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與真司郎ゲイ告白:G7で同性婚が合法化されていない唯一の国 保守的な日本で異例の発表、と米紙

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

パフォーマンスグループ、AAA(トリプル・エー)のメンバー、與真司郎(あたえしんじろう)さん(34)が、ファンに対して、自身が同性愛者(ゲイ)であることを明かしたことが話題だ。

與さんはグループ活動休止後の現在、アメリカのロサンゼルスで活動している。一時帰国し、発表の場として東京でイベントを開催したようだ。

この発表について米主要紙のニューヨークタイムズは、「日本のテレビによく出演するゲイやトランスジェンダーの人々は、自分のセクシュアリティについてはっきりと表明しない」と紹介し、與さんの告白について「G7で唯一同性婚を法律で認めていない、保守的な日本において極めて異例」と報じた。

自分に正直に生きると決断しても、プライベートなことを公にしたらしたでSNSで誹謗中傷されるケースもある。自死の原因ははっきりとしないが、嫌がらせを受けさまざまな悩みを抱えていたとされるタレントのりゅうちぇるさんが自死し、日本社会に大きな衝撃を与えたばかりだ。

世界の中でも特に多様性が進み、LGBTQへの理解が進んでいるとされるアメリカでさえも、保守的な土地に行けば事情は異なる。自分のセクシュアリティについて正直に告白したがゆえに家族や社会に否定、迫害され苦しんでいる人は多い。そんな人々がLGBTQのコミュニティが強固なニューヨークやロサンゼルスといった大都市圏に自由を求めて移り住むわけだが、大都市圏であっても職種によっては保守的な空気も残る。例えば政治、金融、法律など伝統的なお堅い業種では、自分のセクシュアリティやジェンダーアイデンティティについて公にしない(できない)人はまだ多い。

片や同性婚も未だ許されていない日本という社会の中で、しかも多くのファンを抱えるアイドル的立場の與さんにとって、今回の告白は到底簡単と呼べるものではなく、いかに勇気が必要だったかと想像する。

前述のニューヨークタイムズではアクティビストらの声を拾い、「ファンやスポンサーを失うことへの不安から、日本のポップスターが同性愛者だと公に発表した事例を思い出せない」というコメントを引用している。また、日本社会について「自分のセクシュアリティを厳密に表明せず、どちらかというと何となくそうなのだと知られていくもの」と説明。與さんはそんな日本を変えるためにカミングアウトする決意をしたのだろうとする、LGBTQコミュニティの関係者や識者らの見解を含んだ。

「もし自分がゲイであると認めたら、世の中が自分をアーティストとして認めてくれないのではないかと恐怖を感じることもあった」とコメントした與さん。同紙のインタビューでも「バレたらキャリアが終わると思い、誰にも言えなかった」と語っている。

しかし自らのセクシュアリティについて公にする決断は、ロサンゼルスで生活していくにつれ固まったようだ。「同性愛者のカップルが公の場で自由に愛情表現したり、構築された支援のネットワークを見たりする中で決断した」。

筆者はこのニュースを読み、二つのことを思い出した。

一つは、昨年取材したニューヨーク市内のプライドパレードで見かけた元なでしこの横山久美選手のこと。当時アメリカのプロチームに所属していた横山選手はトランスジェンダーであることをSNSで告白し、アメリカで同性婚を果たした。このプライドパレードにはチームメイトと参加しており、その隣には日本人の妻がいた。

同選手は自らの告白について、YouTubeを通し「あのまま日本にいたら公表しなかった」「(本来の自分を隠し続けることは)生きづらくしんどいと思った」「本当にいろんな人がいるというのを知ってもらいたい」と語っている。

今年から日本国内のリーグに電撃移籍し、帰国したことが伝えられた。プライドパレードで見かけたあの笑顔のままで、日本でも伸び伸びと活躍されることを願っている。

もう一つ、以前筆者が参加したことがあるイベントも思い出した。ゲイの知人に誘われ、ニューヨーク市内にあるLGBTQコミュニティ、The Lesbian, Gay, Bisexual & Transgender Community Center(通称センター)に行った時のことだ。ここでは定期的に勉強会や交流イベントが開催されていて、取材するため知人について行ったのだった。

友人はゲイだがいつか自分の子が欲しいという希望を持っていた。オープンな雰囲気の意見交換会では、同性愛者で子を作った体験者と、これからそのような人生を歩んで行きたい人との情報交換が活発に行われていた。皆で輪になって参加の理由を自己紹介し、参加者は時に弱い自分を見せながら、おそらくよそでは話すのを躊躇うようなこともここでは同志と共有し、生き生きと夢を語り合っていたのが印象的だった(その数年後、知人は我が子を抱いた写真をSNSに投稿していた!)。

今回、東京でのイベントでファンに本当の自分を告白した與さん。「僕と同じ境遇に置かれている方々にも、勇気を持つきっかけにしてもらいたかった。自分は一人ではないということを、わかってほしかった」と語った。今後の彼に幸あれ!

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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