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錦織圭、若手の挑戦を退け、準決勝でジョコビッチとの再戦へ。鍵は戦術の読みあいか?:ローマ・マスターズ

内田暁フリーランスライター

ローマ・マスターズ4回戦 ○錦織圭 6-3,7-5 ドミニク・ティーム●

昨年の6月に、芝のハーレ大会でティームと対戦したことを錦織は「覚えてません…」と苦笑いしましたが、実際にその一戦は、今回戦う上であまり参考にはならなかったでしょう。1年前の対戦時、ティームは既に注目の若手だったとはいえ、まだランキングは30位でした。しかしその後4つものツアータイトルを手にし、今や世界の15位。次代を担う一人として、テニス界全体が期待を寄せる22歳です。しかも、過去5度の優勝のうち4つまでもがクレーコートでの戴冠となれば、1年前の芝での対戦は、ますます比較対象としての意味が薄れていくでしょう。

その得意とするクレーの上でティームは、自らのポテンシャルや適性を存分に証明します。決まったと思われる錦織の強打をベースライン遥か後方で幾度も拾い、コート上のどの位置からでも、185センチの身体を目一杯しならせ重いスピンボールを打ってきます。第3ゲームでは、ドロップショットやロブで錦織を前後に揺さぶり、フォアの強打で仕留めるなどクレー巧者っぷりも発揮。この試合、先にブレークを奪ったのは、ティームでした。

「彼の重いボールの前に、主導権を握れないなと感じていた中で我慢のプレーだった。ちょっと自分が悪くなればすぐ相手に流れが行くだろうし、耐えながらプレーをしていました」

試合後にそう明かすように、錦織にとっては特に序盤戦は、相手の猛攻に耐えながら弱点や攻略法を探る戦いだったでしょう。またティームも常に全力でプレーする代償として、時に簡単なミスも出てきます。その機を逃さず第6ゲームでブレークバックした錦織は、第8ゲームでは相手を前後左右に走らせミスを誘います。このゲームもブレークした錦織が、5ゲーム連取で第1セットを先取しました。

第2セットに入った頃から、錦織は「どうプレーしたらよいのか、正解があまり見えなかった」中でも、相手のバックの高い位置を狙うことが、最も効果的だとの一つの解を得たようです。ティームのバックは多彩ながらも、やはり片手であるがため、高い位置で打たせれば威力をそぐことが出来ました。そして何より重要なのは、「一方向に集め過ぎない」こと。バックサイドを攻めながらフォアに振っていくことで、より多くのミスを誘うこともできたでしょう。第2セット序盤は5度のブレークチャンスを逃し、同時に相手にも3連続ブレークポイントを握られるなど嫌な流れになりかける局面もありましたが、「我慢のプレー」で耐え凌ぎ、5-5からの第11ゲームをブレーク。終わってみれば、スコアは6-3,7-5。若武者の挑戦を受け止め、押し込ませてから土俵際で投げるような、横綱相撲と言える貫録の勝利でした。

しかし次の準決勝では、その立場も逆転します。相手は、絶対王者のジョコビッチ。準々決勝では、往時の強さを取り戻しつつあるナダルと激しく打ち合うも快勝し、一足先に勝ち上がったベスト4の席で、次の挑戦者を待ちかまえていました。

錦織とジョコビッチは、先週のマドリードでも準決勝で対戦。その時錦織は、高く弾むスピンやドロップショットを使いながら立体的に打ち合いを構築し、機を見てトリガーを引く攻めに光明を見いだしました。

「我慢しながらチャンスを見て、アグレッシブにプレーしてというのがベスト。先週良いプレーができているだけに、光は見えている」

一方挑戦を受けるジョコビッチが、ティームと対戦した錦織と大きく異なっているのは、既に幾度も対戦した経験から、錦織の長所もプレースタイルも全て頭に入っていること。

「特に1週間前に同じサーフェスで対戦したことは、再戦する上で大きな助けになる。まだ記憶が新しいし、それに今の時代はテクノロジーを使い様々なことが可能だ。試合のハイライトや特定のポイントを映像で確認し、解析して次の対戦に備えることができる。圭との対戦に向け、それが、僕がすることだ」

先週の対戦で錦織に苦しめられた「新鮮な記憶」は、ジョコビッチに新たな錦織対策を授けることになりそうです。同時に2人にとっては、全仏での対戦の可能性も考慮した、ある種の“手の内の探りあい”になるかもしれません。

その意味でも気がかりなのが、錦織がティーム戦の第2セット序盤で、右足の付け根に痛みを覚えたこと。直ぐにテーピングをほどこし対処しましたが、試合から約1時間経った時点では「明日になってみないと分からない部分がある」と、不安を素直に吐露します。

ジョコビッチ戦に向けては「ケガの状態さえ戻れば、可能性のある試合ができるのでは」と言いますが、状況や身体と相談しながらの試合になるかもしれません。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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