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日本初「体験型ゴッホ展」仕掛け人の「こだわり」とは。新作「クリムト展」NYで明日より

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
クリムトの名画「接吻」が高さ約9メートルの大きさに。(c) Kasumi Abe

世界各地で注目の没入型アート

埼玉で「ゴッホ」展

ゴッホの歴史的な名画を目と耳で鑑賞する、日本初の360度体験型デジタルアート展「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」が、今年6月18日から11月27日まで開催中だ。

会場は、埼玉県所沢市の角川武蔵野ミュージアム。

最新テクノロジーを駆使して作られた映像を、会場の壁や床、柱など360度に投影し、音楽と共に披露されるこのインスタレーションは、イマーシブアート(没入型アート)とも呼ばれ、世界各地で注目されている。

展覧会は現在、日本のみならずパリ、アムステルダム、ソウル、ドバイなど世界各地で開催中だ。

筆者も「体験」したことがあるが、作品は目と耳の両方で感じ、映像は会場全体に(自分の足元の床まで)投影され、アート展というより「ショー」というニュアンスの方が近いと感じた。

見る角度によって作品の見え方がまったく異なるため、歩きながら鑑賞するも良し、ただ座って作品に没入するも良し。自分の好みで楽しめる。

NYでは最新「クリムト」展も

グスタフ・クリムトの作品をテーマにしたイマーシブアートの最新作「ゴールド・イン・モーション(Gold in Motion)」もこのほど完成した。こちらはニューヨークで現地時間9月14日から、約10ヵ月間の予定で開催される。

会場は1912年に建てられたランドマーク的な高層ビルで、最新のデジタルアートセンターとして生まれ変わったばかりのホール・デ・ルミエール(Hall des Lumieres)。ここは、旧・移民産業貯蓄銀行(Emigrant Industrial Savings Bank)で、分厚い扉の金庫室までも展示室としてそのまま残されている。最先端のイマーシブアートと20世紀初頭の歴史的建造物が見事に融合している。

会場全体がアート作品に。(c) Kasumi Abe
会場全体がアート作品に。(c) Kasumi Abe

NYのクリムト展の会場は、1世紀以上前に建てられたボザール様式の歴史的な建物。(c) Kasumi Abe
NYのクリムト展の会場は、1世紀以上前に建てられたボザール様式の歴史的な建物。(c) Kasumi Abe

GUSTAV KLIMT: GOLD IN MOTION | NYC

世界中で開催されているこのイマーシブアート。その仕掛け人は、イタリア人クリエイティブ・ディレクターのジャンフランコ・イアヌッツィ(Gianfranco Iannuzzi)氏。クリムト展でニューヨークに滞在中、話を聞くことができた。

ベニス出身で、仕事で世界中を行き来している以外は、パリをベースに活動するイアヌッツィ氏。イマーシブアートを手がけて8年、アート業界では32年のベテランだ。

そんな最先端のアートシーンを牽引する彼に、作品作りにおいて絶対に譲れないものを聞いた。

まずは場所の選定だ。

プロジェクトの準備に1年かけ、その初期段階で会場選びのため現地に飛び、実際に自分の目で確かめるという。

「これは自分にとって重要な作業です。イマーシブアートはバーチャル体験ではなくフィジカル体験だから、どの街のどのような会場で行うか、自分で確認することはとても大切です」

世界中で展開している作品だが、どれ一つとて同じものはないと言う。

「今日本で開かれているゴッホ展も、昨年ニューヨークで見せた作品とは違います。会場の特性に合わせ、新たな作品として一から作り変えています」

自ら趣き、会場内を歩く。自分の五感で確かめ、瞑想をして心を落ち着かせ、そこから得たインスピレーションを作品に取り込む。

映像と共に流す音楽選びも、自ら行う。

「音楽は体験型アートの大切な要素です。同じヴィジュアルでも、感情を喚起する音楽次第でまったく違う作品として映るからです。自分で音楽も手がけると、イメージや動画、すべての要素を自分の頭の中でつなげる作業ができます」

イマーシブアート・インスタレーションの先駆者、ジャンフランコ・イアヌッツィ氏。(c) Kasumi Abe
イマーシブアート・インスタレーションの先駆者、ジャンフランコ・イアヌッツィ氏。(c) Kasumi Abe

もう一つ譲れないこと。それは初期段階でインスピレーションを得るために、また実際に作品に使うために、会場や素材写真を自ら撮影するということだ。すべての創作はそこから始まる。クリエイティブ・ディレクターといえば現場の総監督といった立ち位置だが、自らがやることが自分にとって大切なのだと言う。そのような地道な作業をアシスタントに任せない理由は、

「自分が欲しいものは自分が一番知っているし、誰かに説明してやってもらうより自分がやった方が早いのです」

自分でやるという姿勢を貫いているのは、ほかにも訳がある。「どういう作品にしていくのか?ストーリー仕立ては?それらを考える時、誰かに頼んでいたらアイデアなど出てきません。想像力が掻き立てられるのは、いつも自分で動いてみた『後』なのです」

一言一句に地位や経験値に甘んじることのないプロ意識と「職人」としてのこだわりが垣間見えた。

撮影で使い分けているカメラは、キヤノン、ニコン、パナソニック。日本が好きで、今年5月も仕事で訪れたばかりだ。「今ゴッホ展が行われている角川武蔵野ミュージアムは、とてもモダンで特別な場所です。10万人もの来場者がすでにあったと聞いてとても嬉しい気持ちです。日本での次回作はおそらく来年、東京やその近郊で行う予定です。ゴッホ展、そして次回作もどうぞお楽しみください」。

(Interview, text, and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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