Yahoo!ニュース

「中国が日本産食品を全面禁輸でもGDPへの影響はわずか」と冷静な米主要紙。原発処理水の海洋放出

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
東電が処理水設備を公開した今月27日の様子。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が、24日始まった。これを巡り、環境団体や風評被害に苦しんでいる漁業関係者からの反発が高まっている。また韓国では放出反対派によるデモが起こり、中国は日本の水産物の全面禁輸に乗り出した。中国から日本関連の企業や学校に嫌がらせがあるなど、混乱が見られる。

処理水の海洋放出について、アメリカの対応は?また主要メディアはどのように報じただろうか?

有力紙のワシントンポストは放出2日前の22日、Is it safe to release water from Fukushima’s nuclear plant? What to know.(福島の原子力発電所から水を放出しても安全か? 知っておくべきこと)という見出しで、以下のように報じた。

「オリンピック・プール500個分以上の処理水が太平洋に放出」されることについて、「日本当局と国連の核監視機関(国際原子力機関IAEA)は国際安全基準に合致していると見なしている。しかし反対派による反発に直面している」。

「無視できる程度の放射能」

海洋生物への影響について、ハワイ大学の教授や英専門家から出ている安全性への疑問(植物プランクトンを経てマグロなどへ時間とともに汚染が蓄積していく生物濃縮の可能性。また起こりうる影響が十分に検証されていない問題点)にも触れている。一方で、同紙は「日本の排水システムは非常に効率的」と述べ、海洋放出が環境に与える影響については「世界にあるほかのどの核施設でも、低レベルの放射能を含む処理水の『ルーティーンの』放出と見なされるレベルのもの」であり、「無視できる程度の放射能」で「取るに足らないレベルだろう」という専門家の声を交えて紹介した。

漁業関係者との軋轢については「地元住民と、本当の意味での協議は行われていない」とし、この問題への取り組みに「遅過ぎることはない」とする専門家の意見を交えた。

放出開始以降の報道では、ニューヨークタイムズが、「日本政府と東京電力が処理水の安全性、そして放射性物質が国際基準を超えないよう継続的な監視を約束した」と報じた。ただし中国の反発について「7月だけで日本から約320万ドル(約4億7000万円)の新鮮な魚介類を輸入したが、処理水放出について『安全でない』とし日本産魚介類の輸入を停止した」。

アメリカの対応

アメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)は先月28日、福島第一原子力発電所近くの地域から採取した51のサンプルの放射性核種汚染について検査したが、検出可能なレベルのセシウムは含まれていなかったと伝えている。

ラーム・エマニュエル駐日米国大使は処理水の海洋放出の決定を支持するとして、31日に福島県相馬市を訪問し、その地域で獲れた魚を食べることも日程に含まれている。

中国が日本の食品を全面禁輸してもGDPの影響わずか

China says its ban on Japanese seafood is about safety. Is it really?(中国は日本産の魚介類の禁輸は安全のためだと主張しているが、本当に?)と疑問を投げかけるのは、28日付のCNNだ。

この記事の中でも、放出される処理水の放射能について、以下のような専門家の声を引用している。

「(日本の事例は)世界中で起こった過去の慣例と完全に一致。 はるかに大量のトリチウムを水路に放出した例など60年分の科学データがあるが、何も起こったことはない

「ほんの少しの害もない。人々は航空機内の方がより多くの放射線にさらされる

にもかかわらず、中国では強い反発が起こっていることについて、このように書かれている。

「2011年の福島県の魚介類に対する輸入制限を大幅に拡大するもの」

「中国の伝統的なメディアは日本の行動に対して怒りを爆発させ、『極めて無責任で利己的な行為』 など批判的な社説が投稿されている」

「『すべての日本製品を禁止すべき』というコメントが Weibo(ウェイボー、中国のSNS)にも寄せられている」

日本の企業や学校に嫌がらせが殺到している状況を鑑み、「アジアの経済大国が海の向こうで再び衝突」「世界第3位の経済大国は近隣の長年のライバルである第2位の経済大国から猛烈な反発を引き起こしている」と報じた。

ただCNNは冷静な温度で経済専門家の意見も紹介している。

「中国は日本にとって最大の水産物輸出市場ではあるが、日本の食品輸出の15~20%に過ぎず、食品輸出は日本の総輸出の1%に過ぎない」

「万が一、中国が日本からすべての食品の輸入を禁止する『最悪のシナリオ』が起こったとしても、日本のGDPへの直接的な影響は約0.04%

国際都市、香港では1皿150ドルする高級寿司店が相変わらず混み合っており、そのような高級店にはすばらしい食事体験とおもてなしを求めて世界中から客がやって来る。客は騒動についてあまり知らないか気にしていないかのどちらかで、「魚の原産地について尋ねる客はほんの一部」と、CNNの記事の中で店のマネジャーは話す。「苦い歴史があるにもかかわらず日本料理は中国の多くの地域で非常に人気で、中国国内の日本食レストラン数は78万9000店(22年時点。CNNによる*)。中国での日本食ビジネスは成長し続け、約250億ドル(約3兆円超え)の価値」だという。ただし中国政府の魚介類の禁輸により、今後大打撃を受ける可能性が高いのは、このような中国国内のレストランビジネスもそうなのだ。

  • * 数について、17年時点で4万店というほかの情報もある。

(Text by Kasumi Abe)本記事の無断転載やAI学習への利用禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事