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コーヒーがつなぐ 障がいある人たちとミャンマーへの支援

自動焙煎機を使った実演即売会(筆者撮影)

 炊飯器でご飯を炊(た)くように、手軽にコーヒー豆を炒(い)ることのできる小型の自動焙煎(ばいせん)機ができました。これがあれば、どんなお店でも副業として焙煎したての薫り高いコーヒー豆を販売できますよ。

 そんなうたい文句の新ビジネスが始まりました。RoCoBeL(ロコベル・Roast Coffee Beans Links)というブランド名です。このビジネスがなぜ、障がいある人たちやミャンマーの人たちへの支援につながるのでしょうか?

ミャンマーの女性を支えるフェア・トレードのコーヒー

 まずはミャンマーから。コーヒー豆というと、ブラジルなどの広大なプランテーションで栽培されているイメージが強いと思います。ですがこの事業が扱うコーヒー豆の主要産地はミャンマーです。それも、自然豊かな高原地帯にあるユワンガン地方の農家の庭先で、アボガドやパパイヤ、バナナ、みかんなどの果物と一緒に、農薬や化学肥料とは無縁の自然農法で育てられています。だからでしょうか、ユワンガンの豆で淹(い)れたコーヒーは、ほんのりフルーティな味わいがします。

 約700戸の農家で収穫された豆を手作業で選別、天日干しして出荷します。世界的にも高い評価を受けているコーヒー豆のきめ細やかな精製作業を担っているのは、地元農家の女性たちによる生産者グループです。出荷されるコーヒー豆から得られる利益は、この生産者グループを通して地元農家の女性に直接還元される仕組みです。

 今、世界の注目は、今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻に集まっています。しかし去年2月には、ミャンマーで軍が起こしたクーデターに注目が集まりました。民主的な選挙で選ばれた政権をくつがえし、抗議する市民に銃を向け、デモに参加した14歳の少女をはじめ多くの人が犠牲となりました。その状況は何ら変わっていませんが、世界から急速に忘れられています。そんな中、フェア・トレード(公正な取引)によるミャンマーのコーヒー豆を買うことは、直接ミャンマーの女性たちを支援することにつながります。

展示即売会で表示されているロゴ(筆者撮影)
展示即売会で表示されているロゴ(筆者撮影)

障がいある人の社会参加を支援したい

 では、障がいある人の支援とは? まずは東京・渋谷から始まりました。「障がいのある人の力をデザインの力で渋谷の力に」をキャッチフレーズに、シブヤフォントという取り組みが行われています。渋谷で暮らしたり働いたりする障がいのある人が描いた文字や絵を、渋谷の学生がフォントやパターンとしてデザイン。そのシブヤフォントのデザイン画が、この事業のコーヒー豆などの商品ラベルに使われています。絵が可愛くて独特の感性を感じると好評です。ラベルの印刷部数に応じて使用料を払う仕組みで、去年は5か月間で11万円が支払われました。

 さらに、千葉県流山市のNPO法人が運営している就労支援施設で、コーヒー豆の焙煎作業を実験的に始めました。こうした試みをビジネスとして成功させることで、障がいある人の社会参加を支援していこうという試みです。

施設でコーヒー豆の商品化作業中(主催者提供)
施設でコーヒー豆の商品化作業中(主催者提供)

どこでも誰でも使える自動焙煎機の強み

 ここで冒頭に紹介した自動焙煎機の特徴が生きてきます。コーヒー豆は生の状態ではほとんど香りがなく、焙煎することでコーヒー本来の味と香りが生まれます。しかし焙煎した瞬間から酸化が始まり、味と香りが失われていくため、本来なら飲む直前に焙煎するのが理想で、遅くとも1か月以内には使い切った方がいいと言われます。ですが、焙煎は網などを使って手作業でしようとするとなかなかやっかいで、失敗することもある上、豆からはがれた薄皮が周囲に散らばります。

 この事業で使う自動焙煎機は小型で場所をとりません。自動焙煎プログラムを搭載しているため、コーヒーについての知識や経験がない方でも豆を入れるだけで手軽に焙煎ができます。遠赤外線ヒーターで豆を焦がさずに内部まで均等に加熱できます。煙はほとんど出ず、薄皮も自動的に取り除きます。だから就労支援施設でも使ってもらうことができます。それで「炊飯器でお米を炊くように、誰でも簡単にコーヒー豆の焙煎ができる」といううたい文句になるわけです。

自動焙煎機のロースト機能部分(筆者撮影)
自動焙煎機のロースト機能部分(筆者撮影)

小さなお店の副業に生かしてほしい

 ということは、飲食店、食料品店、雑貨店、どんなところでもこの自動焙煎機を置けば、店頭でコーヒー豆を焙煎して炒りたての薫り高いコーヒー豆を販売できることになります。

 コロナ禍でリモートワークが浸透し、家ですごす人が増える中、自宅でゆっくりコーヒーを淹れて味わうスタイルが増えていると言われます。副業として焙煎したてのコーヒー豆販売を取り入れれば、本業の売り上げアップに貢献する効果も期待できそうです。

 実際に、東京や大阪、札幌のカフェ、築地場外市場のおにぎり屋さん、マッサージ屋さんやキッチン・スタジオ、移動販売店、キャンプ場など様々な業態のお店で自動焙煎機が導入されています。

自動焙煎機を使った実演即売会を大阪で

 この自動焙煎機を多くの方に体験してもらおうと、炒りたてコーヒー豆の実演即売会が、大阪市中央区の「からほり商店街」のスーパー前で行われています。きのう3月19日から21日まで3連休の3日間、10時から21時まで。小型自動焙煎機を使ってミャンマー産のコーヒー豆をその場で焙煎し、販売します。試飲もできます。運営会社の宮崎秀敏社長が自ら3日間、店頭に立って実演します。

からほり商店街での実演即売会(筆者撮影)
からほり商店街での実演即売会(筆者撮影)

 社長の宮崎さんは59歳。30代でリクルートを退社し、企画広報会社を立ち上げてトヨタなど大手企業の仕事を手掛けてきました。最近では共同出資で食パン専門店「銀座に志かわ」を展開。さらにミャンマーでレストラン&カフェを経営する傍ら、ミャンマー産のコーヒー事業に去年から乗り出しています。

 「コーヒー豆がつなぎ、創り出す新しいコミュニケーションと関係」を企業理念に、小さなお店の副業や、障がいある人たちの社会参加、さらにはミャンマーの人々の力になる事業に育てるのが目標です。自閉症や引きこもり、うつの人にも焙煎作業をしてもらうことで、力になりたいとも考えているそうです。今年7月に還暦を迎える宮崎さんの、新事業にかける思いを感じます。

ミャンマー産のコーヒーを実演販売中(筆者撮影)
ミャンマー産のコーヒーを実演販売中(筆者撮影)

 焙煎の実演即売会が行われる「からほり商店街」は、大阪中心部にあって昭和レトロな雰囲気を残す東西800メートルのアーケード街です。見物がてら、ちょっと出かけてみませんか?

【参考】

 バーチャル空間のメタバースにも出店するそうです。20日まで13時〜21時に開催される「Vマ+:バーチャル・スペース・マーケット」で、ミャンマー・コーヒーとドリップバッグが販売されます。RoCoBeLのブース番号はB-25です。

 来場にはこちらのURLから登録が必要です。

https://web.virtual-space-market.com/user/register/?affiliate=1UGdyJFxDwT3aHOIeIUai7G2KhOqa1Hr&fbclid=IwAR1FDfwWfZ6nhuuVUMn96anm40SaPIbN8yWQvaYh3JIu6qLnE28YIcAEzKU

宮崎生まれ。NHKで記者修業30年余(山口・神戸・東京・徳島・大阪)。森友事件取材中に記者を外され退職。経緯は文春文庫『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』。還暦間近なるも修業継続中。「取材は恋愛に似ている」を信条に、Yahoo!ニュースや週刊文春、週刊ポスト、日刊SPA!、日刊ゲンダイなど様々な媒体で執筆。ニュースレター「相澤冬樹のリアル徒然草」配信中→http://fuyu3710.theletter.jp/about

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