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マイアミオープンレポート:乗りに乗っている相手を封じ、奈良くるみが初の3回戦へ

内田暁フリーランスライター

奈良くるみ 63 76(9) C・ガルシア

口調は極めて控え目だけれど、言っていることを吟味すると、意外なまでに自信に満ちた内容だったりすることがある。

そうかと思えば、残した実績や成し遂げた快挙にも関わらず、驚くほどに謙虚で自己評価が低いと感じることもある。

しかし総じて振り返って見てみると、結局のところは“有言実行の人”なのだと痛感させられるのが、奈良くるみという選手です。

「準備がしっかりできている時は、良い結果が残せる」、「相手の速いボールにも反応ができ、次のショットを待つ余裕もあった」

今回も、マイアミに入った頃から口にしていたそれらの言葉を、しっかりと結果として残しました。奈良くるみ、第25シードのキャロライン・ガルシアを6-3,7-6(9)で破り、プレミアマンダトリーでは初の3回戦進出です。

奈良は戦前から、今日の対戦相手のガルシアを「今、乗りに乗っている選手」と警戒していました。確かにガルシアは、2月にはアカプルコとモンテレイで2大会連続決勝進出。しかもその道程で、シャラポワやイバノビッチらトッププレーヤーを破る活躍を見せているのですから、乗りに乗っているのは間違いありません。

ガルシアと言えば、“アンディ・マリーに、未来の女王のお墨付きをもらったプレーヤー”として一躍名を馳せた選手でもあります。まだ17歳だった2011年の全仏オープンで、シャラポワを剣が峰まで追い詰めたプレーを観たマリーが、ツイッターで「未来の女王を発見した」とつぶやいたことが発端でした。皮肉なことに「その発言がプレッシャーになった」とも認めるガルシアですが、マリーをも唸らせたポテンシャルが、ここに来て一気に開花している感じです。

そんなガルシアの成長を、奈良は特にサービスの打ち分けに見いだしていました。ファーストからでもキックサービスを交ぜながら、スピードボールをより速く見せる技を相手は会得していたのです。しかし、この大会に向け万全に体調を整えてきた奈良には、速いサービスにも対応できる力がありました。また自身のサービスゲームでは、球種とプレイスメントを工夫し相手のリターンコースを限定させる巧者っぷりを発揮します。ガルシアは、奈良のファーストサービス時でさえベースラインの1メートルほど内側に立ちますが、奈良は「私に対しては、みんなそう」と意に介しません。「リターンは速いけれど、コースを散らしてくる訳ではない」と読み切り、ボディーなどを狙いながら3球目に備えました。

第1セットは追いつ追われつの展開ながら常にリードし、最後に突き離す磐石の試合運び。

第2セットは、ブレークで先行しながらも、勝利を意識し始めたところで、ダブルフォールト絡みで追い付かれる嫌な形。しかしそこから再び気持ちとテニスを再構築し、最後は痺れるタイブレークを11-9で取りきっての快勝でした。

この試合前に、フランス人の記者に「最近のガルシアはどこが良くなった?」と聞いたら、「メンタル。精神的にすごく安定し、だからプレーも安定した」と即答していました。しかし今日の試合では、緊迫の場面で幾度かラケットを叩きつけるなど、イライラした様子を見せていたガルシア。

「自分のミスを少なくすることで相手をイライラさせられたと思います。思い通りの展開です」

特に誇ることも奢る様子もなく、穏やかに奈良はそう振り返りました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日大会レポートを掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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