北欧ノルウェーの刺繍・編み物ブームの背景 話題の刺繍カフェとは?
北欧といえば編み物ブームを世界各地で引き起こしているノルウェーとスウェーデン出身の男性2人組アルネ&カルロスが有名です。来日もした彼らの編み物本は、すでに欧米各国でベストセラーを記録しています。
なぜ手作業が人気?
ノルウェーの首都オスロでは、これでもかというほど今や編み物ブーム。バスや地下鉄の乗り物の中で編み物をする女性、大学の講義中に編み物をする学生は簡単に見つけることができます。なぜこれほど手作業が流行っているのでしょうか?その謎を紐解く鍵になるかもしれないヒントを、とある「刺繍カフェ」で見つけることができました。
みんなで楽しく、刺繍カフェ
オスロにある手工芸博物館にはノルウェーを中心とした北欧デザインの歴史やプロダクトが幅広く展示されています(詳しくはAll About「北欧デザイン好きにおすすめノルウェー手工芸博物館」にて)。現在、週末になると、この美術館の1階にあるカフェがたくさんの女性たちでわいわいと賑わっています。それは誰もが無料で自由に参加できる「刺繍カフェ」。
自分達の刺繍道具を持ち込んで、コーヒーやお茶を飲みながら、自由に作品作りに没頭します。「孫がペーテルという名前だから、今はPの文字を刺繍しているのよ」とニコニコと話すおばあちゃんや、「本当は今日は刺繍をするつもりだったんだけれど、針を忘れてきたから、代わりに今は編み物をしているわ」と話す20代の若い女性もいました。
「刺繍や編み物ブームはここ5年ほどで過熱しています。大量生産ばかりの現代社会に疲れた人々が、昔の手作業という文化に新しい価値を見出しているのでしょう。今は幼稚園でも手芸を教えなくなったので、このようにカフェで集まりあい、お互いにインスピレーションを受けるのが楽しいのでしょうね」と語るのは美術館キュレーターで刺繍カフェ担当のヨハンセンさん。
刺繍という表現方法で、社会問題を掘り起こすアート
手工芸博物館で刺繍カフェが限定開催されている理由は、当館で現在「針の目 現代刺繍」展がおこなわれているため。昔や現代の一般的な刺繍作品を展示しているのではなく、アーティストが「刺繍という表現方法を用いたアート」が紹介されています。
刺繍は布に限らず、木製のテーブル、女性写真のついたポスターなどにも施されています。特に、自らの手の皮膚に針と糸を通す、Eliza Bennett氏の「A Woman's Work Is Never Done」(仮題「女性の仕事は永遠に終わらない」)のビデオ映像には衝撃を受けるのではないでしょうか。
刺繍をする美しい女性の姿=昔の良妻賢母の理想像
「刺繍というアート表現にはジェンダーという歴史的課題がよく結びつきます。18・19世紀は、刺繍は裕福層の若い女子たちに求められる理想的な仕事でした。刺繍や家事労働をするその姿は一瞬美しく見えるかもしれませんが、過酷な労働です。そのような複数の時代背景から、アーティスト達は、女性や同性愛者、マイノリティの人々が受けてきた抑圧を訴えるために、刺繍という表現手段を選びます。ただ、最も若い世代の人たちはフェミニズムの影響をそこまで受けていないので、おばあちゃんたちの昔からの手作業に、別の価値を見出し、純粋に手作りという作業を楽しんでいますね」とキュレーターのクヌート・ブルさんは説明します。
現代社会に疲れた人のための癒し
変化の早い現代社会では、インターネットが普及し、人とのつながりが薄くなってきたと感じる人もいます(ノルウェーやスウェーデンはIT先進国)。そのために、ヴィンテージやアンティーク、DIYなどの、昔の伝統や文化に回帰したり、古いものを長く大事に使う風潮がでてきていることは、ノルウェーで開催されるほかのイベントでもよく耳にすることです。
昔にちょっと戻って、もくもくと手を動かし、自分ならではのオリジナルの作品を作るプロセスは、現代の北欧人のみならず、多くの人にとって思いがけない特効薬になるのかもしれません。ノルウェーでは手作業ブームは当分続きそうです。
ノルウェー手工芸博物館
「針の目 現代刺繍展」(The Needle’s Eye. Contemporary embroidery)(ベルゲンにあるKODE美術館との共同展示)
期間:2月22日~3月16日
料金:大人1名50NOK
期間:3月15日、4月19日12:00~15:00
料金:無料
Photo&Video&Text by Asaki Abumi