のマッチポイントでハレップのショットがネットを叩いた時、決勝への扉が開かれました。

 日付が変わったにも関わらず多くの記者が待ち構えるメインインタビュールームも、大坂には既に見慣れた光景の一つ。彼女の人間性を探るかの様な質問にユーモラスに応えるのにも、すっかり慣れた様子です。

 例えば、この試合後の会見での話題の一つに、決勝を戦うD・カサキナとの「股抜きショット師弟対決」がありました。これは今大会の開幕直前、カサキナが大坂に股抜きショットの打ち方を教える様子が、WTAの公式ツイッター等で公開されたことに起因します。

「決勝戦では、股抜きを打つ?」

 そう問われた大坂は、「やらない、やらない! 笑いを取るためだけにポイントを失う訳にはいかないもの」とチャーミングな笑顔で応じました。

 大坂にトリッキーなショットを伝授したカサキナは、20歳の世界19位。多彩な技を誇る同期との決戦に向け、大坂は確かな口調で言いました。

「私は彼女よりも少し遠回りしてきたけれど、結果的に私たちは同じ場所にたどり着き、頂点を懸けて戦う。

 そう……新しい時代がやってくるって感じかしら」

 

 20歳の新鋭同士の決勝戦は、どちらが勝つにしても、新たな時代の訪れを感じさせる新鮮な景色が見られるはずです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、大会レポートやテニスの最新情報を掲載中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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