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ATPマスターズ・ローマ :錦織、デルポトロに敗れるも遮二無二求めた勝利 急きょジュネーブへ進路変更

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

○J-M・デルポトロ 76(4) 63 錦織圭●  

「なるべく自信をつけてフレンチに挑みたいので、多くの試合ができるように今週は頑張りたいです」。

来たる全仏オープンに向けて自信を獲得し、「できればここで、大きな結果を出したい」と挑んだ錦織のローマ・マスターズは、3回戦で宿敵デルポトロに阻まれました。

“バックハンドとリターン”対“フォアハンドとサービス”。

やや短絡的に簡略化すると、錦織とデルポトロの対決とは、それら各々の武器の相剋でもあるでしょう。

時速220キロ以上を常時計測するデルポトロのサービスを、錦織がいかに打ち返すか? 

そしてデルポトロの破壊的なフォアをいかに封じ、相手が不安を抱えるバックを攻めていけるか?

実力が拮抗する両者の戦いでは、わずかな均衡の決壊が、試合の趨勢を決めることになります。

果たして試合開始直後から、デルポトロのサービスは錦織を悩ませました。それでも幾分助けられたのが、50%を切る相手のファーストサービスの確率。第1ゲームでいきなりブレークを許すも、第8ゲームではセカンドサービスを叩き奪い返しました。

しかしゲームカウント5-5からの自身のゲームでは、バックの打ち合いに持ち込むも、ダウンザラインにウイナーを叩き込まれます。続くポイントでは、浅くなったバックへのボールを回り込まれ、フォアで叩かれ許すブレーク。

「バックを攻められても、スライスと両手打ちを組み合わせて対処した。特に大事な場面で、両手打ちでダウンザラインに強打を決めることができた。それは僕にとっても驚きだったし、彼(錦織)をも当然驚かせたと思う」

デルポトロが試合後に笑顔で振り返れば、「相手の(バックの)ボールが思ったよりも深く返ってきた」と錦織は目を伏せました。

それでもブレークを奪われた後のチェンジオーバーで、ベンチに座り、一点をじっと凝視し索を巡らせた錦織は、続くゲームでリターンの位置をその都度変え、相手にプレッシャーを掛けます。リターンさえ深く返れば、バックのダウンザラインで、さらにはフォアの逆クロスで攻めに転じ、打ち合いを支配する力がありました。土壇場で錦織がブレークバックに成功。第1セットはタイブレークにもつれ込みます。

しかしタイブレークでは、ネットに掛けた1本のフォアのミスが、結果的に行方を決することに……。

このセット先行で精神的に優位に立ったか、第2セットのデルポトロはファーストサービスの確率が72%へと急上昇。サービスで崩しフォアで決めるパターンが増えていくと、加速する好循環が、彼の武器に一層の熱を付与するようでした。

「フォアとサービスが決まりだしたら、誰が相手でも勝てると思える」

デルポトロの自信に満ちたこの言葉は、錦織の「今日は(相手の)サービスが良かった。フォアも強烈でしたし、逆に自分のボールは全般的に浅かった」と対を成すものでした。

全仏に向け勝利の感覚をつかんでおきたかった錦織にとり、ローマでの2試合は、「ちょっと物足りないところが大きい」と言う結末。

「特に今週は身体も万全で、期待しているところもあった。うまくいかない場面が多かったので、気にかかる部分はあります」。

懸念された手首の状態は、ほぼ万全。むしろ身体の状態が良かっただけに、試合勘やゲーム運びの面で物足りなさを覚えたようです。

その足りないパーツを埋めるべく、錦織は急きょ来週のジュネーブ大会への出場を決断。

求める「自信」と「試合数」をつかみ取り、パリに乗り込むことを胸に期します。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。テニスの最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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