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NY主要駅で新型コロナワクチン接種。ワクチンツアーの観光客にも好評【筆者の接種体験】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
指定駅に仮設されたワクチン接種会場。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは新型コロナウイルスのワクチン接種を拡大させるために、あの手この手で「ワクチン推進キャンペーン」が進められている。

最新(17日時点)の接種状況

人口の48.1%(1億5782万人)が最低1回の接種。

37.1%(1億2382万人)が1回もしくは2回の接種を「完了」。

ニューヨーク市でも実験的な試みが行われている。「予約なし」で気軽に新型コロナのワクチンを接種できる場として、先週12日から16日まで、指定された主要8駅に接種仮設会場が設置された。

州の発表では、1駅につき1日最大で300回分のワクチンが用意され、15日までに4637回の投与が行われた。この期間中、自国での接種が遅れているとし、日本や南米など国外から訪れ、接種を受けている姿も見られた。

州はこの試みが大成功したとし、より多くの人が訪れた4箇所の駅を22日まで延長し、引き続き予約なしのワクチン接種を受け付けている。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

筆者も16日、指定駅の1つのペンステーションに行き、ワクチンを接種してきた。

アメリカでは先月19日以降、16歳以上なら誰でも接種ができるようになったが、筆者がこの1ヵ月の間に受けなかった理由の1つは、アクセシビリティの問題があった。

接種を受けることは厭わなかった。接種を受けることにより行動範囲が広がり、自分同様に周囲にも安心感を与えられるなどメリットを感じていたし、ニュースを観ればワクチン、ワクチン、人々との間でも毎日のようにワクチンが話題に上るので、否応なしにワクチンのことは常に頭の中にあった。近しい人からのプレッシャー(のようなもの)も日に日に高まっていたので(!)、接種はいつにしようか...と考えてはいたものの、罹患したら重篤化するような健康上の問題があったり高齢の家族が周囲にいるわけではないので、面倒な予約作業をしたり接種会場に足を運ぼうという動機を見つけられないままでいた。

よって最寄りの主要駅で予約なしで今すぐに受けられるお手軽さ(しかもメトロカード=地下鉄7日間乗り放題の特典付き)は、筆者のようなタイプには好都合だった。

駅の接種会場へ

日曜日の午後3時過ぎ、開始時間に合わせて会場の1つであるペンステーションに到着すると、前日よりもっと長い列ができていた。中には、これまでワクチンの優先接種対象となったであろう高齢者も何人か見かけた。

一体どのくらい待つのだろうと、一瞬気が遠くなった。(c) Kasumi Abe
一体どのくらい待つのだろうと、一瞬気が遠くなった。(c) Kasumi Abe

混乱に備えてか警官も何人か配備されていたが、物々しい雰囲気はしない。

並んでいるときに前後数人と会話になったが、ある30代くらいの男性は「利用駅にあるのでついでに来た」ということだった。筆者のすぐ後ろに並んでいたのは、スペイン語を話す4人組で、祖父母入れた家族総出で来たようだ。

あまり長く待つのであれば止めておこうかなという気にもなったが、30分ほどで受付に到達した。

やっと受付に到達。スタッフの中にはスペイン語を話せる人もいたので、後ろの家族もコミュニケーションは問題なかったようだ。(c) Kasumi Abe
やっと受付に到達。スタッフの中にはスペイン語を話せる人もいたので、後ろの家族もコミュニケーションは問題なかったようだ。(c) Kasumi Abe

ここは問診コーナーだ。まず今日の気分を聞かれた。写真付きIDを見せ、氏名、住所、電話番号、生年月日などが確認され、タブレットに情報が入力される。新型コロナに感染したことはあるか、これまでにワクチンでアレルギー反応があったことはあるか、などの質問もあった。難しい質問はなく、5分ほどで終了。CDCのロゴ入りカードを渡され、中程のブース前で待つように指示される。

旅行者らしきスーツケースを持った人たちの姿も。(c) Kasumi Abe
旅行者らしきスーツケースを持った人たちの姿も。(c) Kasumi Abe

中の流れは良いようで、ブース前で待っているとすぐに呼ばれた。

このプロジェクトと提携している市内の医療機関の看護師(もしくは医師)が注射を担当するとされており、私を担当してくれたのは、30、40代くらいの女性看護師(もしくは医者)。彼女にカードを渡す。

とてもリラックスした態度で、今日の体調やこの2週間で新型コロナの症状のようなものはあったか、などを聞かれた。筆者は「両腕に悪寒を感じることはたまにあったけど発熱はなかった」と答えると、彼女はそれは問題ないとし、これから注射するもの(ジョンソン&ジョンソンのワクチンで、1回の接種で完了すること)を端的に説明してくれた。

接種後は奥の待合室で15分座って安静にし、様子を見ること。また副反応として患部が腫れたら、アイスノンのような冷やした不凍ゲルをあてたらいいということだった。ほかに質問は?と聞かれ、特にないと答えると、

「さぁ、どちらの腕に打ちましょうか?」

接種は駅の中に設置された仮設ブース内で行われる。
接種は駅の中に設置された仮設ブース内で行われる。写真:ロイター/アフロ

病院には滅多に行くことのない筆者にとって、久しぶりの注射となる。筋肉注射のため、針が刺さった瞬間は「意外と痛くないんだ」と思ったが、ワクチンを注入する間に少し鈍痛のようなものがあった。それも一瞬のこと。「はい、終わり」。

筆者はカードを受け取りながら、まったく準備をしていなかったが、このような言葉が心の底から自然と出てきた。

「一生懸命に人々のために働いてくれてありがとう!」

「どういたしまして!」と女性看護師も嬉しそう。

笑顔でブースを去った。

ワクチン接種を受けた後に15分間、安静にして様子を見る待合室。写真はクイーンズの駅の仮設会場。
ワクチン接種を受けた後に15分間、安静にして様子を見る待合室。写真はクイーンズの駅の仮設会場。写真:ロイター/アフロ

混みいった待合室で15分間休憩。先ほどのスペイン語を話す家族も接種をし終わっていたが、皆やっと打てたと言わんばかりの笑みがこぼれていた。特典のメトロカードをもらって出口へ。列に並んでから、すべては1時間ほどで終了した。

駅から外に出た瞬間、今の自分は打つ前の自分とは違うような気がし、なんだか清々しく感じた。接種歴カードの写メを送り、近しい人にも報告。「おめでとう!誇らしく思うよ」という声が返ってきた。

当日もらったワクチン接種歴カードとメトロカード。パスポートや運転免許証と同様に、絶対失くせないものの仲間入り。筆者撮影(一部加工)
当日もらったワクチン接種歴カードとメトロカード。パスポートや運転免許証と同様に、絶対失くせないものの仲間入り。筆者撮影(一部加工)

副反応について

今日で接種から3日が経過。あくまでも筆者の個人的なものになるが、以下が副反応と思われる症状だ。

打った夜: 両腕にゾクッと悪寒がしてドヨ〜ンとなり、何となく「コロナに罹ったらこんな感じなのかな?」と思った。倦怠感や発熱はまったくなくいたって元気。念のため、早めに就寝した。

翌日: 打った箇所が少し筋肉痛のような症状が出始めた。腕は普通に上がる。夜、少し両腕に悪寒がした。患部が痒かったが、絆創膏のせいかもしれない。体調は良い。

3日目: 打った箇所の痛みは残っている。常に痛い訳ではなく、腕を真横に上げた時だけ鈍痛がする。腕は普通に上がる。体調は良い。

日本からの観光客もすんなり打てるのか?

アメリカは「7月までに70%の人が少なくとも1回の接種を受ける」という目標に向け、州単位で今後もこのような「ワクチン推進キャンペーン」を続けていくと思われる。

特にニューヨークは、落ち込んだ観光業の立て直しのために、市外からの観光誘致に力を入れている。今後も観光客を含む人々を対象に、さまざまな企画を練っていくだろう。

そうなれば日本の皆さんが気になるのは、「日本から観光で訪れても、ワクチンを接種できるのか?」ということだろう。

答えは「当日の現場」によることもあるため、ここでの明言は避けたい。つまり入国審査と同じようなもので、自分がどのように臨んだかによって、状況が変わることもある。

ただし言えることとしては、筆者が会場を訪れた15日と16日は共に、日本を含む国外からの観光客も実際に接種を受けられていた。またアメリカでは「外国からの観光客だから」という理由で、断られる可能性は低いと思う。万が一断られるとすれば、コミュニケーションを取るのが困難だったり体調不良など「別の理由」が考えられる。

医療や健康に関する重要なことを英語で受け答えしなければならないため、言葉に不安な人は現地の日系旅行会社などに相談するのも良いだろう。また現在、指定駅で接種されているワクチンはジョンソン&ジョンソン製であり、1回のみの接種で完了という利点はあるものの、有効性は2回接種が必要なファイザー製やモデルナ製よりも低いとされている。

日本国内で新型コロナワクチンを接種する場合とは違い、国外では一口にワクチンと言ってもさまざまな種類があるし言葉の壁もある。安易に予約不要だからと「ワクチン接種ツアー」に飛びつかず、まずは自分の接種する「目的」を明確にし(自身の感染や重症化を極力抑えたいのであれば有効性の高いワクチンを選ぶ、など)、それに応じて国外でもいいから1日も早く接種したいのか、また接種するのであればどのワクチンにするのかなどを、今一度考える必要はあるだろう。

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(Text, some photos and video by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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