“大阪の迎賓館”復活へ 豪華大絨毯 一夜ではり替え

皇居にも使われる絨毯メーカーの大絨毯が姿を現した(筆者撮影)

 大阪・中之島のリーガロイヤルホテル。創業84年の歴史を持ち“大阪の迎賓館”とうたわれたこの名門ホテルが、G20大阪サミットを前に、ホテルの顔とも言えるフロント前のメインロビーを大改装。幅20メートル以上ある豪華な大絨毯を一夜ではり替えました。“迎賓館”復活に賭けるホテルと絨毯メーカーの徹夜の作業を密着取材しました。

いよいよ新絨毯のお目見えだ(筆者撮影)
いよいよ新絨毯のお目見えだ(筆者撮影)

“大阪の迎賓館”

 戦前の大阪経済華やかなりしころ、大阪市と地元財界が「東京の帝国ホテルに匹敵するものを」と出資し合って創立したのが、リーガロイヤルホテルの始まりです。高度経済成長期の54年前に今の場所に移転し、1970年の大阪万博を期に増築して大改装。天皇陛下をはじめ国内外の賓客をもてなし、“大阪の迎賓館”の名にふさわしい格式を誇ってきました。

“大阪の迎賓館”とうたわれたリーガロイヤルホテル(筆者撮影)
“大阪の迎賓館”とうたわれたリーガロイヤルホテル(筆者撮影)

新社長が気になったこと

 このホテルの運営会社の社長に2年前就任したのが、メインバンクの三井住友銀行から来た蔭山秀一さんです。就任早々、気にかかることがありました。

社長の蔭山秀一さん・はり替え前の古い絨毯の前で(筆者撮影)
社長の蔭山秀一さん・はり替え前の古い絨毯の前で(筆者撮影)

「私は銀行時代に本店営業本部長としてこのホテルを担当しましたし、お客様の接待でも財界活動でもよく使いました。30年前に自分の結婚式でも使ったんですよ。私自身このホテルに思い入れがあるし、高いブランド力があって大勢のお客さんがついている」

「でも高い評価を維持するのは大変なことです。年々建物は劣化する。バブル後は評価を維持するための投資も難しくなった。大阪万博のころは“大阪の迎賓館”とうたわれていたんですが、最近では呼ばれなくなってきた。お客様も従業員も『昔は良かった』と言う。これはブランド力再構築を何らかの形でしなければいけないと考えたわけです」

古い絨毯はくすんで傷みも目立つ(筆者撮影)
古い絨毯はくすんで傷みも目立つ(筆者撮影)

「築50年前後がたった建物で、今のホテル建設ラッシュの中で差別化を図るにはどうしたらよいか? そんな時、逆張りで『50年前のコンセプトに戻した方が新鮮味があるのでは』という提案がありました」

“ホテル愛”あふれるディレクターの新提案

 提案を寄せたのは、東京で活躍するクリエイティブディレクター。ホテルが大好きで、リーガロイヤルホテルに泊まり込んで知恵を絞りました。その末に出てきたのが「50年前にこのホテルができた時の思想を現代のセンスでブラッシュアップしてよみがえらせよう」という、“ホテル愛”あふれるアイディアでした。

重さ1.3トンの絨毯を台車に載せロビーまで運び込む(筆者撮影)
重さ1.3トンの絨毯を台車に載せロビーまで運び込む(筆者撮影)

その象徴がメインロビーの大改装であり、開業時の姿をよみがえらせるための豪華大絨毯の全面はり替えでした。総工費は約2億円にのぼります。

皇居にも使われる絨毯メーカー

 50年前、絨毯を作ったのは、山形県のオリエンタルカーペット皇居や迎賓館、歌舞伎座、海外ではバチカン宮殿でも使われています。今回、再びこのメーカーに絨毯を発注しました。大きさは23.65メートル×19.5メートル。半年がかりで手作業で織り上げた大絨毯を2つに分けて筒状に丸め、山形県からはるばる2台の大型トラックで運んできました。

カッターで古い絨毯に切れ目を入れるのが一苦労(筆者撮影)
カッターで古い絨毯に切れ目を入れるのが一苦労(筆者撮影)

 重さは1つが1.3トン。トラックから降ろして何台も並べた台車に載せ、ロビーに運び込むだけで30人がかりの大仕事です。作業はお客様に影響が少ないように夜11時すぎから早朝まで、一晩だけで終わらせなければなりません。

古い絨毯の撤去作業

格子状に切った古い絨毯を台車に積んで撤去(筆者撮影)
格子状に切った古い絨毯を台車に積んで撤去(筆者撮影)

 これまでの大絨毯は色もくすみ、傷みも目立っています。これをはがすため、まず絨毯にカッターなどで切れ目を入れていきます。これが結構な力仕事で、作業員の顔に汗が浮かびます。

 1メートル四方ほどに格子状に切れ目を入れたら、2つほどに折りたたんで台車に載せ、運び出します。この作業を1時間ほどで終えました。

お客様も思わず注目

 深夜の作業中も、お客様は帰ってきます。一体何事かとホテルの従業員に尋ねる人もいます。

作業を見守るお客様の姿も(筆者撮影)
作業を見守るお客様の姿も(筆者撮影)

「何をしているの?」

「絨毯のはり替えなんです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「ロビーの絨毯を全部はり替えるの?」

「はい、見違えるようになりますよ。新しい絨毯は色鮮やかですから」

「へえ~そうなの。凄いなあ。こんなの滅多に見られないから、ちょっと見ていくか」

 作業を見つめていた東京の会社役員のお客様は「あすの朝が楽しみだな」と言い残して去っていきました。実は「あす」ではなく、もう「きょう」ですけどね(笑)。

新絨毯のお目見えで天井まで明るく

新絨毯が敷かれた左側だけ天井がオレンジに染まっているのがわかる(筆者撮影)
新絨毯が敷かれた左側だけ天井がオレンジに染まっているのがわかる(筆者撮影)

 取り外しが終わると、いよいよ新絨毯の登場です。午前1時すぎ。作業員が総掛かりで絨毯の筒を台車から降ろし、かけ声に合わせて一斉に広げていきます。鮮やかなオレンジ色にちりばめられた大きな紅葉のデザインが、さっとメインロビーに広がりました。

 その瞬間、天井もオレンジ色に染まりました。絨毯の色が天井に反射しているのです。絨毯によってこれほど空間が明るくなるのかと実感しました。リーガロイヤルホテルについて天井の低さを指摘する声がある中で、その低さを逆手にとって、絨毯の明るさが天井に映えるようにして、明るく広く見えるようにしたのです。

オリエンタルカーペットの三浦昇さんは50年近く前も作業に立ち会った(筆者撮影)
オリエンタルカーペットの三浦昇さんは50年近く前も作業に立ち会った(筆者撮影)

50年近く前も作業に立ち会った人

 一連の作業を厳しい表情で見守る人がいます。オリエンタルカーペットの顧問、三浦昇さん

 実は三浦さん、50年近く前の、最初の大絨毯をここに敷き詰めた際も、作業に立ち会ったそうです。この絨毯は、正式には「緞通(だんつう)」と呼ばれます。手織りの重厚な絨毯で、綿や麻の地糸に毛を一目ずつ手で結んで植えるという、非常に手間のかかる高価な商品です。

体全体を使ってしわ抜きの道具で作業する(筆者撮影)
体全体を使ってしわ抜きの道具で作業する(筆者撮影)

「緞通の作業は位置決めが一番大変なんですよ。柱がなければ簡単ですけど、柱があるから、そこをうまくしないといけないでしょ。2つの緞通のつなぎ目を合わせて、柱の部分をうまく切り取る。そして、しわ抜きの道具でしわを伸ばしていきます」

 継ぎ目には、下ににかわのテープを置いて加熱して溶かし、絨毯同士を密着させます。この方法によって、継ぎ目がぴったり合わさって、あまり目立たなくなります。

ホテル従業員も手触りを確かめる(筆者撮影)
ホテル従業員も手触りを確かめる(筆者撮影)

触り心地、踏み心地は抜群

 絨毯が広がると、思わず触ってみたくなります。作業に立ち会うホテルの従業員も手触りを確かめていました。さらに靴を脱いで絨毯にのってみると、ふわふわと沈み込む踏み心地が何とも言えません。

「密度が濃いですねえ」

「毛足が長いから沈み込むよね」

「靴で踏むのがもったいないくらい」

「このロビーは1日1万人のお客様が訪れますからね。お客様も喜ぶことを期待したいです」

6時間にわたる突貫作業だった(筆者撮影)
6時間にわたる突貫作業だった(筆者撮影)

「50年前よりも素晴らしい」

 朝5時。すべての作業が終わりました。絨毯に座って手触りを確かめる職人たち。今しかできない貴重な体験です。

三浦さんも手触りを確認(筆者撮影)
三浦さんも手触りを確認(筆者撮影)

 半世紀を経て再び作業に立ち会った三浦さんは…

「素晴らしい空間が再現できました。広く感じるでしょ?紅葉の緞通はリーガの顔ですから。満足です」

「50年前と比べていかがですか?」

「50年前以上に素晴らしいですよ。感動してます」

紅葉の緞通はリーガの顔(筆者撮影)
紅葉の緞通はリーガの顔(筆者撮影)

“大阪の迎賓館”復活なるか

 蔭山社長は…

「リーガロイヤルホテルが一番輝いていた万博当時の姿に戻しました。絵巻物に出てくるような平安朝をイメージしたコンセプトです。でも、これで終わりではなく、これを期にどう発信していくか?まずは地元の方に『やっぱりリーガは一流ホテルだ』と思って頂く。そして従業員も一流ホテルで働いているという誇りを感じてほしい。ロビーをよくしたら儲かるかというと、そうではないからね」

 きたるG20大阪サミットでは、リーガロイヤルホテルを訪れる参加国首脳も、この新しい大絨毯を目にし、踏み心地を確かめることになります。

この紅葉の大絨毯をG20の首脳も踏むことに(筆者撮影)
この紅葉の大絨毯をG20の首脳も踏むことに(筆者撮影)