森友再捜査に特捜は慎重姿勢 弁護士「世論の力で財務官僚起訴を」

大阪地検に申し入れに訪れる弁護士ら(筆者撮影)

 国民の声は検察に届かないのか!?森友事件の再捜査で大阪地検に申し入れをした弁護士や研究者らが庁舎前で憤りの声を上げた。

背任と公文書改ざんは一度は不起訴になったけど…

 森友学園に国有地を不当に値引きして売り払った、近畿財務局による背任事件。売却の経緯を記した文書が財務省の指示で書き換えられ、安倍昭恵首相夫人らの名前が消されるという公文書改ざん事件。財務官僚らによる一大不祥事であり、首相夫人など政権関係者の名前も取りざたされたことで大きな政治問題になった。しかし大阪地検特捜部は、告発された財務官僚や近畿財務局職員ら全員を不起訴にして、罪に問わなかった。

 ところが、有権者から選ばれ、市民目線で判断する検察審査会は違った。3月、国有地売却にあたった近畿財務局職員らや、文書改ざんに関わったとされる元財務省理財局長の佐川宣寿氏ら財務官僚について、背任や公文書変造罪などにあたる疑いがあるとして「不起訴は不当」だと判断したのである。これにより検察は再び捜査して、起訴か不起訴かを改めて判断しなければならなくなった。

大阪地検が入る大阪市福島区の庁舎。この16階と17階に特捜部がある
大阪地検が入る大阪市福島区の庁舎。この16階と17階に特捜部がある

黙ってはいられない!告発者が立ち上がった

 こうなっては黙ってはいられない。事件の厳正捜査を求めて検察に関係者を告発していたメンバーが立ち上がった。大阪と東京を中心に、各地の弁護士や研究者、市民たちによる団体だ。10日午前11時、一行は大阪地検を訪れ、特捜部に申し入れを行った。

 特捜部は大阪地検の庁舎の16階と17階にある。だが面談は地下1階の狭い取調室のような部屋で行われたという。面談時間は約40分間。対応にあたったのは特捜部の蜂須賀三紀雄検事。背任の再捜査にあたる主任検事だ。

「あの頃の大阪特捜は頑張ってましたねえ」

阪口徳雄弁護士は森友事件を一貫して追及してきた
阪口徳雄弁護士は森友事件を一貫して追及してきた

 森友事件を一貫して追及してきた大阪の阪口徳雄弁護士は、応対する蜂須賀検事に見覚えがあった。12年前、奈良県生駒市前市長が逮捕される背任事件があった。前市長が現職当時、タダ同然の山林を親しい業者から市の公社を使って1億3480万円で買い上げた。これが市に損害を与えた背任として立件された。阪口弁護士は市長が替わった後の生駒市の顧問で、新市長の意向を受けて特捜部にこの件を持ち込んだ。これを受けて大阪地検特捜部で捜査にあたったのが蜂須賀検事だったのだ。

阪口弁護士)あなた、生駒市の背任事件を担当したんじゃないですか?

蜂須賀検事)よく覚えてますねえ

阪口弁護士)私は生駒市の顧問としてあの事件を特捜部に持ち込んだんですよ。たしかあのころお会いした記憶がある。

蜂須賀検事)あの事件は私も記憶に残っています。

阪口弁護士)あのころ、奈良市の市議会議長が贈賄で逮捕される事件もあったでしょう。あれも私が持ち込んだんですよ。

蜂須賀検事)あれも私が担当しました。

阪口弁護士)あのころの大阪特捜は頑張ってましたねえ

 この皮肉に、蜂須賀検事はただ笑っているだけだったが、雰囲気は和やかだった。阪口弁護士としては、かつて公職者の背任を手がけた検事に再び頑張ってほしいという思いもあった。申し入れはそこからが本題だ。

「不起訴は屁理屈」「お茶を濁す捜査は許されない」

 ここから阪口弁護士は厳しく迫った。

・大阪地検がこれまで政治家や公務員の犯罪に毅然と対処し起訴に踏み切ったことを関西の我々は知っているし、期待もしてきた。

・しかし検察審査会は今回の検察の捜査について極めて恣意的で不十分だと指摘している。

・有権者から無作為に選ばれた委員がこのように判断したということは、これが国民の大多数の意向を反映したものだ。

・法律的にも、この事件は起訴して無罪になることなど、およそあり得ない。むしろ検察の不起訴の理由の方がとってつけた屁理屈としか思えない。

・検察が適当にお茶を濁す再捜査をして、またも不起訴にするなら、国民の信頼は喪失されるだろう。政権の関係者が関与するとして注目されるだけに、なおさらである。

・検察審査会の「不起訴不当」の議決は多くの国民の検察に対する批判、叱咤激励と受けとめ、徹底的に再捜査して起訴するよう強く要請する。

 同じく申し入れを行った醍醐聰東大名誉教授安倍首相の答弁の齟齬を指摘して捜査を求めた。

・森友事件が発覚した2年前の当初、安倍首相は国会で問題の国有地について「ごみを撤去することを前提に(8億円あまりを値引きして)1億3400万円で売却した」と答弁している。実際にはごみは撤去されていないのだから現実との間に重大な齟齬がある。

・あの土地にごみがあるというが、工事の妨げになるようなごみがなければ値引きの理由にはならない。実際にはごみは撤去されていない。

・「土地の瑕疵(欠陥)を見つけて価値を下げていきたい(値下げしたい)」などと、財務局側が値引きが背任にあたるという認識を持っていたことを示す証拠がある。

慎重な答えに終始した特捜検事

 特捜部の蜂須賀検事は申し入れに対し、次のように答えたという。

・検察審査会の議決が出たことは重々承知しています。議決書を踏まえて適正かつ慎重に再捜査します。

・ご指摘の点はご要望として受けとめました。ここで我々がどうかはお答えすることができません

 ほぼこの答えを繰り返すだけだった。申し入れの参加者は、検察がひたすら慎重な姿勢に終始し、揚げ足をとられないようにしていると感じた。

 阪口弁護士は、蜂須賀検事の応対を見ていて、これまでの捜査の記録をまだよく読んでいないのではないかと感じた。論点がわかっていないという印象だったという。それは、捜査にさほど力を入れていないということを示すのかもしれない。

 阪口弁護士は2年前、特捜部が不起訴処分を出す前にも厳正捜査を求める申し入れを行っている。その時に応対したのは伊吹栄治検事。当時の背任捜査の主任で、今の蜂須賀検事と同じ立場だ。不起訴の処分は伊吹検事の名前で行われた。その伊吹検事が応対した際も、今回と場所も対応ぶりもほぼ同じだったという。伊吹検事は現在、大阪特捜部ナンバー2の副部長に就任している。

「特捜部は起訴せよ」という国民世論の声を

地検前で会見する阪口弁護士や醍醐名誉教授ら
地検前で会見する阪口弁護士や醍醐名誉教授ら

 申し入れ後の会見で、阪口徳雄弁護士は力を込めて語った。

・前の伊吹検事と同じような対応で、表向きは非常に丁寧ですが、決して安心はできません。今回も適当にお茶を濁される可能性は高いという印象です。

・検察の捜査は国民の信頼があってこそ初めて成り立つんです。国民の信頼を勝ち取れるか、崩れるかどうかの重大な事件です。大阪特捜はかつて生駒の事件を私が持ち込んだときは一生懸命やってくれました。期待しています、ぜひ頑張ってほしいということも伝えました。

・この件は、単なる普通の事件だったら必ず起訴しています。そして有罪になります。法律家としてあたりまえの話です。にもかかわらず起訴しなかった。それは政権に対する忖度(そんたく)であり、財務省に対する忖度があったんでしょう。地検だけでなく、検察庁と法務省全体に、政権に対する配慮があったと思っています。

・再捜査の結論が出るまでには何か月かかかるでしょう。それまでに国民世論から「特捜部、頑張って起訴せよ」という声が上がるかどうかが分かれ目です。ぜひ特捜部に対し「ちゃんと再捜査して起訴せよ」という声を上げてください

背任・改ざんを起訴すべきという世論は高まるか?

 大阪地検特捜部は、かつて村木厚子元厚生労働事務次官の事件でえん罪と証拠改ざんの大不祥事を起こし、信頼が失墜した。無実の人を罪に問わないように、捜査は慎重であるべきだ。

 しかし森友事件は違う。法律家の目で見ても明らかに不正な国有地値引きと公文書改ざんが不問に付された。起訴されないと証拠は法廷で明らかにされないから、事件はなかったことにされてしまう。だからこそ、検察審査会はあえて指摘した。

「本件のような社会的に注目を集めた被疑事件については、公開の法廷という場で事実関係を明らかにすべく公訴を提起する(起訴する)意義は大きいのではないかと考える。」

「起訴すべきという国民世論を届けよう」と訴える阪口弁護士
「起訴すべきという国民世論を届けよう」と訴える阪口弁護士

 国家公務員がなぜこれほどの不正行為に及んだのか?政権や政治家に忖度したのか?政権側の関与はないのか?小学校の名誉校長を務めていた安倍昭恵首相夫人の存在はどのように影響したのか?

 すべては当事者を起訴しなければ法廷で明らかにされない。そして起訴されるかどうかは、国民世論が高まるかどうか、国民1人1人の声が大阪地検に届くかどうかにかかっている。森友事件を追及してきた阪口徳雄弁護士は、そう考えている。